黄昏トランペット

かかえ

 金管楽器の高らかな一音が、長く長く響いている。

 トランペットだ。そう思ったのとほぼ同時に、わたしの中の冷静な部分が状況を理解した。ああ、これは夢だって。

 視線の先に見えるのは、あり得ないほど大きな夕日。溶けた鉄みたいな色の強烈な光を放ちながら、なだらかな地平線に下のほうだけ沈んでいる。

 周りにはほとんど何もない。建物も電柱も車も。あるのは地面からゆらゆら立ち昇る陽炎と、夕日をバックにトランペットを構えている小さな人影だけ。

 音は一旦途切れて、すぐにまた再開する。ぶれのない綺麗なロングトーン。

 一体どんな人が吹いているんだろう。もう少し近づこうとして、自分の身体が存在しないことにようやく気づいた。そんなこともあるか。だってこれはただの夢なんだから。

 妙に納得したところで、目が覚めた。

 まず視界に飛び込んできたのがメタリックなチューハイの缶で、夢の光景とのギャップに少々混乱する。

 そういえば、ひとり飲みの最中だった。いつの間にか机に突っ伏して、そのまま眠っていたらしい。

 丸めていた背中を伸ばすと、強張っていた筋肉やら骨やらが軋んで鈍く痛んだ。思わず「うっ」と声を漏らしつつ、ごきごきと肩を回す。

 正面のテレビでは天気予報が流れているところだった。明日も暑くなるようだ。もうすぐ秋のはずなのに、と思ってから、わたしは首を傾げた。おかしい。テレビをつけた記憶がない。

「あ、起きた? お邪魔してまーす」

 気の抜けるような声を聞いて、身体をひねる。すぐそばにしゃがみ込んでいた黒づくめの女が、うさ耳のついた派手なスマホを片手にこちらを眺めていた。

 わたしは急な疲れを感じて、深々とため息をつく。

「ちょっと、結衣。来てるならなんで起こしてくれないの」

「だってえ、ミッチーめっちゃ爆睡してんだもん。なんか悪いかなって思って」

 彼女は悪びれる様子もなくそう言うと、流れるようにスマホへ視線を落とした。かと思えば、高速で何やら文字を打ち込み始める。画面に当たる爪の音が、不思議とリズミカルなものに聞こえた。

 結衣とは幼稚園の頃からの腐れ縁だ。かれこれ二十年のつき合いになる。

 実家が隣同士だったため、毎日のように顔を合わせる仲だった。就職してひとり暮らしを始めてからも、なんとなく一緒にいることが多い。

 お互いに合い鍵を持っているので、こんな風に勝手に家へ上がり込まれることも多々ある。今さらなんとも思わない。

 それにしても、あまり綺麗とは言いがたい六畳一間の室内では、彼女の存在はかなり浮いて見える。

 肩で切りそろえられた髪は黒。着ているだぼだぼのジャージも黒。口紅とネイルだけは真っ赤で妙に目立っていた。

 対するわたしは、ちょっと巻いただけの茶髪に無個性なナチュラルメイク。見た目のみならず、性格もまるで正反対だ。どうして友だち続けられてるんだろう、とたまに考えてしまう。

「悪いとかないから。次からは起こしてよ、いい?」

 立ち上がりがてら声をかけたが、結衣は変わらず一切こちらを見ないまま「はーい」と返事をしただけだ。

 聞いてるんだかいないんだか。

 わたしは少し唇を突き出してから、床に散らばった服を適当に避け、洗面所のほうへ向かった。

 もう二十二時を過ぎているというのに、メイクも落としてないし、シャワーも浴びてない。さっさと済ませて寝直さないと、明日の仕事に差し支えそうだ。

 わたしが動くのを待っていたのだろうか、入れ替わるように結衣がテレビの前に座り込んだ。チャンネルをひとつずつ順番に変えていく彼女に向かって、そういえばと話しかける。

