子供達と神々の神楽 ～序の章～

ちょっと不思議な日曜日

　目（め）が覚（さ）めた恵（え）理（り）花（か）が茶（ちゃ）の間（ま）に行（い）くと、そこにはコーヒーを飲（の）んでいる紫（し）織（おり）が居（い）た。

「お祖母（ばあ）ちゃん、おはよう」

　恵（え）理（り）花（か）がそう紫（し）織（おり）に挨（あい）拶（さつ）をすると、恵（え）理（り）花（か）に気（き）付（づ）いた紫（し）織（おり）が答（こた）える。

「おはよう恵（え）理（り）花（か）。お風呂（ふろ）は掃除（そうじ）し直（なお）したから、男（おとこ）連（れん）中（ちゅう）が起（お）きて来（く）る前（まえ）に入（はい）っておきな」

「ありがとう、お祖母（ばあ）ちゃん」

　恵（え）理（り）花（か）はそうお礼（れい）を言（い）うと、着（き）替（が）えを取（と）りに自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）に駆（か）けて行（い）く。

　紫（し）織（おり）の視（し）界（かい）から恵（え）理（り）花（か）が居（い）なくなると同（どう）時（じ）に、スセリが紫（し）織（おり）の視（し）界（かい）に現（あらわ）れ言（い）う。

「おはよう、紫（し）織（おり）」

「おはようスセリ。そう言（い）えばアンタ等（ら）は眠（ねむ）るのかい?」

　不（ふ）意（い）に紫（し）織（おり）にそう聞（き）かれたスセリは、少（すこ）し考（かんが）えてから答（こた）える。

「人（ひと）の様（よう）にと言（い）う意（い）味（み）なら無（な）いわね」

「あのオモイカネとか言（い）う神（かみ）もかい?」

「そう言（い）えばオモイカネは如何（どう）したのかしら、ククリおば様（さま）の力（ちから）はもう働（はたら）いて無（な）い筈（はず）だけど?」

　そう言って少（すこ）し不（ふ）思（し）議（ぎ）がるスセリに、紫（し）織（おり）は言（い）う。

「まぁ、その内（うち）現（あらわ）れるさ」

　紫（し）織（おり）は近（ちか）くのリモコンを手（て）にして、テレビの電（でん）源（げん）を入（い）れた。

“「所（ところ）さん、今（こん）回（かい）は三（み）浦（うら）半（はん）島（とう）です。因（ちな）みに何所（どこ）だか…………」”

　　★★★★

（……　……　……）

　黒（くろ）沢（さわ）家（け）の客（きゃく）間（ま）。

　北（ほく）斗（と）が目（め）を覚（さ）まし辺（あた）りを見（み）回（まわ）すと、寝（ね）相（ぞう）の悪（わる）い葉（よう）司（じ）が薫（かおる）を蹴（け）とばしていて、太（たい）耀（よう）の姿（すがた）が客（きゃく）間（ま）に無（な）い。

（あれ、太（たい）耀（よう）君（くん）が居（い）ない?）

　太（たい）耀（よう）が居（い）無（な）い事（こと）を不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いながら、北（ほく）斗（と）は起（お）き上（あ）がり葉（よう）司（じ）の足（あし）を持（も）って、薫（かおる）から引（ひ）きずり離（はな）す。

（よし!　……顔（かお）でも洗（あら）ってこようかな）

　そう思（おも）った北（ほく）斗（と）が客（きゃく）間（ま）を出（で）ようとすると、客（きゃく）間（ま）に戻（もど）って来（き）た太（たい）耀（よう）と鉢（はち）合（あ）わせした。

「悪（わる）い。北（ほく）斗（と）、バックバック」

　太（たい）耀（よう）に言（い）われるまま北（ほく）斗（と）が部（へ）屋（や）の中（ちゅう）心（しん）ぐらいまで下（さ）がると、太（たい）耀（よう）は部（へ）屋（や）の引（ひ）き戸（と）をこっそり閉（し）める。

「おはよう太（たい）耀（よう）君（くん）」

　北（ほく）斗（と）がそう挨（あい）拶（さつ）すると、太（たい）耀（よう）が返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「おはよう北（ほく）斗（と）、悪（わる）いが暫（しばら）くは部（へ）屋（や）から出（で）るな」

