第19話

「さて、談笑はここまでにして……近く、何か事を起こす予定があるなら共有してほしいんだが……何か予定はあるか?」


豪快に人の背中を叩いていたレベッセンは真剣な面持ちを作り直し、近くのソファに腰を掛けた。


それを見て私も腰を下ろし、近くの私の行動についての共有を始めた。


「バッカス侯爵からパーティーの招待状をもらってな。出席しようと思っている。」


「ん?あのパーティーにお前も出席するというのか!?」


私が今後の行動について言うとレベッセンは驚いたように前のめりに問いかけてきた。


静かに頷くと頭を抱え、深いため息を吐いた。


しかし――――――


「”も”、というのはどういうことだ?私だけでなくお前もバッカス侯爵のパーティーに赴くつもりなのか?」


私が気になったのは他でもない。


私は単純に近寄らないのが吉と交流を避けていた上、向こうもあまりにこちらに関心がなかった為バッカス侯爵との接点はなかった。


が、レベッセンは違う。


容姿端麗、眉目秀麗。


と、一般的にはそんな評価を受けるレベッセンは男色家で美しいものが好きなバッカス侯爵にはお近づきになりたい一人だった。


それをもちろんレベッセンが理解していないはずもなく、パーティーにはずっと不参加を貫いてきた。


が、どういうわけか今回は参加をすると言い出したのだ。


その理由を気にならないほうが無理があるというものだ。


「黒薔薇騎士団の管轄だから知らなくても無理はないだろう。数年前からだ。見目のいい子供たちがこぞって事故死、または誘拐されていてな。もちろん見目がいいものが狙われることなど珍しくはないが……貴族の子供は嫡男以外の容姿のいい”少年”たちが事故死しているんだ。」


レベッセンは静かに立ち上がり、近くの執務机の引き出しを引き、神の束を取り出した。


そしてその紙の束をそっと私に渡してきた。


「…………一部は知っているな。」


死者リストを見ると随分と多い。


(10年ほど前から起きている事件のようだが……気になるのは貴族の子供たちが強盗や事故により顔の判別ができないほど遺体が損傷している、という点か……。)


恐らく世間でこの件が騒ぎ立てられていないのは確固たる事件性が持てないからなのだろう。


誘拐というのはひどく痛ましいが、平民の間ではよくある話だ。


更に中には誘拐を主張し、その裏で子供は生活の為に売ったなどという話もあるため、あまり誘拐事件に関しては自警団や騎士団も動かない。


余りにも多いために毎回対応できないというのがひどく悲しいことだ。


しかし、貴族の件でまるで噂になっていないのはおそらく、王室側からの口止め、そしてその対価として十分に捜査が行われているという事なのだろう。


でなければ貴族の息子に起きた悲惨な事故が仮にも騎士団の団長である私の耳に入らないわけがない。


(美少年だけが事故に合っているという点ですべての事故や強盗は同一のものが裏で糸を引いている事件だったと貴族も王室も判断しているんだろう。が……)


その尻尾はまるでつかめていないようだ。


そして……――――――


(一部私が知っている子供については葬儀が行われている。が、行われていない貴族たちはおそらく――――――)


「死んだのは自分の子供ではなく自分の子は生きている。そう思っている家紋の子供たちが葬儀を行っていない、ということか。」


貴族ならばそういった訃報は漏れず伝えられ、大々的な葬儀が行われる。


が、それがないという事は恐らくそういう事なのだろう。


そしてそんな私の予想は間違っていないのか、レベッセンは首を縦に振った。


「顔が判別できないほど損傷していた遺体を見た親の一人に子供の死を受け入れられないものがでてね。基本的に貴族であれば子供の世話を直接するものは少ない。が、子供の死を受け入れられなかった親というのが金銭的に余裕がない貴族でね。自分の子ではないことを願いながら遺体を調べ、自分の子供であればお尻に黒子があるはずと探したんだが……。」


「……なるほど。見つからなかったのか。」


最初は小さなきっかけだったかもしれない。


けれどそれにより何者かの計画的犯行なのではないかと推測が建てられ、それを知った息子を失った親たちが遺体が自分の子供のモノではないという仮説を立て始めたのだろう。


そして訃報を出さず、何らかの理由で社交界には出ていない状態になっているということだ。


「計画を企てた犯人を見つけるためにも家族を失った貴族たちには協力を頼んでいてね。でもまぁ、考えるまでもないと思わないかい?こんなことをする可能性のある人物なんて――――――」


酷く嫌悪感たっぷりに笑みを浮かべながら問いかけてくるレベッセン。


何ならレベッセンは随分と前から確信があったのだろう。


しかし、証拠がずっと見つけられなかった。


故に動けなかったと考えるのは用意だ。


だが―――――――


「バッカス侯爵の周りには何もやましいところがなかったが、私の持ってきた話で状況が変わった、というわけか。」


バッカス侯爵は金持ちだ。


しかし賢い男ではない。


そんな男が巧妙な手段で罪を長らく隠し通すことは不可能だろう。


だが、もし協力者がいたのなら?


「「ファントム」とつながっている協力者がいるのなら話は別だ。リン、どうだい?私とバッカス侯爵の屋敷に乗り込まないかい?」


「…………情報が得られる可能性は少ないかもしれないが、良いだろう。」


相当な馬鹿ではない限り貴族を招く邸宅に犯罪の証拠などおいておくはずがない。


パーティーに参加したところで何か成果が得られるとは思わない。


が―――――――


「決まりだね。かけてみるとしましょうか。バッカス侯爵が思っているほど知略に長けた人物でないという事に。」


あくまで力があるのはバッカス侯爵の富が目的の協力者の方で、バッカス侯爵が愚か者であれば…………。


そんな淡い期待を私たちは抱き、お互いに共闘の握手を交わすのだった。

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