data013...要救助者

『いた!』


 ボクらの前方に蜘蛛型メタリアルが二体、袋小路に追い詰められた人影が見えた。


「ゼロハチ! !」


 マリンの言葉の意味がわかった。蜘蛛型メタリアルは、無策にも横並びになっていた。


『《機能act》メタリアルバスター!』


 ボクの突き出した右手の指が内側に折り畳まれると、複雑な動作を経て、バスターモードへ移行。


 ヒュイインと駆動音が鳴り、すぐにエネルギーのチャージが完了し、極大のエネルギー放たれた。


  ズギュゥゥゥーーーン!!!


 ボクの右腕から青く輝く大出量のエネルギーが放出されると、見事に二体の蜘蛛型メタリアルを貫いた……! と油断した時だった。


【 敵性対象接近でござる! 】


「ゼロハチ! 後ろ!」


 二人が敵の接近を知らせてくれて、ボクはとっさにエアバイクのハンドルを強くひねって急発進させたが、間に合わず後部を


 エアバイクを止めたのは、ゴリラ型メタリアル。巨大な両腕でエアバイクの後部を掴んで、バランスの悪い短い足で踏ん張っている。


『マリンこっちへ!』


 後部座席に座っていたマリンを抱えると、ボクはエアバイクから飛び降りると、ゴリラ型メタリアルはその剛腕でエアバイクをグシャ!と握りつぶすと、大爆発して粉々になった。


『危なかった……』


 間一髪のところで脱出。

 爆炎と白煙で視界がゴリラ型メタリアルが見えなくなった。あっちからボクの位置もわからないはず。


「あれ? ゼロハチ、動けるの?」


『メタリアルバスターを途中で止めたら、少しだけエネルギーに余裕が出来たみたい。でももう一度打てるような余裕はないと思う』


 そう言ってる間に、白煙の中からゴリラ型メタリアルがボクらへ急接近。

 マリンを抱えたまま、紙一重で振り下ろされた巨大なパンチを避けると、廃ビルの壁に巨大な穴が開いた。


『危なっ!』


 強い……けど、ゴリラ型メタリアルの設計ミスなのか、パンチの振りに移動速度がついてこれていない。スペック頼りで戦闘シミュレーションが苦手なメタリアルだと、ボクは瞬時に理解した。


 って、なぜ家庭用ロボットのボクに、格闘の知識があるんだろう。わからない。


 だけどボクの身体は意思とは関係なく、再度繰り出されたゴリラ型メタリアルのパンチを掴むと、体重移動を駆使してその巨体をぶん投げた。


「ゼロハチすご! 今のって合気道って奴だよね?」


『そう、みたい……』


 なんで家庭用ロボットのボクに、格闘の知識があるのかは不明だけど助かった。って、うかうかしてられない。何か武器は……。


『ムサシ、メタリアルソードは出来る?』


【 エネルギー残量不足により不可でござる 】


『ダメか……』


 ドゴーン! と激しい音がして、瓦礫の山からゴリラ型メタリアルが飛び上がってきた。その見た目から防御力も相当高いみたいだ。


『どうしよう』


 奴を倒すすべがない。ボクはマリンを抱えて逃げ出そうとした時だった。


[ 警告 エネルギー残量不足 ]


 突然、全身からガクッと力が抜けると、抱えてたマリンが腕の隙間から滑り落ちた。


「わっ!」


 まずい……!

 

 そのボクの様子を見て勝利を確信したのか、ドンドンドン! とゴリラ型メタリアルがゴリラのようにドラミングを行うと、両腕が赤く輝きボクらに向かって飛びかかってきた。


『ムサシ! マリンを連れて……』


 言いかけた時、突然ボクの目の前からゴリラ型メタリアルが消えた。


「ひっ! 人型のメタリアル?! まさか、白い悪魔?!」


 いきなり背後から声に反応して振り向くと、ヘルメットに白衣姿の女の子が鉄パイプを持ってカタカタと震えていた。


「う……」


 ドサッという音共に、突然マリンが辛そうな顔に冷や汗を浮かべて倒れてしまった。


『マリン?!』


【 発熱者を検知 心拍数低下 要救助でござる 】


 ムサシがマリンの症状を伝えてくれる。


 そうか。マリンがボクらをこの子の側までテレポートしてくれたんだ。


 ドゴーン! とボクらの居たであろう場所で砂煙が舞い上がる。ゴリラ型メタリアルの攻撃が、ボクらのいた場所を攻撃したんだろう。


「って、え? マリンさん?! 酷い熱……。サイキックシンドロームになりかかってますね」


『あの、貴方は……?』


 マリンを知ってそうな白衣の女の子は、近寄ったボクに対して異常に怯えた。


「ひぃ! あ! 殺さないでください! ごめんなさい!」


『落ち着いてください。ボクはゼロハチ。マリンの仲間です』


 なるべく騒がないでもらいたいけど、エネルギー不足で満足に身体が動かせない。


「……ほ、本当に?」


『はい。ジュドーとマリンを救助して、ロレア極東支部に寄ってきたところです。いまは第七セクターへ人命救助に向かってる最中でした』


「あれ? エネルギー不足ですか? インジケーターが点滅してますけど」


『はい、先程クモ型メタリアルを倒した際に……』


「ちょっと待ってください。えーっと確か……ありました!」


 白衣の女の子は、ガサゴソと背中の大きなリュクを漁ると、銀色の缶詰を取り出してきた。


『あの、ボクはロボットなので缶詰は食べれなくて……』


「え? E缶知らないのですか?」


『E缶?』


 女の子はE缶の蓋にあるプルタブを起こすと、ピコピコと何やら電子音が鳴り、缶に青い光のラインが走った。


「ほら飲んでください!」


『え? 飲むんですか? ボクの口は何かを摂取するためではなくオブジェクト指向の音声を……』


「早く早く!」


 なんだかこの子はマリンと似てるところがあるな……。そう言えば、マリンの名前も知ってたみたいだから知り合いなのかな。


『……頂きます』


 ボクは渡されたE缶を受け取って口に流し込むと、不思議なことが起こった。身体が喜んでいると表現したら良いのだろうか。全身に力がみなぎる。


[ エネルギーの残量が最大になりました ]


『あれ、動く……』


「当たり前ですよ。E缶だもの」


『え、あのE缶って……』


【 敵性対象 接近中でござる 】


 白衣の女の子に話しかけた時、ムサシが警告を発した。そうだった。ゴリラ型メタリアルがまだ……。

 お、エネルギーが復活してるし、もう一度メタリアルバスターで……。


【 遠方より敵性対象増加。撤退を推奨でござる 】


『え……。ぞ、増援?』


 まずい……。ここでまたエネルギー切れを起こしたら、今度こそ……。


「囲まれる前に逃げましょう。避難施設があるから案内します。私はそこに逃げる途中だったの」


『わ、わかりました。ムサシ、悪いんだけどゴリラ型メタリアルを遠ざけることはできる?』


【 可能でござる 】


『じゃあ、お願い。適当にボクらから離したら戻ってきてね』


 ムサシに敵の誘導を頼むと、ボクはマリンを抱えて白衣の女の子について歩き出した。

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