「半端に寝たせいか変な夢見ちゃった。夕日をバックにして、誰かがペット吹いてる夢」

 今でもまだ、はっきり覚えていた。目の眩むような朱色の光と、突き抜けるようなFの音。

「ペットって、トランペット? やば。青春かよ」

「それな」

 口調を合わせて返事をしてから、わたしは微妙にずきずきする額を揉む。飲んだのはひと缶だけだったけれど、若干酔っているのかもしれない。

 すきっ腹に酒はまずかったか、などと考えていたところで、結衣が思い出したように振り返った。

「ミッチー昔さあ、夕日に向かってトランペット吹きたいって言ってたじゃん。それでじゃない?」

「え、今さら? 何年前の話よ」

 わたしは少し笑って、彼女の意見を否定する。

 確かに言った。中学時代、吹奏楽部に入ったときのことだ。でも実践はしていない。だって、あれはただの冗談だったから。子どもの頃の、ちょっと大げさな冗談。

 洗面所で鏡を覗き込むと、頬にくっきりと服のしわが写し取られているのに気がついた。無駄だと知りつつ指で皮膚を伸ばしながら、ふと気になって再びリビングのほうへ顔を出す。

「ねえ。今日泊まってくの?」

 結衣は今度こそ聞いていなかった。

 いつの間にか彼女の耳にはイヤホンが突っ込まれていて、シャカシャカと激しい音が漏れている。

 耳は音楽の世界に置いているくせに、視線はテレビに釘づけだ。器用だこと、と感心しつつ、わたしは洗面所の扉を閉めた。


       *


 大学生のときにバイトとして入ったスーパーに、卒業したあとも勤めている。

 肩書きは非正規社員。時短のパートさんや学生の子たちよりもちょっと責任を持っているだけの、不安定な立場である。

 職場の雰囲気は悪くない。スタッフはみんな人との距離感をわきまえているというか、悪い言い方をすれば、他人にあまり感心がない人たちばかりだ。

 昼休みにひとりでいたって、誰にもなんとも言われない。そういう冷めた環境が居心地よくて、低賃金でも他に移ろうという気になれず、気づけばそのままずるずると歳を取っている。

 退勤ボタンを押してバックヤードから外に出ると、ビルの隙間から夕方の鋭い日差しが辺りを照らしていた。

 ふと、夢の景色が重なる。

 太陽の光はあっちのほうがもっと鮮やかで、ずっとまぶしかった。そして何よりも、力強く響き渡るトランペットの音。たったの一音に、目も耳も奪われた。

 わたしは、あんな風にうまく吹くことはできなかった。

 理由はわかっている。うまくなる努力をしていなかったからだ。

 友だちが吹奏楽部に入りたいと言うから、「じゃあわたしも」という軽いノリで所属した。トランペットを選んだのだって、大した理由はない。始めに色々な楽器を吹かせてもらったときに、一番音が出やすかったというだけ。

 それじゃあ締まらないかと思って、周りには「夕日に向かって吹いてみたかったから」なんてそれらしい目標を語っていた。

 でも、本当はなんでもよかったのである。

 一緒に入った友だちはすごく努力をしていて、どこまでも高みを目指していたけれど、わたしにはそういう感覚はまったくなかった。頑張るなあと感心しながらも、真似しようという気持ちにはならなかった。

