第4話 初めての戦闘

 僕は男達に近づいていく。


「やめてあげてくれないか。嫌がってる」

「あぁ? ガキがしゃしゃり出てくんじゃねぇよ」


 うわ、怖い。

 それと失礼だけど臭ってくる。

 失礼だけど。


「た、助けてください!!」


 僕達のやりとりを周りの人たちは何もせずこちらを見ていた。


「邪魔すんじゃねぇよ」

「それは貴方の方だよ」

「あぁ? クソガキが」


 すると男は僕のお腹をいきなり蹴ってきた。

 僕もいきなりのことで反応出来ずそのまま飛ばされた。


「レイル様! 大丈夫ですか!!」

「大丈夫だよ。ミリーゼさんはそこにいて。危ないから」


 僕は立ち上がり男に近づいていく。


「お前らこいつら殺っちまいな」

「おう」


 周りにいた3人の男がこちらに剣やナイフをもって近づいてくる。


 あれが剣…。

 本当にあんなの相手に勝てるのか…。

 こっちは高校生だったんだぞ。


 でも…やらないといけないんだよな。

 慣れる必要もある。

 ならここで怖じけついてちゃだめだ。


「レイル様避けてください!!」


 男達がこちらにナイフや剣を向けて斬りかかってくる。


 周りでは悲鳴が上がっていた。


「我がめいにしたが――」


 そうだ。

 完全に詠唱したら大変なことになるんだった。

 危ない、危ない。


「ファイヤーボール」


 放たれた魔法は男達に当たると大爆発をおこし煙が舞った。

 煙が消えると男達はぐってりと地面に倒れ込んでいた。


 やっぱりちょっとだけ詠唱してもこんなことになるのか…。

 それにちょっと地面のタイルが割れてしまった。


「お前ら何やってんだ!! そんなガキごときに!!」


 リーダーみたいな男は酷くご立腹であった。

 

「水流の奔流が大地を揺る――」


 するといきなり男は詠唱を唱え始めた。


 ならこちらはこれだ。


「ファイヤーボール」

「む、無詠唱!?」


 魔法が男に当たると爆発をおこし男はその場に倒れ込んだ。


 やっぱり無詠唱だと威力は落ちるみたいだ。

 でも無詠唱でこれだけ強いって便利ー。


「あ、あの…」


 僕が無詠唱の性能の良さに浸っていると絡まれていた女の子が声をかけてきた。


「助けてくださりありがとうございます」


 女の子の少し長い綺麗な水色の髪が風になびいて美しくみえた。

 そして容姿端麗でどこを見ても輝いていた。

 

 きっと前世にこんな子がいたら好きになっていたに違いない。

 

「怪我とかはないですか」

「おかげさまでないです」


 僕は気遣うとその女の子は明るい声でそう答える。


「あ、あの…そんなに…」


 ハッと我にかえる。

 どうやら女の子のその姿に見惚れてしまっていた。

 

 全く出会ったばかりの人になんてことを。


「すいません…」

「い、いえ! 別に謝らなくても!」


 女の子は少し慌てたようにしてそう言った。


 そんなことをしているとミリーゼさんが、


「あ!!」


 と大きな声を出した。


 「レイル様、伝え忘れてましたがこのあとオリック様がお話をしたいと言っておりました」


 絶対めっちゃ重要なことだよね。それ。

 忘れてちゃ行けないことだよ。多分。


 それよりそんな用があるなら今から急いで帰らないと。


「すいません。ちょっと用があるので。それではまたどこかで!!」

「ま、待ってください!」


 僕とミリーゼさんはそんな女の子の言葉を無視して必死に家に戻った。


 全速力で走り家の扉の前で膝に手をつけ休憩しているといきなり扉が開いた。


「レイル、どこに行っていたんだ」

「あ…」


 そこに現れたのは父さんだった。


「とりあえずついてきなさい」


 僕はミリーゼさんをその場において、父さんの後ろをついていった。


「今日は何をしに行っていたんだ」

「ちょっと街を見て回ろうかと」

「そうか。それもいい心がけだ」


 なぜだろうか。

 父さんから謎の圧を感じる。


「ここは…」

「私の書斎だ」


 僕はなぜか父さんの書斎につれて来られた。

 書斎は広く辺りは本が沢山並べられていた。


「レイル、そこに座りなさい」

「は、はい」


 僕が椅子に座ると父さんも反対の椅子に座った。


 部屋に充満する謎の空気感。

 父さんから感じる謎の圧。

 僕なにかしたかな!?


