　葉（よう）司（じ）と太（た）狼（ろう）は言（い）う。

「「ヤケクソだ！」」

　風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は２人（り）の行（こう）動（どう）に少（すこ）し驚（おどろ）く。

（（！））

「この野（や）郎（ろう）！」

「このぉぉぉぉ！」

　葉（よう）司（じ）と太（た）狼（ろう）がそう言（い）うと、風（かぜ）丸（まる）はそのまま龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に地（じ）面（めん）に投（な）げ付（つ）けられ、鬼（おに）丸（まる）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に地（じ）面（めん）に殴（なぐ）り落（お）とされる。

　　ブオン

　　　ドガゴン

　　　　ドガゴ　ゴン

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が地（じ）面（めん）に着（ちゃく）地（ち）すると同（どう）時（じ）に、北（ほく）斗（と）は通（つう）信（しん）機（き）能（のう）を使（つか）って葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「葉（よう）司（じ）君（くん）。大（おお）きい方（ほう）の金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）使（つか）って！」

「うっしゃ！」

　葉（よう）司（じ）はそう返（へん）事（じ）を返（かえ）すと、核（かく）の峰（みね）の部（ぶ）文（ぶん）に片（かた）足（あし）を当（あ）て、踏（ふ）ん張（ば）った状（じょう）態（たい）で龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の力（ちから）を使（つか）い、北（ほく）斗（と）が指（し）示（じ）した金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）を両（りょう）手（て）で浮（うか）び上（あ）がらせる。

　かなりの重（おも）さを両（りょう）手（て）に感（かん）じたが、金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）を浮（う）かせ葉（よう）司（じ）がサッカーのスローインの様（よう）なモーションを取（と）ると、金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）は風（かぜ）丸（まる）や鬼（おに）丸（まる）の落（お）ちた方（ほう）へと飛（と）んで行（い）く。

　　ドガッシャーン

　それを見（み）ていた天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は思（おも）う。

（今（いま）の子（こ）供（ども）の何（なん）と恐（おそ）ろしい事（こと）か……　いやコ（・）レ（・）は……）

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が自（じ）分（ぶん）達（たち）が考（かんが）えていた事（こと）と、少（すこ）し違（ちが）う事（こと）が起（お）きたので驚（おどろ）いてると、スセリが話（はな）しかけて来（く）る。

「アナタ達（たち）の負（ま）けです、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）！」

　スセリがそう言（い）うと、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）はクスクス笑（わら）う。

「ア（・）レ（・）で風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）を倒（たお）したつもりか？」

「いいえ、私（わたし）の鎮（しずめ）守（まもり）の結（けっ）界（かい）の用（よう）意（い）が出（で）来（き）たのです」

　言（い）い終（お）わったスセリは、念（ねん）話（わ）で恵（え）理（り）花（か）に指（し）示（じ）を出（だ）す。

（「恵（え）理（り）花（か）、これから私（わたし）の言（い）う言（こと）葉（ば）と同（おな）じ事（こと）を言（い）って……」）

「「我（われ）荒（あら）魂（たま）尊（のみこと）の比（ひ）売（め）なれば、神籬（ひもろぎ）の事（こと）の葉（は）にて布（ふ）留（る）部（べ）を鎮（しずめ）守（まも）る主（あるじ）と成（な）らん」」

　スセリの言（い）う言（こと）葉（ば）を聞（き）きながら、恵（え）理（り）花（か）は同（おな）じ言（こと）葉（ば）を口（くち）にする。

　そしてその言（こと）葉（ば）が終（お）わると、スセリは恵（え）理（り）花（か）の体（からだ）で手（て）を４回（かい）叩（たた）く。

　　パン

　すると、手（て）を一（いち）度（ど）叩（たた）く毎（ごと）に、破（は）壊（かい）された結（けっ）界（かい）の四（よ）隅（すみ）の場（ば）所（しょ）に、真（ま）っ白（しろ）い大（たい）樹（じゅ）が出現（しゅつげん）する。

