残滓

6-1.なれる



 あなたは現在サティとメシエに挟まれて移動しています。それはあなたが言った暗闇の中にいると人間は狂ってしまうという発言をサティが真に受けていてあなたのプライベートエリアを侵食する勢いで詰めてきています。

 なるほど。これがガチ恋距離というやつか。それはそれとしてここまで近いと普通になんか嫌だななどと変な落ち着き方をしたせいであなたはちょっと引き気味ですがもう一人はもう一人でしっかりと袖を掴んでいるので今更なのですが。


『やはりこの地は特殊な力の影響下にあるようです。歩きづらいですね』

『……えっとねコツがあるんだよ』

『……ふむ。こうです、いや、こう』


 単純に底の厚いブーツでは暗くこの凸凹とした土の斜面は歩きにくいだろう。そもそもどうやらメシエにはこの環境は合わないらしい。

 あなたがどうしたものかと考えていましたがその前に自己解決したようです。あなたは彼女の流石の対応力に舌を巻く思いです。


『この環境については継続調査を行います。まずはそちらの調査を行いましょうか』

『穴……なんだろう、居住するにしては低い、よね?』


 あなたの方を向いて確認するサティですがあなたにもわかりません。確かに穴の中を照らしてみた印象では一段低くなっているという事もなくあなたの知らない様式でした。 


『んー? 生活感無いなあ。どう?』


 当然あなたの目から見てもそういったものは見つけられません。何者かが生活していたのであればあったであろう火を使う場所や水を使う場所、寝所などもパッと見た限りでは見当たりません。


『建材は石、木材などは極一部にあるくらい。機械類も無し。データ参照……該当なし』

『……こちらも該当無し。隣調べたら次いこっか』


 パッと見てすぐに隣へ向かう二人を追いかけるあなたでしたが、出入り内と思われる柱の一部に何かしら不自然に刻まれたものを発見します。

 あなたの知る文字ではなく、どちらかといえば直線をひいて組み合わせたようなものがいくつかあり、楔形文字が一番近いでしょうか。

 一応カメラに収めた後は二人の後に続きますが二人はすぐに退き返してきました。


『特に変わり映えはしないかな』

『一つ調べれば十分でしょう。私は中央に行きます』

『あ、じゃあ私は横穴で』


 あなたはつい口を出してしまいます。

 別々に調べるんだ。


『? その方が効率的では?』


 あれ? さっき一緒に行動するのがどうとか言ってなかったっけ。


『あ、そっか。じゃあそうしよっか』


 あなたはほんの少しの呆れと案の少しの安堵が混じった溜息をついてしまいます。

 目の前の女性二人は見目も麗しいうえにハイスペック、おまけに揃いも揃って独立不羈ふきの女傑です。旧知の間柄というのもあって詳しい話も必要とせずに連携できる察しの良さも備えています。だからこそみんなで協力して何かをしようとしているのだとあなたは思ったのですが。いやなんでこんな灰汁の強そうなやつらをグループにしたんだ。

 さてあなたは二人の向かった中央と呼ぶ神殿へ向かいます。緩やかな坂道を登っていますが道が舗装されているわけでもありませんので手元のカメラが絶妙に歩きにくいその足元を映したままであったことに気付きます。


 ふと見上げてみれば中央の教会のような場所を下から見上げるような場所に辿り着きます。


『これは……なんだろう。というか誰だろう?』

『……該当なし。人、にしては少々余分なパーツが多いように思いますが』


 配信者二人が並んで見上げて述べた感想にしては普通ですが、博識な科学者であるサティにエリートのメシエが言ったにしては平凡なコメントです。

 そんなこともあるのだなと思っているあなたにもこのモチーフがなんなのか分からないのであなたも平凡以下なのですが。


 まあ神殿なら神様か何かなんだろうが。


『神? これが?』

『ふむ。神。信仰対象。超常の力を持つ存在。神とは王に近いものですか?』


 どうだろうな。神は人の拠り所で王は人を統べる者だから役割が違うのは確かだろうが。


『ふむ。神は人に貪られ、王は人の奴隷という事ですか』


 メシエの指摘にあなたは思わず突っ込んでしまいますが、ふと思いついたことをつけ足してしまいます。


 配信者もある意味そのハイブリッドみてーなもんだからな。


『そうなの?』


 まあこれに関しては考え方次第だと前置き、あなたは思いついた内容を告げます。

 配信者とは人気商売。人気を出すためには人とは違う事を、面白いことをするか面白い人であることが最低条件だと言っていいとあなたは切り出します。

 そしてたとえ人気が出たとしても配信者というのは既に数えきれないほど存在しています。配信者というのも半ば消費コンテンツとして以前よりもずっと寿命が短くなっているというのがあなたの考えです。

 そんな中で人気を維持していくために視聴者のリアクションを抽出していき、またマンネリ回避のために流行りのジャンルに挑戦したりとすることで配信者間で一定のムーブが起こります。

 そういった良くも悪くもリスナーに左右される配信者を揶揄した表現でしたが、二人にとっては目からうろこだったようで頻りに頷く様子に、あなたは冷や汗が流れるのを感じました。

 あ、これ余計なこと言ったかもしれん、と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る