第13話 不審な男
「この男は逮捕して正解ですね」
「どういうことですか!?」
「なんだと!?」
レナの一言に、その場にいた誰もが驚愕を露にした。
早く解放しろと訴えていた男でさえ、顔色を悪くしながらもレナの発言には驚きを隠せなかった。
「いえ、推理でもなんでもなくて大変申し訳ないのですが、社交界の場所でその男性を見かけたことがないのですよ。ええ、残念ながら私の短い人生の中で、ただの一度も見たことがないんです」
「えっと………そういわれましても」
レナの発言は、確かに推理でもなんでもなくさらに言えば根拠もない。ただ、書類上には存在するはずのその男を、レナが知らなかったというだけの話だ。それだけで、男を逮捕できるとはレナ自身欠片も思っていない。
それでも、レナはこの男をこの場に留めることに躊躇はなかった。
「何言ってんだよ!俺はその、社交界とは無縁の生活を送っていただけなんだ。だから、お前が俺のことを知らなくても仕方ないだろっ⁉」
「そうですね、その理屈でいえば私に対してそのような態度を取るのも、致し方ないことですね」
「はぁ?」
「しかし、今のその対応ではっきりしましたね」
本当に社交界に出ていないだけでも、レナを前にしてこうも上から命令できるような対応をする人間はそうはいない。日本という傀儡の国を超えた先からくる権力者か、それ以外には本当のバカしかいない。
そしてこの男は、残念ながらバカなのである。
「あまり権力を振りかざす事はしたく無いのですが、私にそのような態度をとって無事でいられると本気でお思いなのですか?」
「はぁ?ただの小娘がっ!」
レナが高圧的な態度を示せば、それに反応して男の態度はどんどん大きく、そして感情は荒ぶっていく。そんな二人を見守る周りといえば、レナの正体を知っている人間は震えあがり、名前だけでも知っている人間は震えている上司たちの姿を見て、今にでも逃げ出せないかと考え始めていた。
本来レナの持つ権力はそれだけ強大なのだ。本人が誇示しないだけで。
「さて、では簡単な証明をしていきましょうか。あなたは社交界に出ていないといいましたが、それはおかしいですね。ログを調べてもらえれば分かりますが、あなたは昨年行われた探偵学院主催のパーティの場に出資者として出場していましたよね」
「あ?あーー、そうだったか?」
「ええ、間違いなく」
レナの発言を受けて慌ただしく動き出す周囲。資料を確認するもの、その時のパーティーの出場者を調べるもの。そして、レナと男の会話の議事録を作成する者。
齢20にも満たない、しかし才能あふれる環境下においても他の追随を許さない才能を持つ少女の言葉はそれほどに重みがあった。
「さて、資料上では貴方の年齢は21歳ということでしたが間違いないでしょうか?」
「は?何言ってんだよ、俺の年齢は23だ」
「ええ、そうでしょうね」
「は?何言ってんだよお前は」
あえて間違えた年齢を確認して、そのミスをあっさりと肯定するレナ。その態度に、男はおろかその場にいる衛兵たちもどうしたものかと、首を傾げるばかりである。
「そういえば最近私の両親が不幸にあったのですが、我が家にあった負債の返金はどうされるおつもりですか?」
「その件については、貴方に返済すればいいのではないですか?あなたの家に対して負債があったので、そのままあなたにシフトするはずですが?」
「いえ、契約書の内容を確認しましたがあれは両親と貴方の間で結ばれた契約です。確かに両親が不幸になった以上は私に引き継がれますが、まだその処理はしていないですからね」
「あ?......そうだったか?」
「ええ」
契約書の内容まではしっかりと把握していなかったのか、それともそういったフローがあることを把握していなかったのか。
しかし、統治層で生きている人間がこんなにも無知蒙昧で生きていけるのか。人の上に立つ人間として、そのままでいいのか。どう考えても教育不足としか言いようがなかった。
明らかな疑問、そしてその疑問こそレナが確信をもって男を捉えるという選択を決定させた。
「さて、容疑者さん。今なら自首ということにしてあげますが、どうしますか?」
「はぁ?」
「え?」
「ど、どういうことですかっ!?」
男が何かを隠していることがあるのはわかりきっていることだが、その内容を証明できなければしょうがない。内容が証明できないのであれば、それは犯罪として認められないからだ。
「何言ってんだよっ!お前は俺を助けるために来たんじゃねぇのかっ!」
「はじめはそのつもりでが、残念ながらあなたを見て資料を見た直後気が変わりました。さて、残念なことにあなたの犯罪が明らかになる上に、探偵側としても一つ恥をさらすことになりますが、私はあなたを正当に裁くために全力を出しましょう」
力強く、レナは宣言するのだった。
そして、天才はこの事件を解決に導くために、己が手腕を披露する事となる。
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