　そして木（き）の間（あいだ）に半（はん）透（とう）明（めい）の白（しろ）い光（ひか）りの壁（かべ）が出（で）来（き）、天（てん）井（じょう）が半（はん）透（とう）明（めい）の白（しろ）い光（ひか）りの壁（かべ）に覆（おお）われ、立（りっ）方（ぽう）体（たい）の結（けっ）界（かい）が完（かん）成（せい）した。

「貴（き）様（さま）、何（なに）をした！　身体（からだ）と力（ちから）が……」

　そう言（い）った天（てん）狗（ぐ）丸（まる）にスセリは言（い）い返（かえ）す。

「鎮（しずめ）守（まもり）と言（い）ったでしょう。アナタ達（たち）の力（ちから）は今（いま）鎮（しずめ）られている、そしてアナタ達（たち）はこの結（けっ）界（かい）からは出（で）られない」

「ちっ……　風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）！」

　　ガドン

　　　ゴロゴロ

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）がそう言（い）って風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）の方（ほう）に視線（しせん）を向（む）けた後（あと）、風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）は金（きん）属（ぞく）柱（はしら）を放（ほう）り投（な）げ地（じ）面（めん）の下（した）から現（あらわ）れた。

「この程（てい）度（ど）の障（しょう）害（がい）、此（こ）奴（いつ）等（ら）相（あい）手（て）には丁（ちょう）度（ど）良（い）い」

　鬼（おに）丸（まる）がそう言（い）うと、風（かぜ）丸（まる）はクスクス笑（わら）って続（つづ）ける。

「この状（じょう）態（たい）で言（い）えた義（ぎ）理（り）では無（な）いな。まぁ、俺（おれ）もその言（こと）葉（ば）には賛（さん）同（どう）するが」

　風（かぜ）丸（まる）はそう言（い）いながら浮（う）かび上（あ）がると、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の目（め）の前（まえ）に移（い）動（どう）し、鬼（おに）丸（まる）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に目（め）を向（む）けた。

「戦（せん）闘（とう）馬鹿（ばか）共（とも）には付（つ）き合（あ）ってられん……」

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）はそう言（い）い、ヤレヤレといったポーズを取（と）った後（あと）、恵（え）理（り）花（か）の方（ほう）に錫（しゃく）杖（じょう）を突（つ）き付（つ）け続（つづ）ける。

「とは言（い）え、如何（どう）せ逃（に）げられんのだろうしやるしかないが」

　一（いっ）方（ぽう）、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）の三（さん）人（にん）は、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）を使（つか）って何（なに）やら作（さく）戦（せん）会（かい）議（ぎ）を行（おこな）っていた。

「まず僕（ぼく）が天（てん）狗（ぐ）を倒（たお）す。２人（り）共（とも）、他（た）の奴（やつ）の動（うご）きを止（と）めてくれ」

　太（たい）耀（よう）の提（てい）案（あん）に葉（よう）司（じ）が聞（き）く。

「何（なん）か良（い）い手（て）があんのかよ？」

「任（まか）せてくれ」

　そう言（い）い返（かえ）す太（たい）耀（よう）は思（おも）う。

（僕（ぼく）の考（かんが）えが正（ただ）しいなら）

　太（たい）耀（よう）は恵（え）理（り）花（か）に言（い）う。

「スセリ、思（おも）いっ切（き）り逃（に）げろ！」

　皆（みんな）にも聞（き）こえる声（こえ）で太（たい）耀（よう）がそう言（い）ったのを合（あい）図（ず）に、その場（ば）に居（い）る全（ぜん）員（いん）が動（うご）き出（だ）す。

　スセリが恵（え）理（り）花（か）の体（からだ）を急（いそ）いでその場（ば）から離（はな）すと、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）以（い）外（がい）に風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）も、恵（え）理（り）花（か）に目（もく）標（ひょう）を決（き）め追（お）って来（き）た。

　ガコン

　だが龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が風（かぜ）丸（まる）を、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が鬼（おに）丸（まる）に攻（こう）撃（げき）を仕（し）掛（か）け、追（つい）跡（せき）の邪魔（じゃま）をする。

