第3話 ナガノさんー何もしない、と決めた者
「そろそろ選ばなきゃいけないのね……」
「はい。選択次第では早い段階で消滅します」
ナガノさんは映像を長時間見続けてくたびれている様子だったが、チュートリアルさんは冷静に伝えた。
「じゃあ私は『何もしない』にするわ」
「『何もしない』で、よろしいですか?」
チュートリアルさんは、ナガノさんが即座に決断した事には少し驚いたが、いつもの通り最終確認を行った。
「『何もしない』がいいわ。冒険とか世界を救うとかピンとこないのよね」
「承りました。『何もしない』で転生いたします……」
ナガノさんはどこか他人事だったが、チュートリアルさんは黙って見送った。
風がさわやかに吹き、草の香りが漂っている。
さながら絵本のような世界だと、ナガノさんは感じた。
(あら? 向こうに何か見えるわ?)
気になったので近づいて見ようとしたその瞬間に彼女は消滅した。
「さっきまで目の前にいた女の子はどこに行っちまったんだ?」
「そんな子いたかしら? 気づかなかったねぇ」
ナガノさんの後ろを歩いていた行商人夫婦は不思議そうな顔をしていたが、その不思議な少女の存在は次の村に到着するまでにはすっかり忘れてしまうだろう。
草原は風に包まれて、変わらず心地よい。
「何もしないって難しいんだねぇ」
ナガノさんの顛末にシマダは同情した。
「この方の後に何もしないと選ぶ人は一人も現れていません」
「と言うか、具体的なアドバイスはしちゃいけないの?」
変わらずに輝きを放っているチュートリアルさんに尋ねた。
「そうですね。ここでは、
・決めた事を否定する
・悩んでいる方に忠告する
・行く末を助言する
と言う事は禁じられています」
少し鈍い光を放ちながらチュートリアルさんは言った。
「チュートリアルさんも色々大変なんだねぇ」
「はい」
シマダに同情を向けられたが、チュートリアルさんは何の感情も示さず答えた。
「だけど、これはいよいよ難しいなぁ。言葉を選ぶときは慎重に考えなきゃだねぇ」
たかが言葉、されど言葉なのだ。シマダは頭を抱えて悩んだ。
「時間制限はございませんので、どうぞ思い切り悩んで下さい」
「時間無制限って言うのも酷なんだよなぁ。とりあえず次の人を見てもいい?」
チュートリアルさんに言われて、シマダは深く悩む事をやめて次を促した。
「わかりました。次の方はこちらです。『普通の生活をして普通に過ごしたい』と言われた方の物語です」
再び2人は光に包まれる。
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