第5話 森の幸

 森は奥の方が良い物があるので、今日はどんどん奥に進みます。

 薬学科の助教授は乗騎の山羊に乗っていますが、学生は徒歩で老師様の手勢の戦士系と同じに歩いています。フィールドワーク慣れしているのでしょう。

 疲れませんかって聞いたら、この辺りまで来れたら、疲労回復剤やら精力剤やら作り放題だそうです。ドーピングの専門家でしたね。


 途中で採集したり、不運な魔獣が老師様の幅広の短槍の餌食になったりしましたが、無事に午前中に大イノシシの生息域に到達しました。

 老師様の槍は八角形の柄と穂先が一体形成で、灰色の金属製なのですが、刃の部分だけ白銀の白さです。ファンタジーな金属で出来ていると思われます。

 奥の方は木がみんな樹齢ウン千年くらいの大木になって、森の中はすかすかで歩き易いです。頭の上は全部枝と葉っぱで覆われていて、昼なお暗いけど。


「嬢ちゃん、あそこじゃ。お、こっち見おった。気付かれたがまだ逃げんか」

「あそこの辺の木だけ細いって訳じゃありませんよね」

「この辺りは一緒じゃよ」


 だとしたら、二トントラックより大きそうなんですが。体当たりされたらまた転生しそう。

 でもあれが自分と老師様を比較して、あっちが逃げるのね。


「では、行きます」

「何時でも」


 老師様がスタート姿勢を取られます。霊気を溜めた指輪を見せてもイノシシは動きません。この距離では何も出来ないと思っているのでしょう。うっかり動いて老師様に追い掛けて来られる方が危険と判断したようです。

 威力が上がったのでしょうか、発射の時に「うわん」くらいの音が出るようになりました。同時にイノシシの前足、こっちから見て左なので右足が爆発しました。


 斬ったり突いたりと違って、爆発なのでイノシシが転びます。高速移動した老師様が無防備な喉を突いて、後頭部から血が噴出したのが見えました。

 短槍はそこまで刺さっていませんから、気が突き貫けたのでしょう。


「収納! 来い!」


 呼ばれた従卒の人が走って行きます。獲物を収納して、満面の笑みの老師様が戻って来られました。


「さて、一旦下るか。雑魚が寄せて来るで」


 ちょっと早足で戻ります。


「嬢ちゃん、斑狼が来とるで、まぶしいのやっとくれ。学院の者はそのまま下れ」


 手勢の人達も薬学科と錬成科の護衛に付き、収納を背負った従卒二人と老師様が残ります。もちろんわたしとロンタノも一緒ですよ。

 ちょっと待っていると、口の大きな胡麻毛のヒグマサイズのオオカミさんが、おうおうと野太い声を出しながら迫って来ました。


「嬢ちゃん、ええか」

「はい、何時でも」

「よし、撃て」


 サーチライトを浴びた先頭集団が転び、後続がぶつかります。従卒の人をわたしの護衛に残して、老師様だけが混乱した群れに踊り込みました。

 短槍を振り回しているだけなのですが、オオカミの群れから血飛沫と悲鳴が上がります。穂先から見えない闘気の刃が出ているのでしょう。

 十数匹倒されたら残りは逃げました。


「足前としては上出来じゃ。今日は帰るか」


 今日はこれで帰れるんですね。明日はどうなるんでしょう。

 帰ったら、イノシシとオオカミとどちらの鎧が欲しいか聞かれました。

 イノシシの方が重いけど防御力が高く、どちらも佐官くらいじゃないと持っていない装備なのですが、獲るのに貢献していれば装備して構わないそうです。

 わたしに攻撃が当たるようなら、どちらを着ていても同じようなので、軽いオオカミ製にしてもらいました。

 老師様は砦の守備隊長と不穏な話をしています。


「他にここで獲って面白いのは、古老狒々くらいか」

「あれを獲って頂ければ、しばらく雌のみの魔獣が減るのですが、動きが掴めません」

「海に行くまでおりそうな奥を探し、おったら倒すか」

「よろしくお願いいたします」


 足長ゴリラのボスザルがランクアップしたのがいて、雌だけの魔獣の孕ませ役をしているそうです。

 イノシシがいた辺りをうろついていれば、遭ったり遭わなかったりなので、海に行くまで今日とあんまり変わらない日が続くようです。

 十日ほど森をうろついていたら、サーチライトの省エネ版のフラッシュが出来るようになりました。単体攻撃用に使います。

 樹冠が危険なので森の中を伺っている妖女鳥や、邪鬼女の元になった猿鬼女なんかがぽそぽそ出て来ます。

 猿鬼女は日本人でも色白なくらいの肌の、オナガザル的な太くて長い尻尾の人型モンスターです。こちらも人間攫って生き血を吸うので、見たら獲ります。

 どちらも普通は攻撃霊法が当たらないところから様子を伺っているのですが、フラッシュからの老師様の威圧で落としてさっくり。薬学科が何かします。


 半月ほどして、守備隊長が老師様に更に不穏な話をしました。


「水瓜の陽だまりの辺りで古老狒々を見た者がおります」

「雌が減ったで、様子見に来たか」


 何かの拍子に大木が倒れると、結構広い空き地が出来ます。森の中で日当たりが良くなるので、普通の場所には生えていない物が生えるのですね。

 今まで入っていた場所より森の霊力量から見れば少し浅いのですが、西に距離があって、時間を掛けて行く費用対効果が低い所のようです。その上それなりに危ない。

 討伐目的で行って、だめだったら陽だまり水瓜採って帰って来ることになりました。

 普通の水瓜の値段はスイカくらいなのですが、陽だまり水瓜は高級マスクメロンくらいの価値があります。

 森を監視する巡視隊の人達が小遣い稼ぎに採って来るのが普通で、今回も戦士系ばかりだったので襲われなかったのでした。

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