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は言（い）う。

「その小（こ）娘（むすめ）の意（い）識（しき）さえ奪（うば）えば、結（けっ）界（かい）は……！」

「鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を地（じ）面（めん）に押（お）さえ付（つ）けろ！」

　恵（え）理（り）花（か）に迫（せま）り来（く）る天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は、太（たい）耀（よう）の声（こえ）で視（し）線（せん）を鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に向（む）ける。

　すると鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は天（てん）狗（ぐ）丸（まる）より高（たか）い高（こう）度（ど）で飛（と）んでおり、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）目（め）掛（が）け突（つ）っ込（こ）んて来（き）た。

　　ドッシャ

「ぬぉぉ！」

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は両（りょう）手（て）で錫（しゃく）杖（じょう）を持（も）ち、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）を受（う）け止（と）める。

　しかし鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の爪（つめ）は確（かく）実（じつ）に天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を捕（と）らえ、地（じ）面（めん）に押（お）さえ付（つ）けた。

　　ズガゴン

「くっ、放（はな）さんか！」

　暴（あば）れようとする天（てん）狗（ぐ）丸（まる）と、10数（すう）メートル先（さき）に居（い）る恵（え）理（り）花（か）に太（たい）耀（よう）は言（い）う。

「やっぱりお前（まえ）、アイツ等（ら）より力（ちから）が無（な）いな……　スセリ、危（あぶ）ないから離（はな）れてろ！」

「貴様（きさま）、何（なに）をする気（き）だ！」

　そう言（い）った天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を無視（むし）し、恵（え）理（り）花（か）が50メートル程（ほど）離（はな）れている事（こと）を確（かく）認（にん）した太（たい）耀（よう）は、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）を下（くだ）す。

「こうしておけば他（た）人（にん）に被（ひ）害（がい）が出（で）る事（こと）は無（な）い。鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、鉄（てつ）を溶（と）かす位（ぐらい）の熱（ねつ）エネルギーを、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を抑（おさ）えている自（じ）分（ぶん）の爪（つめ）に！」

　すると鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を抑（おさ）えている爪（つめ）が金（こん）色（じき）に輝（かがや）きだし、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は悲（ひ）鳴（めい）を上（あ）げる。

「ぬっわぁぁぁ！」

　そして思（おも）う。

（確（たし）かにコ（・）レ（・）なら熱（ねつ）エネルギーでの被（ひ）害（がい）は出（で）んな、潮（しお）時（どき）か……）

「アラハバキ様（さま）！」

　　ガツン

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）がそう大（おお）声（ごえ）で叫（さけ）ぶと、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を抑（お）さえていた爪（つめ）が地（じ）面（めん）に着（つ）いた。

　叫（さけ）び声（ごえ）を聞（き）いた風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）は、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の方（ほう）を向（む）いて言（い）う。

「「天（てん）狗（ぐ）丸（まる）！」」

　太（たい）耀（よう）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）する。

「少（すこ）しその場（ば）から離（はな）れろ、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）」

　鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が、太（たい）耀（よう）の命（めい）令（れい）通（どお）りその場（ば）から少（すこ）し離（はな）れると、其所（そこ）には天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の姿（すがた）は無（な）く、在（あ）るのは焦（こ）げた地（じ）面（めん）だけだった。

　太（たい）耀（よう）は思（おも）う。

（……やった）

　そして嬉（うれ）しそうに叫（さけ）び声（ごえ）を上（あ）げる。

「やった、やったんだ。天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を倒（たお）したんだ！」

　風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）はその声（こえ）を聞（き）き、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の方（ほう）に顔（かお）を向（む）け驚（おどろ）いた様（よう）に言（い）う。

「……そんな馬（ば）鹿（か）な！」

「天（てん）狗（ぐ）丸（まる）がやられるなど……」

　そんな風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）に、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が突（つ）っ込（こ）んで来（く）る。

　ガコン　

　それに気（き）付（づ）いた風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）が攻（こう）撃（げき）を躱（かわ）すと、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）は視（し）界（かい）と意（い）識（しき）を風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）に向（む）けたまま、太（たい）耀（よう）に合（ごう）流（りゅう）した。

