過剰な演出を頑張った嘘告白したら逃げられなくなりました

紅島涼秋

過剰な演出を頑張った嘘告白

 俺はクラスカーストの上と下に良い顔をしながら、地味に生きてる陰キャ男子だった。だから、クラス内で盛り上がる仲間内の罰ゲームなどとは無縁の生活を送っていた。

 そんな俺のクラスでは一時期最低な遊びが流行っていた。言うなれば「罰ゲームでの嘘告白」だ。その相手は誰でもいいが、一番はゲームを企画した全員が好きじゃない相手。

 生徒たちに見られる場所でやれ、という鬼のようなクソだ。

 俺はクラスカースト内を必死に地味で中間に位置するように泳ぐことで、そんな罰ゲームとは無縁の存在になっていた。

 そして、無事、そんな嘘告白も流行りが終わったと思っていた。


「おいおい、亀ヶ池かめがいけ、どうすんだよ、誰に告る~?」


 だからやいのやいの初めてクラス内の檜舞台に持ち上げられたことに戸惑った。学校祭の打ち上げ、いつもの地味な立ち位置にいた俺を、最低最悪なカラオケの採点で最下位が罰ゲームと盛り上がらなければ。


「まっさか亀ヶ池かめがいけがあんなヘッタクソだと思わなかった」

「まじでオタクくんの美声からの亀ヶ池かめがいけの落差は爆笑だったぜ」

「まー、乗っかっちまったもんはしょうがねぇよな!! ほらほら、誰に告白するかここで発表してくださーい!」

「えぇ~、亀ヶ池かめがいけ君、好きでもない女子にそういうのしちゃうんだーがっかりー」


 がっかりーとかいいながら、自分は関係ないとケラケラ楽しそうに笑うギャルが蚊帳の外すぎて羨ましすぎる。

 どうしてこうなった。

 美声を披露したオタクくんが高揚した波に乗って次の曲を入れて歌っている。

 誰も聞いてないぞ。もっと頑張れ。この空気を吹き飛ばしてくれ。

 視界の端で完璧なダンストレースを披露しながら、歌っている。いや、すごい体力だな。踊っているのに息も乱れていない。オタクくんとかクラスカーストに媚びへつらう俺が調子のって呼んですみませんでした。

 彼のオタク仲間の男女がキャッキャと楽しんでいる。少し前に放送されたアニメで、アイドルの子供に転生する作品で、歌がバズっていた。


「――――――――」


 それ別の曲と合体させた替え歌だからやめた方がいいと思う。

 しかし、そんなモノで俺への罰ゲームへの盛り上がりは当然止まらない。俺の、俺の歌が下手だったばかりに。歌は練習したら改善されるからというアドバイスをちゃんと聞いて頑張ればよかった。歌なんて合唱コンクールの時に誤魔化すからいらないわ! なんて自分の下手くそさへの羞恥と優しいアドバイスへの反発でイキってしまった。

 俺は情けなく救済の道を探す。


「でも、このクラスで嘘告白だと、同じクラスに出来ないじゃん」

「おいおいおい、そんなつまんないこと言うなよ。だったら、このクラス以外に決まってんだろ!」

「そうだそうだ。どんだけ学生居ると思ってんだよ!」

「決められないなら、俺たちが決めまーす!」

「はーい! 三年生の幽霊の副会長が良いと思うー!」

「うぇ!?」

「おお、良いじゃん良いじゃん!」

「あー、有りだな」


 幽霊の副会長とは氷の生徒会長の後ろに、背後霊のようにいつもついて回っている長い髪の三年生だ。前髪を極端に伸ばして、曰く誰も彼女の顔を見たことはないという。


「いや、まじ? いやいや、こ――横江副会長は目立つんだから、あの人を好きな人だってクラスに一人は」

「初めて名前知った!」「へー、横江って名前なんだ」


 逃げようとして、他に、クラスに一人ぐらいあの人を好きな人が居ないか探してみるが、残念ながら見つからなかった。


「けってーい!」


 俺の罰ゲームで盛り上がって決定させられてしまった。……まずい。

 だが、明日になったら忘れてくれと思いながら、俺は周りの空気に合わせるように盛り上がった。


「いえーい! やってやるぜー!!」


 もうヤケクソだ。忘れてくれと思うがもしもを考えるなら、明日の、明日の準備をしなければ……!!!