「街はどうだった? 楽しかったか?」

「楽しかったよ…」

「そうか。それは良かった。ミリーゼにはあまり何もしてやれていないからな。レイルが相手をしてやってくれるなら父さんも嬉しいよ」


 これは特に何かあったというわけでもないのか。

 

「ところで今日街中で魔法をぶっ放していた者がいたらしい」

「そ、そうなんですか…。物騒ですね…」


 これ完全にあの事だ。

 絶対にそうだ。


「その者がレイルくらいの子供だったらしいんだ」

「へ、へぇ〜。凄い人もいるんですね…」

「もうわかるよな」

「な、何がでしょう…」


 逃げれる気がしない。

 ここで終わってしまうのか。


「レイル。これお前の仕業だよな」

「し、知らないです〜」

「とぼけても無駄だぞ」


 どうして父さんは家にいたのにそのことを知っているんだろうか。

 でも今はとりあえず認めておいた方が良さそうだ。


「確かに人を助けるのは良いことだ。ただ街中で魔法を使うのはやめるんだ」

「わ、わかりました」

「街中で原則使うのは禁止だ。いいな」

「はい…」


 良かった。

 どうやらそこまで怒られずに済みそうだ。

 ふぅー。なんとかなった。


「それともうひとつ。これが本題だ」


 まだあるというのか。


「レイル。魔法戦士ヘクセライクリーガをやってみる気はないか?」


 今日、ミリーゼが言っていたやつか。

 何度も言うがそれは一体何なんだろうか。


「父さん…それは」

「まぁ、入学してからでもいい。頭の片隅に置いといてくれるだけでいいんだ。レイルの選択肢の幅を増やしたいだけだからな。それじゃあもう行っていいぞ。試験も近いしな」


 あっさりと話が終わってしまった。

 一体何だったんだろうか。


 あんな感じの父さんは見たことがない。

 でも今そんなことを気にしても意味がないか。


 とりあえず今は試験に向けて勉強あるのみだ。


◆◆◆


それからというもの僕は適度に勉強をしてはミリーゼさんに魔法を教えてもらう日々を過ごした。


 時には結界を破壊しミリーゼさんと一緒に怒られたり、父さんと一緒にでかけたり、母さんの料理の手伝いをしたり、困っているおばあちゃんを助けたりと充実した一週間を過ごした。


 そんな濃密な時間を過ごすうちに父さんや母さん、ミリーゼとも仲を深めることができた。


 そして今日、僕の人生2度目の試験という名の戦争が始まる。


 何だかあまり緊張はしていない。

 もはや余裕っぷりを周りに見せつけれる程に心は安定している。


「レイル様荷物は持ちましたか?」

「あぁ!」


 そして僕は外に繋がる扉の前まで行く。


「レイル、ミリーゼちゃん。頑張るのよ!」

「応援してるからな!」


 父さんと母さんは本当にいい人達だ。

 こんな人達のもとに転生できて本当に幸せだ。


 それよりミリーゼに頑張ってってどういう…。


 僕がふと疑問に思い横にいたミリーゼのことを見るとメイド服を着たままリュックを背負っていた。


「ミリーゼもついてくるのか?!」

「ついてくるも何も私も受けるんですよ。試験!」


 ミリーゼもこの試験を受けるのか!?

 でも魔法は練習してたけど勉強をしているところは一度も見たことがないが本当に大丈夫なのか。


「あ、レイル様。今私勉強してないのに大丈夫か? なんて思いましたね!!」


 なんで僕の心の中の声がわかったんだ。

 もしやこれも魔法!?


「なめないでくださいよ! 私結構出来ますから!!」


 なんだそのドヤ顔は。

 

「ほらふたりとも早く行かないと遅れちゃうわよ」

「わかった。行ってくるよ」


 そして僕は少し懐かしさを感じながらミリーゼと一緒に


「行ってきます!」


 というのだった。

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