第6話

 大通りに出てみてまず目に入ったのが、道路の先に見えるかなり大きな城。ネズミの遊園地の中央に聳えるお姫様のお城に似ている。いや、アレよりはかなり大きいな。目算で距離にして、ざっと1㎞ぐらいか?恐らくあの辺りで何かが起きているようだ。

 近づくにつれ、段々と状況が明らかになっていく。城には黒い鳥のようなモノが飛び交い、時折炎やら爆発などが見えた。何だ、ありゃ?化け物・・・っていうか「モンスター」ってヤツか?動物園には絶対にいないであろう異形の怪物。ゲームかアニメか映画ぐらいでしかお目にかかれないような化け物ども。城がモンスターに襲われているのか?

 城の前は、かなり大きめの広場になっていた。広場の真ん中に四角い板のような壁のようなものが「でーん」と居座っている。四角い壁から次々とモンスターが飛び出していた。

 空中にも地上にも黒いモンスターが縦横無尽に暴れまわり、多数の人々が応戦している・・・ように見える。鉄の鎧で身を固めた、剣士だか騎士だか勇敢な人たちがモンスターの近くで奮闘。離れたところからは白い頭巾と白いマントを付けた人たちが、火やら氷やらを飛ばしていた。おおっ、全身真っ白な「白いモジモジくん」はこの世界にもいるんだ。ちょっと親近感。彼らは魔法使いなんだな。

 しかしこの状況は、どうみても小競り合いという雰囲気じゃない。戦争と言ってもいいぐらいの規模の戦闘だ。いやモンスターが増えているところを見ると、戦争というよりは侵略か?そりゃあ戦えない人はみんな逃げるのも当然だ。あんなところに俺がのこのこ顔を出しても、何か役に立つのだろうか?


 自分の両手を見てみる。ニトリル手袋に覆われた白い手が小刻みに震えていた。そ、そりゃあそうだ。怖いに決まっている。何の変哲もとりえもない現代日本人が、漫画や映像やゲームでしか見たことがない剣と魔法の戦争の現場に出くわしたのだ。・・・この両手には何か能力が備わっているのだろうか?

 静かに目を瞑る。俺は現代日本から理由があって、この異世界に呼ばれたはずだ。絶対に何かのチート能力が身についているに違いない。

俺は頭を振って恐怖を追い出し、ほっぺたを両手で「パン」と叩き正面を見据える。背筋を伸ばして顎を引き、堂々と仁王立ちをした。

 脳内ではとある曲が流れだした。「GRAND SWORD」という曲で、プロレスラー小橋健太の入場曲だ。気分はドーム会場のメインイベンター。トリを務める主役の登場シーン。

 ゆっくりと歩を進め、戦場となっている広場に足を踏み入れる。すると俺のすぐ後ろと前方で何かが爆発する。こういうのは特撮ヒーローものでよくある場面だな。「火薬戦隊ダイ〇マン」だっけ?

 「フン、流れ弾なんかに当たるかよ」

 俺は不敵に口角を上げる。アドレナリンが出まくっているのか、不思議と落ち着いていた。


 俺の姿に気付いたであろう一人の現地白いモジモジくんが、俺の方を向きながら何かを言っている。よく見ると現地白いモジモジくんは、白いローブを身に着けていた。向こうの方が偉そうだな。俺も白いカーテンでもマントにして羽織ればよかった。

 手招きしたり黒いモンスターを指さしたりしているところを見ると、仲間だと思われたようだ。敵と認識されるよりはいいだろう。

 俺は会場のファンの雰囲気を確かめるように、周囲を見渡す。

黒いモンスターが多数、城側だと思われる人間たちと戦っていた。敵のモンスターは二本足で立って歩く黒いトカゲ。ご丁寧に鎧と剣を持っている。リザードマンってヤツだっけ?

 馬よりもデカい図体で、背びれの付いたトカゲに騎乗しているリザードマンもいるな。デカいトカゲは火を噴いていた。

城側の人間も果敢に応戦している。ばんえい競馬のような巨大な馬に跨った騎士も奮戦していた。よく戦っていられるな、と逆に感心してしまう。

 空ではプテラノドンのような翼竜に乗ったリザードマンと、ハーピーやグリフォンなどの単体で飛べるモンスターが城を直接襲っている。人間側は弓矢や魔法で対抗しているようだ。いやはや、すげえ迫力。


 さて、どこから助太刀しようかと考えていると、突然空気が変わったようなとてつもないプレッシャーを空から感じた。

 モンスターを含めた戦場にいる全員が気づいたようで、一斉に動きを止めて同じ上空を注視する。


 キラリ。


 一瞬、空の一点が光ったかと思うと、何かが猛スピードで戦場に向かってきた。

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