話しかけていれば。。

ポタいち

勇気

 高校を卒業して、晴れて専門学生になった俺。

五月ごろに友好関係を築き上げていこう、という名で合宿する行事予定がある。俺は少しの緊張とこれから切磋琢磨する盟友ができるかも、という期待を胸に膨らませて行事予定に取り組む。


 早朝、集合場所にまで行き、点呼を終えるとバスに向う。大きな荷物をバスの運転手さんに任せ、座席順はその場決めなので、適当に席を探す。


 「隣、いいっすか?」 


 「―ん?あー、いいですよ」


 隣が空いていても事前に確認する。確認せずに万が一にも友達の予約席でも座ったなら恥ずかしくてとても合宿に集中できないだろう。


 「よろしくおねがいしやす、しっかし、楽しみですねー」


 「それなです――――」


 バスの往復計4時間のただの談話、世間話、何気ない日常の出来事、自己紹介、どこにでもやるあるあるな会話だった。


 しかし――、














 


 一泊二日の合宿が終わって日常に戻った今。


 その俺は数人だが、気の許せる友人が出来た。


 でも、バスで語り合った彼とは一時的の友好関係はすぐさま去り、すれ違えばただ会釈せずに通り過ぎる関係に戻った。


 授業中、休み時間ですらも彼は暇そうにパソコンで〇ーぺックス、ゲーム実況者の配信を見ていた。周りに友達はおらず、バスの中とは違った生き生きとした声は聞こえない。


 あの時みたいに、俺が彼に話しかけてもいいと思う。しかし、陰キャ特有の最初だと饒舌なのに二回目は喋れなくなるあのアレだ。


 それが何日も続き、夏休み開始まで続く。


 次第に月が重ね、夏休み明けとなった日。





 彼の席は空席になっていた。


 一週間、二週間経っても欠席が続く。一か月、二か月経っても欠席が続く。


 ――あの時、


 もし、俺が勇気を出していれば。


 もし俺が彼を俺の友達グループに引き込めていれば欠席しなかったのかもしれない。


 





 ――と、今更ながらに自己満足と少しの罪悪感で何とも言えない気持ちを浸ることになった。

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話しかけていれば。。 ポタいち @pota_ichi16

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