「新航路」

ロムルス

第1話 1900年 7月27日 ブレーマーハーフェンにて

 ドイツ、ヴェーザー川の河口に位置する港湾都市ブレーマーハーフェン。ブレーメンの港という名前を冠する街から、アメリカへ多くの移民が海を渡った。街には灯台や世界最古の船舶博物館や移民博物館など、ドイツ最大の港湾都市として繁栄するこの街を象徴する施設が多い。

 さて、私は物語をこの街から始めようと思う。ときは1900年7月27日に遡る。ブレーマーハーフェンには、ドイツ各地から義和団鎮圧のために中国に渡る兵士が次々に集結していた。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、彼らの出陣式典において、彼らに次のように語りかけた。

「情け容赦は無用である。皆殺しにしてくれたまえ。千年前、アッティラに率いられたフン族の如く・・・。」と。

皇帝が失言することを予め予見していた帝国宰相ビューローをはじめとする閣僚たちは、校閲後の原稿しか載せてはならないと国内の大手新聞各紙に釘を刺していた、しかし、何らかの経路でメディアに漏れたのか、オリジナルが報道されてしまった。皇帝のこの失言は、第一次大戦期に英仏によって、ドイツ人の野蛮さを象徴するプロパガンダとして、度々利用されることになる。幸い、ドイツ陸軍が中国に着いたとき、もう既に義和団事件は終結へと向かっており、ドイツ軍による特筆すべき蛮行は見られなかった。だが、式典での皇帝の失言が単なる失言ではなく、1900~1945年までの約半世紀のドイツにおける所信表明演説であったことに諸君らが気づくことに、恐らく時間はそうかからないであろう。この軍団には1旅団長として活躍した者がいた。ロタール・フォン・トロータである。第二章では、自ずと彼にスポットライトが当たるであろう!



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「新航路」 ロムルス @spqr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