「どうしたのさ」

　不（ふ）思（し）議（ぎ）がる北（ほく）斗（と）に、太（たい）耀（よう）は少（すこ）し恥（はず）かしそうに言（い）う。

「恵（え）理（り）花（か）が風（ふ）呂（ろ）に入（はい）ってるっぽい、僕（ぼく）等（ら）がもう少（すこ）し気（き）を遣（つか）うべきだった」

「……!　そう言（い）えば結構（けっこう）遅（おそ）くまで起（お）きてたからねボク達（たち）、でもボク等（ら）が先（さき）に起（お）きてて良（よ）かったよ」

　北（ほく）斗（と）は太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）で、客（きゃく）間（ま）を出（で）て行（い）かなくて良（よ）かったと理（り）解（かい）し、少（すこ）し恥（はず）かしそうにそう言（い）った。

「そう言（い）う事（こと）ならテレビでも見（み）てましょうか?」

　不（ふ）意（い）に声（こえ）がした方（ほう）に北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）が目（め）を向（む）けると、凄（すご）く悪（わる）い目（め）つきで薫（かおる）が二（ふた）人（り）を見（み）ている。

「すみません、眼鏡（めがね）取（と）ってもらえませんか？」

　薫（かおる）がそう言（い）ったので、北（ほく）斗（と）は薫（かおる）の眼鏡（めがね）を見（み）付（つ）け拾（ひろ）って渡（わた）す。

「皆（みな）、起（お）きた様（よう）だな」

　今（こん）度（ど）はオモイカネの声（こえ）がしたので、三（さん）人（にん）は声（こえ）の方（ほう）へ目（め）を向（む）ける。

　其所（そこ）には薫（かおる）の祖父（そふ）の手（て）帳（ちょう）が在（あ）り、全（ぜん）長（ちょう）15センチ程（ほど）になったオモイカネが手（て）帳（ちょう）の上（うえ）に立（た）って居（い）る。

　太（たい）耀（よう）は小（こ）馬（ば）鹿（か）にした様（よう）にオモイカネに言（い）う。

「馬鹿（ばか）が一（ひと）人（り）、寝（ね）てるけど」

　太（たい）耀（よう）がヤレヤレと言（い）った様（よう）なポーズを取（と）ると、オモイカネは葉（よう）司（じ）に目（め）を向（む）けクスクス笑（わら）った。

「本（ほん）当（とう）に豪（ごう）気（ぎ）な子（こ）供（ども）だ、皆（みんな）は良（よ）く眠（ねむ）れたか？」

　オモイカネが子（こ）供（ども）達（たち）にそう聞（き）くと、薫（かおる）が答（こた）える。

「私（わたし）はきちんと眠（ねむ）れましたよ。それより宿（やど）り心（ここ）地（ち）はどうです、私（わたし）にとって知（ち）織（しき）は祖父（そふ）のイメージなんですが？」

　薫（かおる）の質（しつ）問（もん）にオモイカネは少（すこ）し考（かんが）えてから言（い）う。

「うん……暫（しばら）く宿（やど）ってみたが、知（ち）織（しき）を書（か）き記（しる）す物（もの）。確（たし）かに私（わたし）が宿（やど）るには問（もん）題（だい）なさそうだ。それにかなりの愛（あい）着（ちゃく）と言うか……愛（あい）を感（かん）じる」

「はぁ？」

　そうオモイカネの言（こと）葉（ば）に返（へん）事（じ）を返（かえ）した薫（かおる）は考（かんが）える。

（そう言（い）えばこの手（て）帳（ちょう）、誰（だれ）から頂（いただ）いたのでしょう？　お祖母（ばあ）様（さま）はこの手帳（てちょう）嫌（いや）がっていた様（よう）な……）

　　★★★★

「べぇぇぇくちゅん！」

　茶（ちゃ）の間（ま）で紫（し）織（おり）が大（おお）きいクシャミをすると、スセリが心（しん）配（ぱい）そうに尋（たず）ねる。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、もう若（わか）くないんだから？」

「アンタには言（い）われたくないよ」

　紫（し）織（おり）は少（すこ）し呆（あき）れた様（よう）にそう言（い）い返（かえ）し、スセリはその言（こと）葉（ば）に微笑（ほほえ）んで更（さら）に言（い）い返（かえ）す。

「あら酷（ひど）い、心（しん）配（ぱい）してあげたのに」

　そして紫（し）織（おり）もスセリもクスクス笑（わら）う。

「そう言（い）えば臣器（おみき）のあの姿（すがた）は何（なに）？」

　スセリは突然（とつぜん）、思（おも）い出（だ）した様（よう）に紫（し）織（おり）にそう聞（き）いた。

「お前（まえ）さん、硬（こう）直（ちょく）していたがロボットを知（し）らんのか？」

　そう返（かえ）した紫（し）織（おり）に、スセリは少（すこ）し強（つよ）い口（く）調（ちょう）で言（い）う。

「いくらなんでもこのご時（じ）世（せい）、神（かみ）々（がみ）でも知（し）ってるわよ。子（こ）供（ども）達（たち）が持（も）って来（き）てたり、分（ぶん）社（しゃ）での祭（まつ）りの屋（や）台（たい）とかで見（み）たりするもの」

