神殺しの叛逆者たち

池下ジュン

第一部 “希望の星”

プロローグ “もう一度”

 男が目を覚ますと、目の前には見知らぬ人間がいた。


「――は?」


 短く、それでいて情けない呟きを男は溢す。


 意味が分からなかった。

 何故、自分の部屋に見たことのない怪しい人物が立っているのか。

 何故、怪しい人物は血しぶきが付着した覆面を被り顔を隠しているのか。

 何故、覆面は仁王立ちのままこちらをじっと見つめているのか。


「な、なんなんだ……お前は」


 意味が分からず、ただひたすらに混乱したまま男は覆面に向かって問い掛ける。

 月明かりが眩しい深夜。薄い布団から起き上がり全力の威勢で問う男に対し、覆面は――。


「っ!」


 勢いよく飛びかかってきた。

 男との間にさほど距離は無いにも関わらず、大袈裟に床を蹴って男の上へ飛び乗り、


「――絶対に死なせるな!」


 そう叫び始める。


「きっとあいつは鍵だ! あいつこそ希望なんだ! 皆を救う、希望になる存在なんだ!」


「は? な、何を言って……」


「お前を助ける! 手助けする! だからお前はあいつを守ることに力を使え! 絶対に死なせるな! ヒデトたちを喪いたくないなら、絶対にあいつを死なせるな!」


「だから、お前はいったい何を……っ」


「世界を救うのはお前じゃない! 皆を救いだすのはきっとタイヨで――」


 瞬間。突如として覆面の体は光り始める。

 目映く輝き、その四肢が白い光そのものに包まれていく。


「覚えておけ! あいつは、タイヨだけは死なすな! 絶対に守り抜け!」


「だ、だから何を言って……っ」


 消える。消えていく。覆面の体を次第に光が侵食していき、遂にはその覆面すらもマトモに見えなくなって、


「絶対に掴み取れ! オ――」


 消滅する。

 覆面はその存在を丸ごと目の前から消し、


「っ!」


 かと思えば直後にその白い光は男の頭に衝突し、


「っ――」


 気絶する。

 男は目映さと騒がしさから解放され、静けさと虚しさしか残らない記憶の奥底へと眠った。


 まるで、何事も無かったかのように。

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