第3話 襲われる少女

「提案なのですが詠唱なしでやってみてください!」


 何を言っているんだ。

 もしかしてこのミリーゼさんも前世からの成り上がりタイプの人間なのか。

 だとしても無詠唱は無理に決まっている。

 だって大抵ああいうのは主人公が強かったりするやつとかで発生するイベント的なやつだし。


「ほら! やってください!」


 ミリーゼさんがそこまで言うならやらなくもないが。


 とりあえずやっておくか。


「ファイヤーボール」


 すると先程に劣るが中々に良い威力の魔法が放たれ結界に衝突し爆発した。


「レイル様…これは魔法戦士ヘクセライクリーガなどと変わりない威力ですよ!!」


 え?

 これって馬鹿にされてるの?

 無詠唱で出来るだけ頑張った結果がこれだったから何か言われてるのか。

 それに魔法戦士ヘクセライクリーガってなんだ。


「それでは次にさっき私が言った詠唱を完璧に言ってください」

「わかりました」


 やはり詠唱を使うのは当たり前のことだし、ましてや無詠唱は異端の存在なのかもしれない。


 そんなことを思いつつもミリーゼさんに言われた通りに詠唱を唱え始める。

 

「我がめいに従え、魔力の激流を纏いし火の弾よ。第一火属魔法詠唱だいいちひぞくまほうえいしょう。ファイヤーボール」


 すると火の弾は最初に放った時よりも何倍も速く進みさらには結界に触れた瞬間それが破られ僕の魔法は上空で大爆発を起こした。


「おい! 今のは!!」

「あ、あの僕が…」

「今のを?!」

「そ、そうか」


 窓から再び顔を出してきた父さんは誰が今のをやったのかを聞いてきた後に


「今日はもうやめて勉強でもしたらどうだ?」


 と言ってきたので仕方なく今回は魔法の練習をやめることにした。


 それにしてもミリーゼさんの提案してきたこれには何の意味があったのだろうか。


「そうですかーそうですか」

「どうしたんですか?」

「やはりそうですよ!」

「何がですか?」

「これは驚きですよ!!」


 このまま聞いていたら一生本題に入れない気がする。

 

「教えてくれないなら部屋に戻ります」

「ま、待ってください! レイル様!」

「じゃあ、なんですか」

「レイル様は無詠唱より詠唱ありの方が良いんですよ!!」

「はい?」


 あれ、こう言うのって無詠唱の方が良かったりするんじゃないのか。


「本来は完全詠唱と無詠唱には強さの差は生じないんです。端折ったりすると強さは弱まりますが。ですがレイル様の場合は完全詠唱と無詠唱さらには端折った詠唱である未完全詠唱に強さの差が生じてるんですよ。無詠唱は完全詠唱に比べて強さは劣りますが一般人の完全詠唱よりも何倍も強いんです」


 もしかして僕は異質なのかもしれない。


「未完全詠唱は完全詠唱よりも劣りますが無詠唱よりも強さは増します。この時点で恐らく超人です。そして完全詠唱はもうとんでもないです。完全詠唱で中級以上の魔法を使えば恐らく兵器レベルになりますよ!」


 難しいことを言っているがつまりは、


 一般の場合

 無詠唱=完全詠唱>未完全詠唱


 僕の場合

 無詠唱<未完全詠唱<完全詠唱


 ということだろうか。

 無詠唱の場合でも強さは常人以上ということは未完全詠唱以上になると人を殺してしまったり周りを破壊しかねないということだ。

 

 極力無詠唱以外は使わない方がいいのかもしれないな。


「そうなんですか! それより僕は早く勉強しないと行けないので!」

「わかりました。私は片付けをしてから向いますね!」


 とりあえず魔法は少しだけ知ることが出来たし心配は少しだけ減った。

 次は筆記の勉強か。

 でもほぼやらなくてもいいようなもんだからな…。


 そうだ。

 この国を少し見て回るか。

 ここに来てまだこのでっかい家とでっかい庭しか見てないからこの機会に。


 そうと決まれば。


「レイルー? どこかへ行くの?」


 再び家を出ようとしたら母さんに見つかってしまった。


「そうだよ。ちょっと」

「でも勉強をしなきゃだめよ!」

 