「で、何（なに）が不満（ふまん）なんだい？」

　不（ふ）思（し）議（ぎ）がる紫（し）織（おり）に、スセリは力（ちから）強（つよ）く言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「神（かみ）を助（たす）けるのが機（き）械（かい）って如何（どう）言（い）う事（こと）よ。外（そと）側（がわ）だけだからいいようなものの！」

「テレビとかで５時（じ）とか６時（じ）によくやってるからねぇ。まぁ確（たし）かに、あぁ言（い）うモノを見（み）てたらあんな外（がい）見（けん）になるだろうさ。それより良（い）いのかい？」

　そこまで言（い）って紫（し）織（おり）は立（た）ち上（あ）がり、スセリに近（ちか）付（づ）いて耳（みみ）元（もと）で囁（ささや）く。

「ソ（・）レ（・）を彼奴（あいつ）等（ら）に見（み）せる為（ため）に一（いち）度（ど）回（かい）収（しゅう）したんだろ？　そうじゃないと彼奴（あいつ）等（ら）もアンタ等（ら）と同（おな）じ反（はん）応（のう）をしちまうよ。夜（よ）中（なか）の時（とき）は忘（わす）れていたみたいだし」

　その言（こと）葉（ば）でスセリは自（じ）分（ぶん）のやるべき事（こと）を思（おも）い出（だ）す。

｢そうだ！｣

　無（む）意（い）識（しき）にそう口（くち）走（ばし）ったスセリは、念（ねん）話（わ）で紫（し）織（おり）に言（い）う。

（「皆（みな）には上手（うま）く誤（ご）魔（ま）化（か）しておいてくれる？」）

（「あいよ」）

　紫（し）織（おり）がそう念（ねん）話（わ）で返（かえ）すと、スセリは茶（ちゃ）の間（ま）から姿（すがた）を消（け）す。

「さて、そろそろ朝（ちょう）食（しょく）の準（じゅん）備（び）でもするかね」

　そう言（い）うと紫（し）織（おり）は台（だい）所（どころ）へ向（む）かった。

　朝（ちょう）食（しょく）の用（よう）意（い）が出（で）来（き）て数（すう）分（ふん）後（ご）、茶（ちゃ）の間（ま）のテレビでは特（とく）撮（さつ）ヒーローが放（ほう）送（そう）されている。

“「この番（ばん）組（ぐみ）は楽（たの）しい時（とき）を創（つく）る企（き）業（ぎょう）BANDAIと、御（ご）覧（らん）のスポンサーの…………」”　

　赤（あか）と青（あお）と黄（き）色（いろ）のヒーローが映（うつ）っているそのテレビ番（ばん）組（ぐみ）を茶（ちゃ）の間（ま）で見（み）ている太（たい）耀（よう）に、同（おな）じく茶（ちゃ）の間（ま）で朝（ちょう）食（しょく）を摂（と）っている葉（よう）司（じ）が言（い）う。

「だっせえ、小（しょう）五（ご）にもなってこんなもん見（み）てんのかよ！」

「別（べつ）に僕（ぼく）の勝（かっ）手（て）だろう？」

　太（たい）耀（よう）が少（すこ）し怒（おこ）った口（く）調（ちょう）でそう言（い）い返（かえ）すと、北（ほく）斗（と）が太（たい）耀（よう）にフォローを入（い）れる。

「結（けっ）構（こう）面（おも）白（しろ）いよコレ……」

　しかし太（たい）耀（よう）は少（すこ）しムッとしていた。

　茶（ちゃ）の間（ま）のテーブルには５人（にん）分（ぶん）の朝（ちょう）食（しょく）が用（よう）意（い）されており、テーブルを葉（よう）司（じ）達（たち）子（こ）供（ども）が囲（かこん）んでいる。

　テレビばかり見（み）ている太（たい）耀（よう）に紫（し）織（おり）が言（い）う。

「太（たい）耀（よう）。余（あま）りテレビばかり見（み）てご飯（はん）食（た）べないなら、テレビ消（け）しちまうよ」

「すみません……」

　紫（し）織（おり）に怒（おこ）られ、太（たい）耀（よう）は恥（は）ずかしそうな顔（かお）をしながら、ご飯（はん）を箸（はし）で口（くち）に運（はこ）ぶ。

　台（だい）所（どころ）と茶（ちゃ）の間（ま）の間（あいだ）の引（ひ）き戸（ど）を開（あ）け、互（たが）いの部（へ）屋（や）が確（かく）認（にん）出（で）来（き）る状（じょう）態（たい）で、紫（し）織（おり）、スセリ、オモイカネは台（だい）所（どころ）に居（い）た。