 俺は打ち上げであるカラオケの一次会が無事終わると、早々に腹が痛いと言って二次会への参加を辞退した。

 走り回る必要があった。スマホをコールする。姉に、姉に伝えねば。


「ねえさん、金を貸してくれ」

「えぇ、いきなり何なの」

「いや、ちょっと買い物をしないとダメなんだ……」


 必死に土下座する勢いでお願いすれば、社会人である姉はながーいため息のあと、一緒に買物に付き合ってくれるということだった。本当に助かる。前借りで俺の財布はしばらく資金繰りが大赤字だ。


 その日はなんとか門限をちょっと過ぎた頃に買い物を終えることが出来た。親には打ち上げに盛り上がりすぎたと言い訳をしたら、納得してもらえた。



 俺のヤキモキした気持ちとは裏腹に、爽やかな朝だった。

 俺はひどく早い時間に教室にたどり着いた。準備した物を見られるわけには行かないからだ。ロッカーに物を片付けてホッと安堵する。

 幽霊副会長の下足箱に放課後の呼び出しラブレターはもちろん出した。証拠用に文面まで写真に撮ったのだ。


「誰だよ、こんなめんどくさい罰ゲーム考えたやつは……」


 俺のつぶやきに誰も答えてくれる人は居ない。

 ざわざわとクラスメイトたちが登校してきて騒がしくなる。

 いつもは陰キャで地味な俺なんて、おはようだけで済むのに、男子からは肩を軽く叩かれながら「嘘告頑張れよ」と言われ、女子からは「うわ、いつもは適当な髪型なのに整えて気合入ってる。ぷぷっ」と馬鹿にされた。


 上の空の授業が終わり、放課後、俺は時間通り、人が注目しやすい場所へ向かう。

 昇降を出てすぐ、校門までの広い道に俺は大きなカバンを持って、待った。

 クラスメイトたちが遠巻きにしながら、ざわざわ話している。


「てか、なんでこんな場所? さすがにここで嘘告させたとかやばくない?」

「でも俺たちは場所を指定してなくて亀ヶ池かめがいけのやつが」

「幽霊副会長ってそもそも来るの?」

「これ罰ゲームって言ったら、いじめとか」

「もしかして、亀ヶ池かめがいけ止めた方がいいやつじゃ」

「いや、大丈夫っしょ」


 のんきなモノだ。俺はドキドキしながらただ時間になるのを待った。何度もスマホの時計を確認してしまう。一分が長い。心臓の鼓動がどんどん早くなってくる。緊張が高まってくる。

 俺が道のど真ん中に立っているせいで帰宅の生徒達は、眉をひそめて俺を横目で見た。


「邪魔じゃね?」


 そんな声も、昇降口から現れた女性を見たら、もう俺の耳には届かなかった。

 いつも隠れるように歩く女性は、秋の夕暮れの日差しを浴びながら、今日ばかりは道の端に行けずに、おろおろと俺を見つけて道の真ん中を歩いてくる。


「さ――。亀ヶ池かめがいけさん」

「はい! 俺です」


 なんて他人行儀だ。俺はカバンを地面に置いた。ポケットを確認する。ヨシ! と覚悟を決めた。

 ソワソワキョロキョロとしながら、遠巻きに学生たちに見られることにびっくりしている彼女のために用意したものを取り出す。

 クラスメイトたちが面白そうに俺を見つめていた。

 カバンからブルースターとチューリップを中心に作られた花束が取り出されて俺は腕にしっかり持った。小さな青い花とチューリップの赤い花が美しい花束だ。そこそこ高い。その瞬間、周りから声が上がった。


