第3話



今日も僕は鍛錬だ。


 強くなる方法は自分で考えた。

 正しいことをしているのかはわからない。不安になることもあるけど、決して折れてはいけない。


 唯一、身近に自称冒険者がいるけど……


「ぐがぁ……ぐがぁ……うへへ…」


 半裸で酒瓶片手に雑魚寝していた。


「…らいと、剣筋ぶれてる」


「……」


 あとちょっとでみえそうとか思って凝視してたけどメリルに言われて僕の頭は正常に戻った。


 メリルが隣で木剣を振るのにももう慣れてしまった。

 その振っている真剣な瞳に、この子も剣に何かを求めているのだと感じる。


 同じように上段から素早く振り下ろし…

 足を一歩前に出して突きを放つ。

 そしてそこから横に薙ぐ。


 実戦で使えるものかと言われたらたぶん無理だ。

 しかしこれは剣筋を正しくするための修練。


「まずはこれをブレなくできるように」


 そう言われた僕はそれを信じて木剣を振る。


「…ゼロお姉さんと行ってくる」


「うん」


 最近よくゼロお姉さんとどこかへ行くようになったメリル。

 その理由は、少し前に遡る。



「今日からメリルは私の弟子にするよ!!」


「……………はい?」


「なになにぃ?羨ましくて泣いちゃいそう?なんで僕じゃないんだぁって?いいこいいこしてあげるからね?お姉さんのおっぱいにおいで?ほらほらぁ!」


 唐突に言われた言葉に疑問の一言しか出なかった。

 第一、ゼロお姉さんの弟子?


 女性らしさをなくす訓練?

 それともだらしなさを鍛える訓練?


「剣も碌に教えてくれないのに何を教えるの?」


「…その剣だよ?」


 ……いつもだらしない酒飲みのゼロお姉さんが?

 修行している2人の姿が想像できず、意図せず鼻で笑ってしまった。


「はぃっ隙あり!」


 そういってカンチョーしてくる彼女はいつも通りなお姉さん。


「ふふっ、余裕だねぇ?私の弟子だよ?1ヶ月したららいとくんに勝てちゃうんだからね!」


「…そんなわけない」


 僕は英雄に憧れ、毎日剣を振ってきた。

 それが1番の近道なのかは知らない。

 けど、最近ようやく様になってきたんだ。


 落ちてくる木の葉を剣で捉えることができるし突きだってかなり速いと思う。


 ただ勝ち負けのある戦いをしたことがないからなんとも言えないけど…それでも僕は…この天才に負ける気など毛頭なかった。


「それだけ自信があるなら1ヶ月後勝負しよっか!まぁ?勝てないなら降参でいいけどね?危ないし…怪我もしちゃうかもしれないからね」


 この言葉にはさすがにカチンときた。


 僕が目指すのは強い者。

 誰よりも、世界で一番、どんな敵をも穿つ矛


 そして僕は英雄になって、【五大クエスト】に挑む!


 それの第一歩が目前の少女、メリルを打ち負かすこと。


「やる?」


「やる」


 僕は勝負を受けた。



 ーーーメリルに絶対に勝つ



 自ずとそれは魂へと刻まれ、本当の一歩目になることになる。

 そしてそれはメリルも同じだった。



(らいとくんに……勝ちたいっ)



「んじゃそういうことでぇ」


 そう言って楽しそうにスキップする姿はとても剣を教えられる人には見えなかった。


 しかし少しの安堵と焦燥が入り混じった感情を払拭するため、僕は剣を片手に素振りを始める。


「……くっさっ!!」


「…指をかぐな!!」




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