 まずい。

 ここをどうやって回避すればいいんだ。

 転生者でこの世界の問題は簡単だから勉強しなくてもいいんだ、なんて言ったら何この子、みたいな顔をされそうだし。

 なら成功率低めだがあれを使うか。

 前世のお母さんには通用した言葉だ。


「母さん。息抜きも大事なんだよ」


 さぁ、どうだ。

 普通なら「そんなこと言ってないでとっとと勉強しなさい」で敗北する言葉だが…。


「ん〜。確かにそうね! ミリーゼちゃん! あれいないのかしら」


 おー!

 まさかこれがこの世界で通用するとは。

 いやこの母さんだから通用したのか?


「ミリーゼさんは多分外だよ」

「そう? じゃあミリーゼちゃんと行ってきて!」

「わかった」


 母さんとの会話を終え外に出るとやはりまだミリーゼさんは外にいた。


「ミリーゼさん、これから外に出かけるんですけど」


 僕がミリーゼさんに一緒についてきて欲しいとお願いをする前に


「行きます!!」


 と笑顔で言ってきた。


 そして早速出発することになった。


「初めてですね! こうして一緒に外に出るのは」


 そうなのか。

 もしかして僕が転生してくる前は仲がよかったとか?

 それともあまり接点がなかったのだろうか。


 何事もなくしばらく歩いていると


「レイル様! あのネックレス綺麗ですよ!」

「そ、そうですね…」


 正直どのネックレスのことを言っているのか全くわからない。

 どれも一緒だ。


 それよりメイドがこんなはしゃいでて良いのか?

 まぁ、下手にかしこまられているよりかはこっちの方が良いけど。


 歩いていて気づいたが武器屋だったり装備屋だったりと見たこともない店が多くあった。

 他にもギルドとかいうのもあった。


 恐らくこれは冒険者ギルドとかいう異世界ものの定番のやつのだろう。


「レイル様ー!! あの馬可愛いですよー!! レイル様も可愛いですがー!!」

「なっ....!?」



 何事もなく...何事もなく?

 一時間ほど歩きそろそろ疲れてきたので家に引き返すことにした。


「楽しかったですね!」

「そうですね」


 家に向かってまた来た道を歩いていると前の方が騒がしいことに気がついた。


 喧嘩だろうか。

 物騒だ。


「レイル様…あれは!」


 喧嘩を見てミリーゼさんは少し怖がっていた。

 無理もないだろう。

 ミリーゼさんも年頃の女の子だ。


「おい、女! 学生にしてはいい体してんじゃねぇか」


 どうやら複数の男の先には年齢が近しい女の子がいた。


 てかそんなことをこんな大通りでやるなよ。

 せめて路地とかでやれよ。

 いややっちゃだめだけど。


「やめてください…!!」

「あぁ? 反抗すんなよ」

「そうだぞ? 逃げたらどうなるかわかってんのか?」


 すると一人の男がナイフを取り出して女の子に突きつけていた。


 人々を救う。

 それが僕の新たな人生。

 今助けないでこの先の人生はあるはずがない。


 魔法も会得したんだ。

 今なら行ける。


「レイル様、何をしようと!」

「助けるんですよ! 助けないと!」

「ダメです...! あれはここらでは有名な冒険者ですよ…。実力は階級Bにもなる人達です。私達子供では!」


 階級Bは言わいる冒険者ランクのことだろう。

 あの人達はそんなに強いのか。


 だからと言ってそれが人を助けないという理由にはならない。


「レイル様!!」


 僕はミリーゼさんの言葉を無視して男達に近づいていくのだった。

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