「花束とか嘘告なのにガチすぎじゃん!」

「うわ、めっちゃ豪華~~!!」

「うげげ、まじで何やってんだあいつ!」


 一歩、大きく彼女の近づく。前髪の向こうの表情は伺いしれないが、俺をいつものように見上げているだろう。俺は大きな声で言った。



胡々菜ここなさん、待たせて悪かった。俺と、亀ヶ池かめがいけ砂丈さじょうと結婚してください」



 わああああと盛り上がったが、俺の言葉を理解したオーディエンスはもう一度違う盛り上がりで叫んでいた。


「うおおおおおおおお、って、へ!?」

「きゃああああああああああああああああ」

「嘘告でプ、プロポーズ!?!?」


 俺が花束を差し出す。彼女はぷるぷると震えていた。もう一度大きな声で彼女に告げた。


胡々菜ここなさん毎日一緒に居てくれてありがとう。中々プロポーズが出来ないヘタレですみませんでした」


「毎日!?」

「どういうこと!?」

「あいつ好きなやつ以外って話なのに」

「えええ、知らなかった!?」


 またキャアキャアぎゃあぎゃあと外野が盛り上がっている。だが、今大事なのは目の前の女性だ。俺の言葉に花束を受け取りながら、ぷるぷると可愛らしく首を横に振る。


「う、ううん、砂丈さじょう君がヘタレなの分かってるから」

「ひどい……」

砂丈さじょう君のお姉ちゃんからもう話し、聞いたし」

「やっぱりバレてるよな……。でも、これは嘘じゃないから、婚約してください胡々菜ここなさん」


 彼女の目の前で跪いて、ポケットに入れていた箱を取り出す。

 外野が最高潮過ぎてまじでうるさい。

 箱を開いて、彼女の差し出す。

 キラキラと夕日に照らされた指輪がそこにはあった。

 さすがにねえさんもそれは黙っていたのか、彼女はびっくりした雰囲気を見せていた。

 花束を持ったまま固まっている。


胡々菜ここなさん、君を愛してます」

「うぅぅ、私も砂丈さじょう君のこと大好き。ありがとう」


 感極まったように泣き出した彼女の返答に俺は心が踊った。

 箱を受け取った彼女の願いを聞いて、指輪を左手薬指にはめてあげる。

 ゆっくりと前髪を手で分ければ、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした綺麗な女性が俺を見つめていた。


 花束を避けるように顎に指を添えて、俺から顔を近づける。唇と唇が優しく触れ合った。あ、そういえば初めてだ。


「んっ」


 こうして俺は公衆の面前で、愛する人へ嘘告白罰ゲームを騙して、プロポーズに成功した。外野が最高潮に盛り上がる中で、俺たちに近づいた存在が冷たく言った。

 ピクピクと青筋を立てて俺たちに近寄った男性教師は、あまりの出来事に愛想笑いを浮かべて必死に感情を抑えることしかできないようだ。


「君たち、停学」



 俺はこうして高校を卒業するまで、プロポーズして停学した男として語られるせいで印象の薄い陰キャ男子から脱却してしまったのだった。



 家に帰ってから両家の両親と顔を合わせれば、祝福と共に馬鹿にされたが、これも名誉の負傷だ。

 胡々菜ここなは嬉しそうに指輪を家族に見せびらかしていた。


 胡々菜ここなが家族が話している所で俺に耳元で囁く。


「幸せにしてね、砂丈さじょう君」

「が、頑張ります」

「ここは、もちろん! じゃない? また、ヘタレちゃったね」

「が、頑張ります……」


 心地よい囁き声に対して手厳しい胡々菜ここなさんとの幸せ生活はまた別のお話だ。


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幼馴染にフラれたからが、重いので今回もまっすぐ告白系を気ままに書いてみました。今回は王道ですね。

連載中の「幼馴染にフラれたから次からは勘違いせずに女の子と良い距離感で過ごしたいと思います」も機会がお読みいただければと思います。


カラオケのシーンは扱いが難しいですね。申し訳ないです。


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