99%の救出

そうざ

Rescue 99%

「今回はどれだけ救えますかね……」

 散々議論された問い掛けを思わず口にしてしまった。

 完全なる救出が不可能な事は議論の余地がない。そもそも計画立案の段階で完璧さは排除されているのだ。

 細胞一つに至るまで出来得る限りの救済を――それが唯一のスローガンであり、満場一致の妥協でもあった。

「我々は以前、キョウリュウと呼ばれる一連の種を大量救出しようと画策した事があった」

「プロジェクトDSですね」

 ここで言うとは直系血脈第13号世代の事で、とは標準座標時刻換算で約15億8400万時間前の事である。

「あれはさいたる成功例であり、希少な成功例でもあった」

「99%の個体をすんでのところで別星系へ位相転移させたと聞いています」

「左様。惜しむらくも救い損ねた1%は、当該地に於いて化石として痕跡を留めている」

 大量死の回避――それが我々に与えられた栄誉ある任務であり、能力を有す者が負うて然るべき宿命でもあった。事象の地平線領内の星系を全て監視対象とし、マクロからミクロに至るまで有りと有らゆる大量死案件に日夜、目を光らせている。

「残念ながら我々の任務に不成功は付き物だ。例えば、標準座標時刻も規模もかなり異なるが、同星系の後続種に関する――」

「プロジェクトH、及びプロジェクトN……」

「左様。位相転移に狂いが生じ、万単位の個体を救い損ねてしまった」

「同種間闘争に起因する大量死案件をどう扱うか、見直すきっかけになった案件ですね」

「自業自得などという言葉は使いたくないが、生物進化の過程に生ずる大量死は所詮、必然的誤謬ごびゅうに過ぎんのだ」

 以降、自然の摂理に拠ってもたらされる純然たる大量死のみが救出の対象と規定されるに至った。

「今この瞬間にも何処かの星系で無数の大量死が起きている。その全てを把握し、手を差し延べる事は不可能だ。しかし、例え完璧でなくとも、微力であっても、我々は粛々と任務を遂行しなければならない!」

「全力を尽くします!」




「何じゃこりゃーっ!!」

 と或る星系のと或る男が洗面台の前で寝惚けまなこを引ん剥いた。近頃、後頭部が寂しくなって来たと感じた矢先の出来事だった。

 迅速且つ正確な計画に依り、毛母細胞の99%が別星系へ位相転移され、大量死の悲劇を免れた。

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99%の救出 そうざ @so-za

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