「あれが今（いま）の子（こ）供（ども）の娯（ご）楽（らく）と言（い）うものか。絵（え）や玩具（おもちゃ）で見（み）た事（こと）は有（あ）ったが、この様（よう）なモノなのだな」

　興（きょう）味（み）深（ぶか）そうにテレビを見（み）ながらオモイカネがそう言（い）うと、スセリもそれに同（どう）意（い）する。

「私（わたし）もテレビでは始（はじ）めて見（み）るわ」

「スセリ。そう言（い）えば臣器（おみき）は如何（どう）やって扱（あつか）うんだい？」

　紫（し）織（おり）がスセリにそう尋（たず）ね、スセリは葉（よう）司（じ）達（たち）に聞く。

「皆（みんな）、今（いま）見（み）ているモノはどれくらいで終（お）わるのかしら？」

　すると薫（かおる）がスセリの方（ほう）を向（む）いて答（こた）える。

「大（だい）体（たい）30分（ぷん）ぐらいですかね」

「それなら話（はな）しはテレビが終（お）わってからにしましょう。まずは子（こ）供（ども）達（たち）がご飯（はん）を食（た）べ終（お）わった後（あと）」

　スセリがそう言（い）ってから暫（しばら）くして。

　テレビ番（ばん）組（ぐみ）が間（あいだ）のCMに入（はい）り、葉（よう）司（じ）達（たち）は朝（ちょう）食（しょく）を食（た）べ終（お）わると、個（こ）々（こ）にご馳（ち）走（そう）様（さま）をし、食（しょっ）器（き）を台（だい）所（どころ）の流（なが）し台（だい）の中（なか）に有（あ）る、水（みず）の張（は）ったプラスチックの桶（おけ）の中（なか）に入（い）れていく。

　それからテレビ番（ばん）組（ぐみ）の次（じ）回（かい）予（よ）告（こく）が終（お）わるまでの間（あいだ）、葉（よう）司（じ）達（たち）はゴロゴロしたり、貰（もら）った来（らい）客（きゃく）様（よう）の歯（は）ブラシで歯（は）を磨（みが）いて、身（み）支（じ）度（たく）を整（ととの）えたりして時（じ）間（かん）を潰（つぶ）し、恵（え）理（り）花（か）と紫（し）織（おり）は家（か）事（じ）を行（おこな）い時（じ）間（かん）を潰（つぶ）していた。

　恵（え）理（り）花（か）が客（きゃく）間（ま）で、葉（よう）司（じ）達（たち）が使（つか）った敷（し）き布（ふ）団（とん）を片（かた）付（づ）けていると、そこに北（ほく）斗（と）がやって来（く）る。

「何（なに）か手（て）伝（つだ）おうか？」

　少（すこ）し恥（はず）かしそうにそう言（い）う北（ほく）斗（と）に、恵（え）理（り）花（か）は言（い）う。

「それじゃぁそこのシーツ、脱（だつ）衣（い）所（じょ）に持（も）って行（い）って」

「OK」

　返（へん）事（じ）を返（かえ）した北（ほく）斗（と）がシーツを持（も）ち有（あ）げていると、恵（え）理（り）花（か）が本（ほん）心（しん）を口（くち）にする。

「葉（よう）司（じ）君（くん）も手（て）伝（つだ）ってくれれば良（い）いのに……」

　すると北（ほく）斗（と）は少（すこ）し困（こま）った顔（かお）で、恵（え）理（り）花（か）に話（はな）しかける。

「葉（よう）司（じ）君（くん）、こう言（い）うの恥（は）ずかしがるからなぁ」

　すると……

「そう言（い）う事（こと）は、本（ほん）人（にん）に直（ちょく）接（せつ）言（い）わないとダメよ！」

　不（ふ）意（い）にそう言（い）って、スセリが北（ほく）斗（と）と恵（え）理（り）花（か）の視（し）界（かい）に現（あら）われ微（ほほ）笑（え）んだ。

　そして北（ほく）斗（と）と恵（え）理（り）花（か）は、現（あらわ）れたスセリに驚（おどろ）いて大（おお）声（ごえ）を上（あ）げる。

「「わっ！」」

　ドタ

　　ドタ

　　　ドタ

　二（ふた）人（り）の声（こえ）を聞（き）いて、何（なに）事（ごと）かと二（ふた）人（り）の居（い）る客（きゃく）間（ま）に、複（ふく）数（すう）の足（あし）音（おと）が近（ちか）付（づ）いて来（き）た。