「やったじゃん太（たい）耀（よう）！」

「太（たい）耀（よう）君（くん）、凄（すご）い！」

　通（つう）信（しん）機（き）能（のう）で葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）に褒（ほ）められ、満（まん）更（ざら）でもない顔（かお）をした太（たい）耀（よう）は自（じ）信（しん）満（まん）々（まん）に言（い）う。

「僕（ぼく）にかかれば当然（とうぜん）さ。さぁ３対（たい）２だ、このままの――」

「待（ま）った。アイツ等（ら）は俺（おれ）と北（ほく）斗（と）で倒（たお）してやる！」

　そう言（い）って太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）った葉（よう）司（じ）に、北（ほく）斗（と）は驚（おどろ）き葉（よう）司（じ）に言（い）い返（かえ）す。

「無（む）茶（ちゃ）言（い）わないでよ！」

「出（で）来（き）る。太（たい）耀（よう）も言（い）っただろう、太（たい）耀（よう）に出（で）来（き）て俺（おれ）達（たち）に出（で）来（き）ない訳（わけ）がねぇじゃん。行（い）くぞ！」

「ちょと、葉（よう）司（じ）君（くん）！」

　葉（よう）司（じ）は北（ほく）斗（と）の静（せい）止（し）も聞（き）かず、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で風（かぜ）丸（まる）に突（つ）っ込（こ）んで行（い）き、北（ほく）斗（と）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）でそれを追（お）う。

　　ガコン

（そんな事（こと）……）

　悩（なや）む北（ほく）斗（と）の眼（がん）前（ぜん）に、鬼（おに）丸（まる）が迫（せま）って来（く）る。

（……今（いま）は迷（まよ）っちゃダメだ！）

　鬼（おに）丸（まる）が小（こ）槌（づち）を振（ふ）り上（あ）げ、攻（こう）撃（げき）体（たい）勢（せい）に入（はい）ると、北（ほく）斗（と）は気（き）持（も）ちを切（き）り替（か）え、鬼（おに）丸（まる）の目（め）の前（まえ）に大（おお）きな金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を出（しゅつ）現（げん）させた。

「俺（おれ）の前（まえ）に壁（かべ）など！」

　　ガゴ

　　　　　ドシャン

　そう言（い）いながら、金（きん）属（ぞく）の壁（かべ）を小（こ）槌（づち）で破（は）壊（かい）した鬼（おに）丸（まる）だったが、壁（かべ）の向（む）こうに狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の姿（すがた）は無（な）い。

（……！）

　それと同（どう）時（じ）に、鬼（おに）丸（まる）は背（はい）後（ご）からの影（かげ）に気（き）付（づ）く。

　影（かげ）の正（しょう）体（たい）は、50メートル程（ほど）の金属（きんぞく）柱（ちゅう）。

　その上（うえ）に狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が居（い）る。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、右（みぎ）前（まえ）足（あし）に鋼（はがね）の爪（つめ）を！」

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の姿（すがた）を確（かく）認（にん）した鬼（おに）丸（まる）は、北（ほく）斗（と）のその言（こと）葉（ば）に行（こう）動（どう）を察（さっ）し、小（こ）槌（づち）で受（う）け止（と）める体（たい）勢（せい）を取（と）った。

（ほぉう、高（こう）度（ど）から切（き）り付（つ）けるつもりか。当（あ）たるかは別（べつ）として、言（こと）葉（ば）に出（だ）した心（こころ）を避（さ）けるのも無（ぶ）粋（すい）だな……）

　鬼（おに）丸（まる）がそう考（かんが）えていると、北（ほく）斗（と）が言（い）う。

「行（い）くぞ鬼（おに）丸（まる）！」

　北（ほく）斗（と）がそう叫（さけ）び終（お）わると、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）から飛（と）び降（お）りる。

　鋼（はがね）の爪（つめ）は鬼（おに）丸（まる）を捉（とら）えた。

　　ガシャン

　小（こ）槌（づち）で狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）を受（う）け止（と）めた鬼（おに）丸（まる）は思（おも）う。

