第33話 書きたいモチーフがある、売れないことはわかっている


わたしの創作のモチベーションは、常に「モチーフ」でした。

たとえば、「ジャズバンドのあの空気」とか「青いガラス瓶」とか「やたら濃い紅色の桜並木」とか。


よくいえば、芸術的。悪く言えば、感傷的。


そういう「モチーフ」に魅了されて、世界が頭のなかに広がってしまって、

「書きたい!」という気持ちになってしまう。

それが初期衝動で、わたしの創作における欲求です。


なのですが、この「モチーフ駆動型」とでも言うべきスタンスが、さっぱり「売れない」ということに身を持って気付いたのが、この1年でした。


モチーフから感じる、あの感情、あの色、あの匂い。

それらはすべて、内面的な個人感覚であって、だれもが共感できるものではないから、たとえ無料でも気が惹かれず、売れない。

シビアな言い方で言えば、独りよがりの物語になっているのですよね。


たとえるなら、自分が見るためだけが目的の写真を撮っているようなもの。

または、自分の家にしか通用しない効率的な掃除の手順書を作って、満足しているようなもの。あまりうまく例えられてない気がしますが。


それ自体は、自分のココロのなかを豊かにして、休ませることができる、大事なことだとおもっています。

ただ、それはつまり、売れないのだな。と。


そのために、もっと、物語内の仕掛けや、序盤のフックに重きを置こうと思って、カクヨムに登録し始めた頃からは、色々とない頭を絞って試行錯誤してきました。

「システム駆動型」とでも言えばいいのでしょうか。

売れるシステムから、物語を紡いでいく感覚です。

(今は、そこすら過ぎ去って、「マーケティング駆動型」がもっとも正しいと思っていますが。それは置いておいて。)


そのような作り方を、習得して、物語をいくつか紡いでみて。

モノを売るということは、いくら創作や芸術であっても、人がほしいものを出すことに尽きるのだな、というところに落着しました。


それが、売れながらも、どのくらい芸術的でありえるか、人の心に残せるかは、単に天秤をどれくらい傾けるかの問題で。

創作ではなく、商売をする気があるならば、

ある程度のダブルシンクのような技術を体得しなければならないのだろう、と思うようになったわけです。


自分が見たいモチーフを入れて、感傷と悦に浸りつつ、お客さんが見たい設定を入れて、商売をする。

そのバランス感覚(またの名を妥協)を維持しながら、ストーリーを作っていくのが、売れるということだと。


さらに詳細に言えば、

お客さんとは、「無から生み出す」ものではなく、「どこかに既にいる」ものなので、

その層が潜在的にほしがっているもの、その層が明示的に飢えているものを、きちんと把握してから、

これがお客様の欲望への解であるとパッケージにきちんと記載して、

わかりやすく提供する。


こういうやさしくお手伝いするココロが、商売としてのストーリー制作なのだろうなぁ。

と、いうのが、近頃のわたしの左脳の考えです。


ただ、右脳は違います。

未だに、モチーフをふと思い出して、むらっとすることがあります。

どうにも書き出して、ひとつの物語として到着してあげないと、ココロにわだかまって気持ち悪いという感覚。


具体的に言えば、ギャルゲが作ってみたい。

なぜかわからないですが、昔からの漠然とした夢なのです。


怖いくらいの桜が咲いてて〜、

離島に引っ越してきた主人公で〜、

綺麗な池があって〜、島と因縁のあるヒロインがいて〜、


と、右脳は無邪気に喋り続けます。

それで、左脳が苦労しているともしらず。


そんなものは、売れません。

そこに、お客さんがいないからです。

でも、書いて出したい。じゃないと、成仏できない。


この衝動とビジネスの間をすり合わせ続けているのが、ほとんどのプロの作家さんなのだろうと考えると、

畏敬の念と、「Mなのかな」というあらぬ疑念が湧くのです。



久しぶりなので15分ではありませんでした。

でもいいよ、久しぶりだから。



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