「ごめんなさい、今（こん）度（ど）から気（き）を付（つ）けるわ」

　スセリが申（もう）し訳（わけ）無（な）さそうに、北（ほく）斗（と）と恵（え）理（り）花（か）にそう謝（あやま）っていると、部（へ）屋（や）の外（そと）から葉（よう）司（じ）の声（こえ）が響（ひび）く。

「おい、恵（え）理（り）花（か）！　大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）か？」

　そう言（い）って一（いち）番（ばん）初（はじ）めに葉（よう）司（じ）が客（きゃく）間（ま）に現（あらわ）れたので、スセリはクスクス笑（わら）い、後（あと）からやって来（き）た他（た）のメンバーも含（ふく）め、葉（よう）司（じ）にスセリは頭（あたま）を下（さ）げる。

「ごめんなさい、私（わたし）が驚（おどろ）かせちゃったのよ」

　申（もう）し訳（わけ）無（な）さそうに謝（あやま）ったスセリに、葉（よう）司（じ）は言（い）う。

「何（なん）だよ、人（ひと）騒（さわ）がせな……」

　葉（よう）司（じ）がそう文（もん）句（く）を言（い）うと、スセリは頭（あたま）を上（あ）げ葉（よう）司（じ）に頼（たの）み事（ごと）をしようとする……

「本（ほん）当（とう）にごめんなさい。それよりも――」

　しかしそれを、北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）が遮（さえぎ）る。

「ねぇ葉（よう）司（じ）君（くん）、布（ふ）団（とん）しまうの手（て）伝（つだ）ってくれる？」

「おっ……、おう」

　そう少（すこ）し恥（はず）かしそうに答（こた）えた葉（よう）司（じ）を他所（よそ）に、北（ほく）斗（と）はシーツを持（も）って客（きゃく）間（ま）を出（で）て行（い）こうとする。

「それじゃあ、ボクはコレ脱（だつ）衣（い）所（じょ）に持（も）ってくね」

　北（ほく）斗（と）は恵（え）理（り）花（か）にそう言（い）って、客（きゃく）間（ま）を出（で）て行（い）く。

「ほら皆（みんな）、邪（じゃ）魔（ま）だよ」

　通（つう）路（ろ）に居（い）る太（たい）耀（よう）達（たち）にそう言（い）って、脱（だつ）衣（い）所（じょ）に向（む）かった北（ほく）斗（と）を、太（たい）耀（よう）はコッソリ追（お）う。

　北（ほく）斗（と）が脱（だつ）衣（い）所（じょ）に着（つ）き、シーツを手（て）放（ばな）した事（こと）を確（かく）認（にん）した太（たい）耀（よう）は、北（ほく）斗（と）に話（はな）しかける。

「珍（めずら）しいな？」

「付（つ）いて来（き）たんなら、手（て）伝（つだ）ってくれても良（よ）かったじゃん？」

　太（たい）耀（よう）に振（ふ）り向（む）き、北（ほく）斗（と）がそう言（い）うと太（たい）耀（よう）は謝（あやま）る。

「悪（わる）い」

「……ねぇ太（たい）耀（よう）君（くん）、自（じ）信（しん）ってどうやったら付（つ）くかな？」

　真（しん）剣（けん）な顔（かお）をしてそう言（い）った北（ほく）斗（と）に、太（たい）耀（よう）は少（すこ）し呆（あき）れた顔（かお）で言（い）い返（かえ）す。

「それは他（た）人（にん）に聞（き）いた時（じ）点（てん）でダメだろう」

「そうなんだけど……」

　そう言（い）って考（かんが）え込（こ）む北（ほく）斗（と）に、太（たい）耀（よう）は少（すこ）し考（かんが）えた後（のち）背（せ）を向（む）けて言（い）う。

「お前（まえ）なら問（もん）題（だい）無（な）いだろうけど、まぁ無理（むり）はするなよ」

（まぁ恵（え）理（り）花（か）の気（き）持（も）ち次（し）第（だい）なんだけど……、アイツも大（たい）概（がい）鈍（にぶ）いからなぁ。どう言（い）う心（しん）境（きょう）の変（へん）化（か）だ？）

　太（たい）耀（よう）はそう思（おも）いながら、葉（よう）司（じ）達（たち）の元（もと）に戻（もど）って行（い）った。