トキ色の光景~おもひでの味をもう一度~

夢月みつき

「おばあちゃんの焼きいも」

「トキ色の光景~おもひでの味をもう一度~」登場人物紹介


1. 根津沙良 ねづ・さら

主人公、十八歳。過去のトラウマがある。

繊細で真面目。



2. 根津はる ねづ・はる

沙良の祖母。頑固な所があるが、温かい、




3. 根津薫 ねづ・かおる

沙良の母親、はるの娘。明るくおおらか。


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やや茶色掛かった黒の髪を後ろで、お団子にしたスタイルに黒の瞳、十八歳の少女の根津沙良ねづさらは、幼い頃、祖母の握った、味噌おにぎりと焼きいもが大好きだった。

沙良が幼い頃は、まだ焚き火が禁止されておらず。祖母とよく焼きいもをしていた。

特に祖母の根津はると、一緒に庭で枯れ葉を集めて、落ち葉の中で、焼いた焼きいもが好きでそれは、それは、楽しい思い出のはずだったのだが…。


祖母は、彼女が小学五年生の頃に肺炎で、亡くなってしまったのだ。




◇+◇+◇


―――時は、さかのぼる。沙良はその頃の事を思い出していた。


おばあちゃんが、肺炎で亡くなる数日前に私は、おばあちゃんと喧嘩をした。

いつもは、仲が良いのにどうして、その日に限ってと今でも、悔やまれてならない。

「なんで、そんな事を言うのよ!?お婆ちゃんなんて大っ嫌いっ!」


私は、ショックでお婆ちゃんに泣いて、わめき散らした。

いつもは、優しいお婆ちゃんだが、本当に怒ると頑固な所があり、沙良が心を込めて謝るまでしばらく、口をきいてくれなくなる。


彼女はどうしても、祖母の言ったことが許せなくて、その日は口をきかなかった。

しかし、その深夜に祖母は、何の前触れもなく急に胸を押さえてベッドの上で苦しみ始めた。


父と母は、血相を変えて救急車を呼んだ。

沙良は怒っていた事も忘れて、祖母に呼びかける。



「おばあちゃん、おばあちゃん。大丈夫!?」

沙良は、血相を変えて祖母の手を握ろうとした、しかし、祖母はもうろうとする意識の中、彼女の手を払った。


苦しくて、無意識にしたことだと色々と考えたが。

沙良は、まだ怒っていると感じてしまって、強い衝撃を隠せなかった。



そして祖母はきっと、帰ってくる、帰って来たら謝るんだ。

そう信じていた彼女の願いは、聞き届けられることはなかった。

はるは、病院に運ばれたがそのまま、危篤状態になって数日後に帰らぬ人となった。



◇+◇+◇


今でも、忘れられない、罪悪感。罪の意識…

母は、私が悪いのではない。あのことは、どうにもならないことだったんだと、慰めてくれるけど…


「私が喧嘩なんてしなければ、お婆ちゃんとあんな、別れ方をしなくて済んだかもしれないのに…」

沙良は、一人になると思い出してしまって、部屋で一人落ち込む。

「ごめんね、お婆ちゃん…。お婆ちゃんのお芋や味噌にぎり、もう一度食べたい」

沙良はうずくまり、涙を目尻に浮かべてそのまま、眠りについた。


彼女は、不思議な夢を見た。祖母と焼き芋をして、そのお芋とまん丸の味噌おにぎりを、一緒に縁側で食べる夢を。




◇+◇+◇


その光景は、少し黄色みが掛かった、淡いピンクの柔らかな光に満ち溢れた、トキ色の優しい世界だった。

幼い沙良は、焼き芋や味噌おにぎりを頬張りながら、無邪気ににこにこして笑っている。

はるも、そんな孫と一緒に微笑みながら、焼き芋を食べている。


幸せだったもう、二度と戻れない過去。

その光景を傍らで見ていた、沙良の目から一筋の涙が流れた。

『沙良……』

後ろから、しわがれた優しい声が聴こえて、沙良は振り返る。


そこには、ずっと会いたかった祖母のはるが立っていた。

「お婆ちゃん!」

彼女は、たまらず、祖母の胸に飛び込んだ。

孫を、優しく抱きとめるお婆ちゃん。

はるは、畑仕事をしてきた強くて、優しい手のひらで沙良の頭を撫でる。



『沙良、長い間、辛かったね。ごめんな…』

祖母は、沙良が話す前に謝って来た。

ずっと、孫が心配で空の上から見ていたのだ、あの日から。

「そんなことないっ!私が悪いの、ごめんなさぁいっ…」

彼女は、嗚咽を漏らして、お婆ちゃんの温かい胸で泣いた。


『良いんだよ、私はもう、怒ってないよ。私の可愛い、沙良だもの。それより、そんなことは、忘れて楽しく生きなさいね…』



沙良は、目を覚まして気が付くと窓から、淡い紅色の光が差し込み、すっかり、夕方になっていた。

「お婆ちゃん、ありがとう」

沙良は、切ないが、嬉しそうにつぶやいた。


そのうち、母のかおるが仕事から帰って来た。

沙良はグリルで、焼き芋を焼いていた。

まん丸の味噌おにぎりと、鶏の唐揚げと、具だくさんのなめこと豆腐の味噌汁もある。


テーブルには、はるお婆ちゃんの写真を置き、沙良は焼き芋や味噌おにぎりを供えて手を合わせた。

「あら、美味しそうねえ。お婆ちゃんの味ね?」

母は、娘の嬉しい心境の変化にぱあっと、顔を輝かせて喜んだ。

「うん、お婆ちゃんよりは、劣るけどね。」


沙良は頬を薔薇色に染めて、照れながら、特製メニューを食卓に運んだ。

(お母さんが、来てくれたのかしらね)

薫は、そう思い、心の中で深く感謝をした。

その夜の夕食は、はると沙良と母親、父親が食卓を囲んで、祖母の思い出の味を堪能した。



-終わり-


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最後までお読み頂いてありがとうございます。

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