 どこかに所属できているだけでよかったから。満足していたし、安心もしていた。

 玄関の鍵をあけて家に入る。

 電気はついていない。昨日は結局結衣を泊めてやることになり、今朝出勤するときにもまだいたが、さすがにもう帰ったらしい。

 靴を脱ぎつつ明かりをつけて、無言のまま奥へと進む。静まり返った室内に、手に持ったビニール袋の乾いた音が響く。

 夕飯はコンビニでカップスープを買ってきた。いつも大体こんなものだ。大学卒業と同時にひとり暮らしを始めて三年ほど経つが、自炊はほとんどしていない。

 電気ポットのスイッチを押してから、何か音が欲しくてテレビをつけた。

 ぱっと映ったのはスポーツ番組だった。今話題の若きアスリートが、たくさんのフラッシュを浴びながら笑顔でインタビューに応じている。

 わたしよりも年下なのに、はきはきと自分の意見を話して、目標を語っている。すごいと思う前に、やるせない気持ちが込み上げてきた。

 この人は、きちんと努力をしてきたのだろう。

 中学の頃の友だちみたいに、ずっと前だけを見て生きているのだろう。

 電気ポットが動きを止めた。わたしはカップスープを片手にチャンネルを変える。バラエティ番組の明るい笑い声が、途端に部屋を満たした。

 落とした視線に映るのは、脱ぎっぱなしの衣類に万年床のベッド。明日の朝に出す予定のゴミ。それらを全部無視して、わたしはお湯を注ぎにいく。


       *


 不思議なことに、あれから同じ夢を何度も見るようになった。

 燃える夕日に、トランペットの音。わたしは毎回、遠くに見える人影に近づこうとして、自分の身体がないことに気づく。

 この日は、仕事終わりに結衣と飲みに行く約束をしていた。仕事着から私服に戻ったあとで、わたしは人混みに飲まれるようにして街へと繰り出していく。

 金曜日の夕方。街には独特の雰囲気が漂っている。

 道ゆく人たちはみな、疲れた顔をしながらも、どこかふわふわと浮かれているように見える。まるで、明日から世界が生まれ変わるみたいに。接客業のわたしはあまり共感できないけれど。

 これから向かう飲み屋は行きつけで、ぼんやりしていても足が勝手に連れていってくれるほど、通い慣れたところだった。

 しかし今日は、途中で足が止まった。

 ふと気がつくと、目の前には立派な楽器屋がある。コンクリートでできた無機質なビルが連なる中で、木製の壁の深い色合いが印象的な建物だ。

 正面にあるショーケース内にずらりと並ぶのは、磨き上げられた金管楽器。照明と太陽の光を弾いて鋭い輝きを放っている。

 これだけ目立つのに、どうして今まで気づかなかったんだろう。

 わたしは吸い込まれるように、ガラスのほうへ向かっていた。

 一番目立つように置かれていたのは、なんの因果かトランペットだった。朝顔状にひらいたベルの部分を下にして、目線の高さに飾られている。横には小さな値札がついていた。十万。思ったほど高くはない。

 いつの間にやらガラス面に息がかかるくらい近づいていたことに気づき、慌てて身体を離す。

 いけない、こんなところで油を売っている場合じゃなかった。結衣はああ見えて、時間にきっちりしているのだ。

 居酒屋についた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 年季の入った扉を押しあけた途端、外にまで漏れ出していた喧騒と熱気がわっと強くなる。

 仕事から解放された人間たちで店内はごった返していた。おしゃれさの欠片もない昔ながらの立ち飲みスタイルだが、意外に女子の姿も多い。

 結衣は奥のほうのカウンターで、すでにビールを傾けていた。わたしが隣にやってきたことに気づくと、「おつー」と適当に挨拶しながらメニュー表を渡してくる。

 しょっちゅう会いすぎているために話題があまり思いつかなくて、結衣との会話はいつもどうでもいいことばかりになる。あのドラマがつまらないだとか、あの化粧品はコスパが良すぎだとか。

 そういう話題のひとつとして、わたしは軽いノリで口をひらいた。そのつもりだった。

「前に、夕日とトランペットの夢見たって言ったでしょ。あれ、今でもたまに同じやつ見るんだ」

 また「青春かよ」なんて笑われるのを期待していたから、結衣がいきなり真面目な顔になったのを見て、頬が強張った。

「やっぱりさあ、未練残ってるんだよ。ミッチーは」

 そう言いながら、結衣は持っていた箸でぴしりとわたしを差す。行儀が悪い。

「未練って、夕日に向かって吹きたいって話? でもあれは、ほとんど冗談みたいなもので……」

「違うって。トランペット自体に」

 え? と聞き返したのとちょうど同じタイミングで、頼んでいた刺身の盛り合わせが運ばれてきた。わたしに代わって愛想良く受け取った結衣が、一番肉厚なサーモンをつまんで嬉しそうに頬張る。