（フフフ、まさか本（ほん）当（とう）に彼処（あそこ）から俺（おれ）を捉（とら）えるとは。これぞ正（まさ）に鬼（おに）の力（ちから）か、……そろそろ）

　　ミシ

　　　　グシャン

　鬼（おに）丸（まる）の小（こ）槌（づち）は罅（ひび）が入（はい）り砕（くだ）け散（ち）り、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）が鬼（おに）丸（まる）本（ほん）体（たい）へ届（とど）く。

「ぐわぁぁぁ！」

　悲（ひ）鳴（めい）と共（とも）に鬼（おに）丸（まる）はそのまま消（き）え去（さ）った。

　　ガゴン　ゴン

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が地（じ）面（めん）に着（ちゃく）地（ち）すると、北（ほく）斗（と）は嬉（うれ）しそうに言（い）う。

「やったぁ、やったんだ！」

「北（ほく）斗（と）、凄（すご）いじゃないか！」

　太（たい）耀（よう）が通（つう）信（しん）機（き）能（のう）で北（ほく）斗（と）にそう賛（さん）辞（じ）を送（おく）り、北（ほく）斗（と）は満（まん）面（めん）の笑（え）みで頷（うなず）き答（こた）える。

「うん」

「後（あと）は葉（よう）司（じ）、お前（まえ）だけだ。自（じ）分（ぶん）で言（い）い出（だ）したんだ、出（で）来（き）るよな？」

　からかい半（はん）分（ぶん）、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）を使（つか）って太（たい）耀（よう）が葉（よう）司（じ）にそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）はムッとしながら言（い）い返（かえ）す。

「当（あ）たり前（まえ）だ！」

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は風（かぜ）丸（まる）と取（と）っ組（く）み合（あ）っている。

「俺（おれ）だけ、格（かっ）好（こう）悪（わる）い所（ところ）見（み）せられるかよ！」

　そう言（い）った葉（よう）司（じ）だが、風（かぜ）丸（まる）への攻撃（こうげき）が上手（うま）く行（い）かない。

　風（かぜ）丸（まる）を地（じ）面（めん）に叩（たた）き付（つ）けようとして、逆（ぎゃく）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は10メートル程（ほど）投（な）げ飛（と）ばされる。

　更（さら）に風（かぜ）丸（まる）は、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）から20メートル程（ほど）距（きょ）離（り）を取（と）った。

（後（あと）は俺（おれ）だけか……）

　風（かぜ）丸（まる）がそう考（かんが）えている一（いっ）方（ぽう）で、葉（よう）司（じ）は悩（なや）む。

（どうすればアイツを倒（た）おせる？　このまま突（つ）っ込（こ）んで行（い）くだけじゃ……）

　少（すこ）しずつ近（ちか）付（つ）いて来（く）る風（かぜ）丸（まる）に、葉（よう）司（じ）は覚（かく）悟（ご）を決（き）める。

（押（お）してダメなら……　更（さら）に押（お）してやる！）

　葉（よう）司（じ）は核（かく）から手（て）を離（はな）し、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に言（い）う。

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、風（かぜ）丸（まる）に突（つ）っ込（こ）め！」

「キュゥゥー」

　すると龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は鳴（な）く。

　そして動（うご）き出（だ）す龍（りゅう）蛇（じゃ）丸（まる）だったが、それと同（どう）時（じ）に葉（よう）司（じ）の体（からだ）を強（つよ）い風（かぜ）が吹（ふ）き荒（すさ）ぶ。

　葉（よう）司（じ）は咄（とっ）嗟（っさ）に核（かく）の剣（けん）の柄（つか）を両（りょう）手（て）で掴（つ）かみ、体（からだ）をその場（ば）に固定（こてい）した。

（うわっ！）

　　ズバコーン

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）通（どお）り風（かぜ）丸（まる）に突（つ）っ込（こ）み、そして風（かぜ）丸（まる）を吹（ふ）き飛（と）ばす。

