第7話 道だと思っていたら他人の庭先だった...って事ありませんか? 3

{ミネルヴァ、トライセン王国とグローブリーズ帝国の概要を教えてくれないか?}


{了解いたしました。データを視界に表示します}

 

 ミネルヴァの回答と同時に、各種の概要データが視界に投影される。


――――――――――


『トライセン王国を西、グローブリーズ帝国を東に配する隣国』


『国力比は、(王国 10):(帝国 11.5)』


『トライセン王国は温暖な気候と肥沃な土地を有し、生産した食料輸出を主な産業とする。また西面は海に面しているので、海上貿易も盛んである。総人口は約19万人』


『グローブリーズ帝国は峻険な山岳の中央盆地にある内陸国で、各種鉱山が豊富な産出量を誇る。工業製品等の輸出や、単純な金・銀等の保有量を背景とした豊かな財力を誇るが、内陸部で交易路が少ない為、食料生産を輸入に頼っている。人口は約18万2000人』   


『6年前、先帝の崩御の後、先帝の次男であるフリードリヒ・フォン・グローブリーズが皇帝位を継承。積極的な西進政策を公言してはいないが、小競り合いを繰り返していた』  


『グルム砦はいくつかある帝国と繋がる街道のうち、北方に位置するもので、両国間の山岳地帯を迂回するルート。狭隘地があって使い勝手が良くないルートの為ほとんど交易には使用されない。しかし、それぞれの首都に直結する街道である為、軍事的には要衝である。普段は300人程度で哨戒任務を中心としている。帝国側の動きに合わせて、増員を王都より駐屯させる体制である』

 

――――――――――


(お互いが“足りない物”を補えばいい関係が築けそうなもんだが...隣国の皇帝は野心が強いんだろうか?)


 隣国との関係性をざっくり予習していると...


「即刻王都へ増援を要請!帝国側にいる此方こちらの間者は何も掴んでいなかったのか?」


もっともな疑問だ。


「潜入している間者からのバードメールでは、現在街道に集合しつつある勢力は約3000前後と推察されます。人員に軍装は確認できませんが、これは入念な偽装が施されている為かと思われます。実際には武器・防具等の装備品や糧食等は、街道の途中にあるいくつかの村や町に“数か月単位で偽装しながら集積した物”を進軍に合わせて回収している様です」


「進軍速度と物質の量はどの程度だ?」


「おそらく...約2日でグルム砦に到達すると予想されます。物資の集積具合から推測すると...攻砦戦での継戦能力は一ヶ月はあると考えられます」


「完全に裏をかかれたな。これだけの進行速度では碌に援軍も呼べん。物資の量からして速攻でこの砦を落とし、侵攻の橋頭保とする気だろう」


{ミネルヴァ、バードメールって?}


{相性は存在しますが、生物に対して幼体時から飼育者の魔力(=精神感応エネルギー粒子)を餌に込めて与えると一種の回路が形成され、ある程度の使役が可能になります。この場合は融通の利く伝書鳩だとご理解ください}


{魔法通信機を使わない理由は?}

 

{存在自体が希少で高価、かつ大型な為です。現在の技術レベルでは各国で数台が軍事要衝に設置されるのみです}


 なるほど...ある程度の魔法と魔法技術の進み具合が伺えた。


「コーサカ殿、今の時点で貴方の事をどう処遇すべきかは判断しかねるが、このまま防衛戦に巻き込む訳にもいくまい。グルム砦から王都方面に向かえばいくつかの町もあるし、王都に行けばコーサカ殿の故郷の情報も手に入るかもしれん。私の権限で身分証を発行するので即刻砦を離れていただきたい」


 ビットナー司令官の発言に若干驚きながら...


「よろしいのですか?僕の言い分には何ら裏付けがありません。不本意ながら依然として不審人物のままかと思いますが...」


「はは!確かにコーサカ殿の言う通りだが、正直な所これからの防衛線において不審人物を砦内に置いておく訳にもいかないだろう? 力ずくで拘束できない相手なら丁重にお帰り頂くのが一番だ。若干のやりすぎはあったものの実質被害はないし、誰彼構わず噛みつく粗暴な人間にも見えん。これからは問題を起こさないと誓えるなら不問に付そう」


 なるほど全くその通りだ。


「そして我々には時間がない。ワグナー!即刻軍議を始める。幹部を非常招集!非番の物も全員かき集めろ。フリッツ!コーサカ殿を砦出口まで送って差し上げろ。身分証等は出口まで持っていかせる。急げ!!!」


 どうやら反論の余地はなさそうだ。取り敢えず直近の危難は避けられたようだしお暇しよう。


「お騒がせしました。今後は極力平穏に故郷への帰還に注力すると誓約します」


「まったくだ!このような状況でもなければ、遠方の国の話でも聞きたい所なんだが...我々とは縁がなかったのだろう。二度と会う事もあるまい。旅の無事を祈る」


「武運をお祈りいたします。失礼します」


 そして執務室を後にしてフリッツと私は砦の出口へと歩いて行った。


――――――――――


 砦の出口付近で少し待っていると、ほどなくして身分証が届けられた。ビットナー司令官署名の身分証に幾ばくかの路銀と食料まである。


「お世話になりっぱなしですね。本当に構わないのでしょうか?」


「問題ありません。司令官の指示ですから。あなたの様な方には私もじっくりお話しを聞いてみたかったのですが残念です」


「...不躾かと思いますが、あなたお幾つですか?」


「今年で17歳ですが...?」


「...恐らくこの砦は保たない。怖くはないのですか?」


「...怖いですね。兵士を生業に選んでから実戦は初めてなんですが、始まってもいないのに震えが止まりません」


「それでは何故兵士に?」


「はは!食い詰め農家の四男では実家に居残る訳にもいきません。それに...この国には家族以外にも守りたい人がいますので...」


「なるほど...それでは失礼ついでにもう一つ。僕の魔法を目の当たりにされて...力を貸して欲しいとは思われませんでしたか?」


「...正直に言うと、今も思っていますよ。しかし以前隊長に言われた事があります。“他人の力を当てにするなとは言わん...が、自分以外に力を求めるのは相応の責任と対価が必要だ。そして、それは時に...その場で死ぬよりも大きな災厄を招くかもしれん”とね。この国を守るのが僕たちの仕事なんです。何かを成す前から人に縋りつくのは兵士の仕事ではありません」


「...判りました。長々と益体やくたいもない事を言って申し訳ありません。武運を祈ります」


「お達者で!」


 こうして...僕は砦をあとにした。


 そして、肩にいる叡智を司る同行者に話しかけた。


{ミネルヴァ、幾つか知りたいことがあるんだが...}


{何なりとお聞きください。主殿}

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