 咀嚼して飲み込むまでの動作を終えてようやく、彼女は再び話し始めた。

「夢にはリアルの悩みとかが出てくるって言うじゃん? 心の中ではきっと、また吹きたいって思ってるんだよ。自分で気づいてないだけで」

「ふむ?」

 曖昧に相づちを返しつつ、わたしはまぐろを二切れ小皿に移した。

 確かに、世の中には夢占いなるものもあると聞く。では、わたしはまたトランペットが吹きたいのか? この歳になって?

「うーん。どうかな」

「思い切って、アマチュアの楽団とか入ってみたら? ああいうとこって、週一参加でもオッケーなとこ多いらしいし」

 こちらに向けられた眼差しは真剣そのもので、束の間言葉に詰まってしまった。わたしはなんとなく視線をそらしてから、小さく首を振る。

「やめとく。続かないよ、多分」

 お金もかかるし、時間もない。それに練習はどこでする? 河川敷や公園で吹くのはちょっと恥ずかしい。かといって、カラオケ屋に通うのも大変そうだし。

 否定の理由を次々と頭に並べていたわたしだったが、結衣はそれ以上何も言ってこなかった。ちらりと視線を投げると、彼女はもうメニュー表に夢中だった。

「そういえば、あたし明後日から、メキシコいくんだあ。半月くらい」

 本当にさりげなく言うものだから、ふーんそう、で済ませてしまいそうになった。口に運んでいたジョッキを机に戻し、わたしは結衣のほうへ身を乗り出す。

「……え? メキシコ?」

 結衣はたまに、ふらりと旅に出る。

 国内をバイクで一周したり、海外をヒッチハイクだけで移動したり。女ひとりでは危なそうな国にも平気で行くから、こっちは毎回はらはらする。事後報告なことも多い。

「ネットで友だちできて、会いたいねーってなって。じゃあいくわって」

「大丈夫なの、それ?」

「まあなんとかなるっしょ。ちゃんと怪しげなお土産買ってくるから期待してて」

 にか、楽しそうに笑われると、わたしは何も言えなくなった。それに、止めたってどうせ聞かないだろう。昔からそういう子だ。

 結衣は直感で動く人間だ。短期の仕事である程度稼いでは、旅行や趣味にぱっと使う。

 自由で、行動的。わたしとは大違い。

「気をつけてよ。ほんとに」

 その言葉を最後に、話題は自然と流れた。あとはいつもと変わらない、だらだらした雑談が続くだけだ。


       *


 また夢を見た。

 潰れたトマトみたいな太陽がじりじり地面を焼いていて、その真ん中で誰かがトランペットを吹いている。

 けれど、この日はいつもと内容が違っていた。綺麗なロングトーンがいきなり止まったかと思うと、人影がゆっくりと楽器を持つ腕を降ろしたのだ。

 どうしてやめるの。

 わたしの発した声なき声で、影が初めてこちらを向く。聞こえているのだろうか。わたしは懸命に、誰かに向かって訴えた。

 お願い、やめないで。

 あなたはやめないでよ。

 目が覚めるとひどく疲れていた。

 顔を洗っても、服を着替えても、夢で見た光景が頭から離れなかった。気になって気になって、ついには職場でレジを打ち間違えた。最悪だ。たった五円の誤差でも、久しぶりだったのでかなりへこんだ。

 上司に報告したものの軽く注意されただけで終わり、なんだか余計にずっしりきた。思い切り怒鳴ってくれてもよかったのに。そうすれば、夢のことだって忘れられたかもしれないのに。

