第3話 前世

 彼は不遇だった。物質的には上の下くらいであったが、精神を軽く病み執着的な性格もあって、自分も周りも幸せにならなかった。

 彼は医師であり、その国では人口1000人に対して一人から二人程度の医師が存在し、標準的な世帯の二倍弱の可処分所得があった。しかし前述の通り、幸せとは言えなかった。幸せを感じる感受性は人並みにあるが、周囲の為になることを目指しすぎ、ワークライフバランスを崩した。

 気付けば晩年にさしかかり、一般的な医師の平均寿命である69から74歳で亡くなる。

 残された妻や子どもは寂しくも時に楽しい幸せな人生をおくれるだろう。彼のためにもそう祈りたい。

  

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