data004...マリン

『行っちゃった……』


 ボクには飛び出ていくジュドーを、ただ見守るしか出来なかった。なぜなら、マリンを頼むと言われたからだ。マリンを置いてジュドーを追うことは出来ない。


『えっと、マリン。どうしよう?』


「ジュドーのバカ……。はぁ、仕方ないわね。戦闘音が聞こえたら逃げるわよ」


 ボクはただの家庭用ロボットだ。人間が決めたことには従わなくてはならない。反論するなんて思考回路は持ち合わせていないはずなのに、ボクの頭脳はマリンに従うことを拒否した。


『助けに行かないの?』


「勝てっこないわよ。ゼロハチのバスターだって、一度撃ったらすぐに次を撃てるわけじゃないんでしょ?」


『そうだけど……』


「ならジュドーを囮にして逃げるしかないわ……。私は絶対に死ぬわけにはいかなの」


 マリンはそれだけ言うと、その場に座り込んでしまった。


 死ぬわけには行かない? 二人はどんな事情でこんな廃墟を歩いていたんだろう。危険なロボットがいるってわかっていながら……。


『あの、マリンとジュドーって何者なの? どうしてマリンは囲まれてるってわかったの?』


「私は、ジェネティックノイドと呼ばれる遺伝子改造人間なのよ。この見た目だけど生物的な年齢は21歳よ」


 21歳? 人間で言えば大人の部類なのに、マリンの容姿はどう見ても子供だ。それに遺伝子改造? この時代にはそんな技術が確立してるんだ……。


「私はフラスコの中で産まれた人間。この時代を生き抜くため、遺伝子操作により飢餓耐性、免疫耐性、回復力強化などあらゆる機能が人間を超えているわ」


『すごい……! マリンみたいな人がたくさんいれば、この世界でも生きられるんだね!』


「もう無理よ。私のいた東京第七セクターはメタリアルの襲撃で壊滅したわ」


『そんな……』


「ジュドーは、私を作った研究者のうちの一人なのよ。まぁ、親代わり? 兄妹? みたいなものね」


 フラスコの中で産まれた女の子……。マリンがたくさんの子を産めば、どんな環境でも生きられる子が増えるって事かな。


「なぜ囲まれてるか、わかったのかって話だったわね。ジェネティックノイドである私には、いくつかの特殊能力が備わってるの」


 するとマリンは、落ちていたスプーンを拾ってボクに見せると、ぐにゃっと先端が曲がりポロっと落ちた。


『あ! これって超能力?!』


「そうよ。これは人間が数億年かけて進化の果てに開花するはずの能力、第六感と呼ばれるものね」


 博士に入れてもらった1900年代のデータの中には数多くの超能力に関するデータがあった。あの年代はマジックや超能力のブームがあったらしい。


「囲まれてるかわかったのは、能力のうちの一つ《千里眼》によるものよ。とは言ってもそれほど遠くを見れるわけじゃないけど」


『なんの機械の助けもいらずに、そんなことできるなんて、すごいよ!』


「まぁ欠点もあるわ。疲れやすかったり連続で使えなかったり、眠くなりやすかったり」


 その時だった。


 パン!

 ギュイイイイン!


 ボクの耳に戦闘音が聞こえてきた。


「始まったのね?」


 ボクの様子を見てマリンが察すると、腰を上げてボクの背中に登ってきた。


「じゃあ、逃げるわよ」


『……マリンは、本当にそれでいいの?』


「助けれるなら……、助けたいわよ。唯一の家族だもの」


 そう言ったマリンの声は、とても悲しい声だった。


「でも、私がここで死んで人類の希望が途絶えたら、それこそ東京第七セクターのみんなは無駄死にになってしまうわ。それだけは避けたいの!」


 語尾を強めたマリンの声とは裏腹に、ボクの肩を掴むマリンの細い腕は震えていた。


 ……ボクはただの家庭用ロボットだ。なぜかバスターなんて危険な兵器を搭載しているし、1330年間の記憶もないけど、それでも変わらないものがある。


 それは、ボクが人間のために作られたってことだ。

 それだけは唯一ボクの中で不変なものだ。だから見殺しになんて出来ない!


『マリン。ジュドーを助けに行こう。ボクは人間を幸せにするのが目的なんだ。マリンにもジュドーにも幸せな気持ちでいてもらいたい!』


「……はぁ、わかったわよ。どうするの?」


『えへへ、ボクには戦闘に関する知識がないから……』


「丸投げってわけね。言うことだけは立派なんだから。いいわ、やるだけやってみましょう」


『うん! ボクに出来ることがあったら教えて!』


「そうね。あなた他にどんな機能があるの? 私の超能力と組み合わせて何ができるか、急いで調べるわよ」

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