 悶々とした気持ちを抱えながら、日の傾いた帰り道を歩く。

 鞄の中のスマホが震えた。取り出して見ると、結衣からの着信だ。わずかに躊躇ってから、耳に当てる。

「はい」

『あ、元気ない。仕事でミスでもした?』

 いきなり図星を突かれた。息を詰まらせたのを咳払いで誤魔化してから、わたしは返事をする。

「……そんなとこ。それよりメキシコの準備はどう? 明日なんでしょ、行くの」

『あんまり荷物ないから平気。あっちに着いたら、友だちの家に泊めてもらえることになってるし』

 だからその友だちというのは本当に大丈夫なのか。

 結衣を心配する言葉が喉もとまで出かかっていたのに、何故かこのとき口から飛び出したのは、まったく別の言葉だった。

「いいなあ。わたしも旅行いきたい」

『いけばいいじゃん。有給、溜まってるんでしょ。たまにはミッチーも仕事休んでぱーっと遊んだら』

「そんなに簡単なことじゃないよ」

 あまりにも口調が固くて自分でも驚いたけれど、止めることはできなかった。これでは八つ当たりだとわかっていても、無性に苛々してたまらない。

「あーあ。わたしも結衣みたいに、自由に生きられればよかった」

 こっちは真っ当に働いているのだ。結衣とは違う。有給を一気に使ったら、他のスタッフに迷惑がかかってしまう。わたしはもう、子どもじゃない。無邪気な夢など持ってはいられない。

 頭の中に言い訳を並べながら、ふいに虚しい気分になる。

 ああ。わたし、なんて寂しい大人になったんだろう。

 さすがに呆れられてしまっただろうか。けれどしばらくの沈黙のあと、結衣はからりとした声で言った。

『自由とか知んないよ。あたしはただ、楽しいほう選んでるだけだし』

 言葉を返せなかったわたしに、彼女は続ける。

『あたし以外に、あたしの人生楽しませてくれる人いないでしょ。みんな自分のことでいっぱいいっぱいだもん』

 結衣はそれだけ言うと、見たいライブが配信されるからという理由でいきなり通話を切った。

 わたしは呆然と、スマホの暗転した画面を眺め続ける。

 子どものままなのはわたしのほうだ。

 なんとなく大人と同じ行動をしているだけで、中身は昔から変わってない。

 友だちに流されて同じ部活に入ったくせに、口では思ってもない目標を語って自分を正当化したり。長く休みをとれない言い訳を、他人の存在のせいにしたり。

 何か言い訳を考えて、それで安心して、自分の行動に始めから終わりまで責任をとらない。楽だからって流されるばかりで。

 でも今さら、どうすればいいの。どうしたら大人になれるのか、これまで誰も教えてくれなかったのに。

 ふと気づけば、足もとに濃い影が伸びている。夕日が明るい。頭の中に、また幻の光景が浮かぶ。

「トランペット……」

 何かに引き寄せられるように、わたしは足を動かした。歩みは少しずつ早くなって、いつの間にか脇目も振らず駆け出している。

 大の大人が全力で走っている姿を見て、周りの通行人はきっと不思議に思っているに違いない。自分でも不思議だ。なんでわたし、こんなに急いでるんだろう。

 目的の場所にたどり着き、息を荒らしながら立ち止まった。

 昨日初めて知った楽器屋がそこにある。毎日横を通っていたのに、気づきもしなかった店が。

 輝きを放つトランペットに触れるように、ショーケースのガラスに手を置いた。

 この衝動も、結衣の言葉に流されただけかもしれない。十万の買い物をして満足するだけかもしれない。

 だけど、夕日に向かってトランペットを吹くことを冗談ではなく本当にしたら、何かが変わるんじゃないかと思った。ほんの少しだけでも、大人に近づけるんじゃないかって。

 ごめん、と結衣に簡単なメッセージを送ってから、重厚な扉を押し開ける。

 ドアベルの軽やかな音に、背中を押された気がした。

                   了

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黄昏トランペット かかえ @kakukakae

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