エピローグ “手紙”

 ――ずっと、開けられない『手紙』があった。

 しっかりと封がされてあり、その中を知る者はこの世でたった1人だけの『手紙』。


 母がキセイへ向けて遺した最後の言葉であり、ずっと開けるのを拒んでいた代物。


 なぜ拒んでいたのか。それは怖かったからだ。

 可能性としてはかなり低いが、もしかしたらそこにあるのは恨み言かもしれない。母が最期の最後に放った恨みが、その紙に書かれているかもしれない。

 あり得ないと、絶対に無いとは言い切れない。何故なら、キセイは家族を見殺しにしたのだから。


 今でもその認識を変えるつもりはない。

 父や妹を見殺しにし、母を安らかに逝かせることができなかった。それは紛れもなくキセイの罪で、絶対に忘れてはならないものだ。


 ――しかし、だとしても。そんなキセイに希望を託してくれる存在もいる。

 未来を、キセイなんかに渡してくれた存在がいる。


 だからこそ、慎次キセイに立ち止まることなど許されない。

 逃げることなど、諦めることなど絶対に許されない。


 キセイは突き進まなければならないのだ。

 全ての邪神を倒すその日まで。全ての石を集めるその日まで。どんな困難が訪れても、どんな苦痛を浴びたとしても。



『手紙』を開ける。



 慎次キセイは壊れてしまった地下の穴蔵からなんとか紙切れを見つけ、母の『手紙』を探し出せた。

 そうして封を開け、所々焦げ付いてしまっている白い紙の中を見る。

 目を開け、そこに書かれてある文字を見て――。



 いつの間にか、泣いていた。



 希望を託され、未来に生きると誓った青年は大きな涙の粒をその頬に流していた。

 堪えきれなかった。我慢できなかった。


 真横には、親友の阪口シンタがいる。彼にも邪神や清神のことを全て話した。話し、その上で「協力する」と言ってくれた。

 だからまず最初の協力として、キセイの穴蔵にある『手紙』を一緒に探してくれと頼んだのだが、早速その頼みをキセイは後悔する。


 涙を見られた。恥ずかしい。


 母の『手紙』を見て号泣している姿を親友に見られてしまい、同時に頬を染める。

 しかしシンタはそんなキセイに対して何も言わず、ただ暖かい目でゆっくりと見つめ――。


「『              』か。良いお母さんだな」


 と、『手紙』の内容を改めて読み返してから自身の感想を溢す。

 するとキセイは涙を拭い、その場で立ち上がってから、


「オレは生きなきゃ。なんとしてでも」


 そう呟いた。


 母の暖かい想いが込められた『手紙』に。

 これから共に戦ってくれる親友に。

 希望を教えてくれたユリンに。

 そして、未来を与えてくれた彼女に。


 その全てに対し、キセイは言い放った。

 雄々しく、確かな瞳を携えて。



 ▽ △ ▽



 ――こうして、慎次キセイの最初の物語は幕を閉じる。

 これからも彼には様々な困難が訪れ、苦痛と相対する。しかし、一度ここで区切りを付けておく方が良いだろう。


 邪神を倒すと決め、石を集めると決め、清神ミライの意思を受け継ぐことを選んだ。

 自らで地獄の道を選んだ彼の生き様を、是非見届けてほしい。


 行く末を、その最期を。

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