第27話
「世莉さんのラインを知りたいって男子がいるんですけど」
私は先程、皆藤心に世莉さんのラインを教えてくれとしつこく、それはまあしつこく頼まれたことを思い出した。
ついでだし、世莉さんにはこの話だけ聞いてからお帰り頂こうではないか。
「あー、そうなの?」
「はい。どうしますか?」
「ごめんけど、ラインはやってないって言っておいて」
「…………? え、やってますよね?」
私のラインの友達欄の中には確かに「世莉」という名前が存在したはずだけど。
「ほとんどの人には教えてないから、やってないみたいなものなの。そういう人は断っても聞いてくるからそうしてるってこと」
「あー、なるほど…… そういう……」
確かにやってないと言えば、それまでなのかもしれない。
もし私が皆藤心サイドの人でも、じゃあラインの代わりに電話番号かメールを教えてくださいよーとは今どきならないような気がする。
なんだか少し可哀想な気もするけど、皆藤心には正直に無理だったと言うしかない。
これでもう水嶋椿は役に立たないやつだと諦めてくれればいいんだけど。
「あ、椿ちゃんは特別だから教えてるんだよ」
「…………ども」
「なんせ私のラインを知ってるのは家族と椿ちゃんくらいだからね」
「………………ええ」
別に世莉さんの特別枠に入れてくれなくても大丈夫なんだけど。世莉さんにラインくださいってお願いしたわけでもなく、気がついたら勝手にライン追加されてただけなんだけど。
「だから椿ちゃんも家族と私以外のライン消してよー」
「重たい彼女みたいなこと言わないでください」
「それは彼女になってもいいってこと?」
「そんなこと言ってません」
なんで付き合うとか、彼女がどうたらこうたらっていう話になったんだか。
何が狙いでそんなこと言ってるのか知らないけど、世莉さんの思い通りになると、面倒事が増えるということだけは分かる。
わざわざ面倒事に首を突っ込むほど、私はできた人間ではない。
「私って付き合ったら結構尽くすタイプだよ?」
「間に合ってます」
「毎日椿ちゃんのことだけ考えるよ?」
「嘘つかないでください」
「椿ちゃんのこと好きーって全校生徒の前で叫べるよ?」
「絶対にやめてください」
「じゃあどうしたら付き合ってくれるのー! せっかくヒーローの格好までして椿ちゃんの家まできたのにー!」
そう言いながら、じたばたと手足を動かしている世莉さんは子供そのものだ。
「はあ…… いいですか? 世莉さんは好きじゃない人とでも付き合えるかもしれませんけど、私は違うんです。それに私には日和っていう好きな人がいるんです。そこらへん分かってます?」
「分かってる。分かってて言ってるの」
「タチが悪い性格ですね」
「私もそう思う」
そう思うなら、改めようとか思わないんだろうか。きっと思わないんだよな。
「んー、じゃあ椿ちゃんは日和のどこが好きなの? 教えてよ」
「……………………まあ、全部ですかね」
言うかどうか迷ったけど、話すことにした。
日和のことを好きだと堂々と言えるのはものすごく不服な形ではあるけど、世莉さんの前だけだし、どうせなら多少思ってることを言って心を軽くするのも悪くはない。
「全部とは?」
「顔とか性格とか行動とか全部」
「なら私は? 私も日和に似てるよね?」
「顔だけですね。性格と行動がほぼ違いますから」
ほぼというか真逆くらいに違うんだけど。
「じゃあ私が性格も行動も日和に似てたら好きになる?」
「んー、たぶんならないです」
「どうして?」
「日和じゃないから」
日和が日和であることに意味があるわけで。日和そっくりな人物がいたとしても、その人と私の間になんの関係も思い出もない。
「難しいなあ」
世莉さんがそう言ったと同時に、部屋に私たちの声よりも倍くらいの大きな音が鳴り響いた。
どうやら私のスマホからみたいだ。
「ちょっとすみません」
私は世莉さんに背中を向け、『日和』と表示されていたスマホの画面をタップする。
『椿っ!』
「わっ。日和? どうしたの?」
電話越しから伝わってくる日和の声はやけに温度が高い。
何かあったのだろうか。
『すごいことが起こっちゃったの!』
「どうしたの?」
『実はさ……』
「うん」
『私、先輩と付き合えることになった!』
「…………………………へ」
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