　吹（ふ）き飛（と）ばされながら、風（かぜ）丸（まる）は考（かんが）える。

（龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の力（ちから）が上（あ）がったか？　いや力（ちから）の制（せい）御（ぎょ）を龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に委（ゆだ）ねただけか。まぁ最（さい）初（しょ）ならこんなもんだろう）

　一（いっ）方（ぽう）葉（よう）司（じ）の方（ほう）は、荒（あら）く息（いき）を吐（は）きながら風（かぜ）丸（まる）の姿（すがた）を探（さが）していた。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

　葉（よう）司（じ）は自（じ）分（ぶん）の心（しん）臓（ぞう）の鼓（こ）動（どう）を感（かん）じながら思（おも）う。

（思（おも）い付（つ）きで、何（なん）でもやるもんじゃ……――）

　そんな時（とき）、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）から北（ほく）斗（と）の声（こえ）がする。

「葉（よう）司（じ）君（くん）、左（ひだり）後（うし）ろ！」

　北（ほく）斗（と）の声（こえ）で、葉（よう）司（じ）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の視（し）界（かい）を言（い）われた方（ほう）に向（む）けると、風（かぜ）丸（まる）が自（じ）分（ぶん）に襲（おそ）い掛（か）かろうと向（む）かって来（き）ていた。

「うぉぉぉぉ！」

　叫（さけ）びながらの風（かぜ）丸（まる）の攻（こう）撃（げき）を、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）で受（う）け止（と）めた葉（よう）司（じ）が見（み）たモノは、無（む）数（すう）に罅（ひび）の入（はい）た風（かぜ）丸（まる）の腕（うで）。

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）を掴（つか）んでいた風（かぜ）丸（まる）の腕（うで）は、次（し）第（だい）に石（せき）化（か）しながら砕（くだ）け散（ち）る。

　　ミシ

　　　　パシャン

「ちっ、腕（うで）が！」

　そう言（い）った風（かぜ）丸（まる）はその場（ば）から離（はな）れようとするが、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）速（そく）度（ど）の方（ほう）が速（はや）い。

「うりゃぁぁぁぁ！」

　葉（よう）司（じ）はそう叫（さけ）びながら、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）を袈裟（けさ）状（じょう）に風（かぜ）丸（まる）に叩（たた）き付（つ）ける。

　その攻（こう）撃（げき）は風（かぜ）丸（まる）を分（ぶん）断（だん）した。

「がはっ！」

　そう叫（さけ）びながら風（かぜ）丸（まる）の姿（すがた）は消（き）える。

「やった……、やったぁ！」

　そう言（い）って喜（よろこ）ぶ葉（よう）司（じ）は、ふと異（い）変（へん）に気（き）付（づ）く。

　（……何（なん）だ？）

　突然（とつぜん）、葉（よう）司（じ）の周（まわ）りが光（ひか）りに包（つつ）まれたのだ。

　それと同（おな）じ事（こと）が北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）の身（み）にも起（お）きている。

　そして、鎮（しずめ）守（まもり）の結（けっ）界（かい）も同（どう）時（じ）に消（しょう）滅（めつ）して行（い）く。

　　★★★★

　気（き）が付（つ）くと葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）、そして恵（え）理（り）花（か）とスセリは、橋（はし）の下（した）に居（い）た紫（し）織（おり）、薫（かおる）、オモイカネの元（もと）に居（い）た。

「どう成（な）ってんだ？」

　葉（よう）司（じ）のその問（と）いに、元（もと）の姿（すがた）に戻（もど）っていたスセリが答（こた）える。

「敵（てき）が居（い）なくなったと判（はん）断（だん）したので、私（わたし）が此方（こちら）に移（い）動（どう）させたのです。結（けっ）界（かい）も臣器（おみき）も元（もと）に戻（もど）してあります」

　葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）の手（て）にはそれぞれの装（そう）飾（しょく）品（ひん）が握（にぎ）られており、３人（にん）が河川（かせん）敷（しき）の方（ほう）に目（め）を向（む）けると、河川（かせん）敷（しき）に在（あ）る筈（はず）の、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が作（つく）った金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）が消（き）えていた。