第18話 都会に出る時は…知り合いがいれば心強いものですよね? 4

 訪問予定当日、多少早めに宿を出発したおかげで、予定よりも一時間ほど早く10番地区の入り口についた。


 屋外であれば王都のどこにでも転移できるが、そもそもビットナー伯爵邸の詳しい場所を知らない。


 なので少し早めにきて情報収集を行う予定だったのだが...


「なるほど、先日の訪問者が詳しい場所を伝えなかったのはこういう事か...」


 10番地区に繋がる街路には警戒厳重なゲートがあり、その横には


『これより“貴族家の領域ノーブルレギオン”許可なく侵入することを禁ずる』


 とある。どうも警備兵に目的の貴族家まで取り次いで貰うシステムのようだ。


「隠蔽魔法と索敵魔法の併用でビットナー伯爵邸の戦力を推し量るつもりだったが...」


 幾つかの策は用意してきたし、隠蔽魔法でゲートをすり抜けてもいいのだが...後々の事を考え5人ほどいるゲートの警備兵に声をかける。


「申し訳ありません...ビットナー伯爵家に取次をお願いします」

  

 ゲートの警備兵は胡散臭げな目で此方を見ながら、


「ビットナー伯爵家だと!?まず其方の身分証を提示してもらおう。訪問者リストと照会する」


 若干威圧的に身分証の提示を求められたが警備兵である以上誰でもウエルカムな態度も問題だろう。ここは素直に提示する。


「こちらが身分証です...」


 と提示した時、横で僕のことを値踏みするように睨め付けていたもう一人の警備兵が声をかけてきた。


「ビットナー伯爵家の本日の訪問予定者は一人だけだった筈だぞ。しかも“重要対応指定V.I.P.”だった筈だ...なあ、わざわざ伯爵領からどんな案件を陳情しに来たかは分らんが、お前らみたいなのを全員通してたら俺らの首が飛んじまうんだ。今日のところは見逃してやるからおとなしく帰んな。陳情書くらいはこっそり届けといてやるからよ」


 どうも勘違いされたらしい。まあ自分にVIPらしい威厳があるとも思えないのでそれはいい。しかし最初は横柄な人物かと思ったがよくよく聞いてみると此方を助けようしているみたいに聞こえる。強面に見えて案外お人好しみたいだ。


「なあ、悪い事は言わねぇから...」


 そこで人の良い警備兵は同僚にさえぎられる。


『ッ失礼いたしました! 本日のご訪問は3時のご予定と伺っておりますが...』


 少し声が裏返っている。


「ああ、少し早く来すぎてしまいましたね。出直しましょうか?」


「いえ!それには及びません。ご訪問予定は最重要案件指定ですので...」


「それではご案内をお願いしても?」


「はっ。直ちにご案内いたします!」


 こうして少し早めの訪問となってしまった。まあ時間の概念があまり厳密ではない此方の世界だが、遅れるよりは早い方がましだろう。地球だと逆の場合も多々あるようだが...


「おい、私がご案内するからビットナー伯爵家への先触れを頼む。」


「...ああ、分かったよ。」


 お人よし警備兵が、目を白黒させながら走っていった。


――――――――――


「なんだと! もう来たのか? 早すぎるじゃないか!」


「ご本人は出直しも問題ないと仰いましたが...最重要案件指定でしたのでこうして先触れした上でご案内致しております」


 ブランデル・フォン・ビットナー伯爵が先触れの警備兵の報告を聞いて少し声を荒げる。実際のところ想定外ではあるが早い訪問でもさほど困ることはない。早いと困るのは主に心の準備のほうだった。


「父上、落ち着いて下さい。本日はあくまでもです」


「ああ、その通りだな……御仁が到着されたら応接室にお通ししろ。お茶の準備も抜かりなく手配せよ」


 執事長をはじめ、使用人たちに指示を出していく。


 その時部屋の隅で静かに待機していたシドーニエが小さく告げる。


「到着したようです...」


――――――――――


 ビットナー伯爵邸に到着した瞬間...


{索敵魔法の反応がありました。此方の到着を察知された様です...}


 ミネルヴァから報告が入る。


{害意のありそうな人員配置かい?}


{ある程度の警備兵は配置されているようですが...エコーロケーションと集音分析では問答無用の襲撃はなさそうです}


{なら問題ない。とりあえず最低限襲撃されても問題ない様に宿に座標設定して“ムーヴ”をストックしておいてくれ}


{了解いたしました}


 これで準備は整った。後は僕のプレゼンテーション能力でいかほどの条件が通るか...


「さあ、やってみようか...」

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