第45話 告白(冬咲先輩の彼女)
「私のことを可愛いと思ってるって確証がある冬咲先輩と出かけるのは今までの何倍も楽しいですね〜!どうせ今この瞬間だって、私が隣で歩いてることにドキドキしながら歩いてるんですよね〜?」
「可愛いとは思ってるけど、ドキドキはしてない」
この言葉は嘘ではなく本音だ。
いくら春花が可愛いからと言って、春から春花と関わり始めているのにそれで今更隣を歩くだけでドキドキなんてするはずがない。
春花としばらく歩いていると、春花は高い建物を指差したので、その建物に一緒に入った……そして、エレベーターでその建物の十階に降りる。
「ここは……広場か?」
「そうです、街が全部見渡せて、綺麗に整備されてて人も少なくて落ち着くので、私の大好きな場所の一つなんです!」
確かにとてもいい景色で、少なくとも今は周りに一人も居ないようで、ガラスのフェンスで囲われているから安全面も申し分ない。
春花が好きな場所というのも納得だ。
「いい場所を知ってるんだな」
「はい!……今私、大好きな場所に、大好きな冬咲先輩と一緒に居るんです」
「大好き、か……俺もいい後輩を────」
俺がいつものようなやり取りを始めようとした時、春花が俺のことを正面から抱きしめてきた。
「春、花?」
俺は状況がわからずに、ただただ春花の名前を呼ぶことしかできなかった。
「すみません、冬咲先輩……いきなりこんなこしたら冬咲先輩のこと困らせちゃうってわかってますけど、冬咲先輩が私に嘘をついてたみたいに、私も冬咲先輩に隠してたことがあるんです」
「……隠してたこと?」
「はい……冬咲先輩が私のこと可愛いって認めてくれるまでは伝えたくないって思ってたんですけど、本当は私のこと可愛いって思ってくれてたってわかったので……伝えさせてください」
……前に春花が、俺が春花のことを可愛いと認めることによって春花の悩みが解決すると言っていたが、きっとその悩みというのが今から春花が俺に伝えようとしてきていることなんだろう。
俺のことを抱きしめている春花は、俺のことを抱きしめながら俺と顔を見合わせて言った。
「私……冬咲先輩のことが、大好きなんです」
「え……?あ、あぁ、それならさっきも聞いたけど、さっき俺が言おうとしたのは俺もいい後輩を持った────」
「そうじゃなくて……冬咲先輩のことが、男の人として好きなんです」
……男の人として好き。
その言葉には、とても重みがあった────だが、不思議と俺にとっては衝撃がそこまで大きくなかった。
もう少し正確に言うのであれば、衝撃は大きかったが、俺にとって今春花が発した言葉は、衝撃よりも嬉しいや共感といった感情に近かった。
ずっとどこかで考えていた……俺は春花のことを、一緒に居て楽しい後輩として捉えているのか、それとも一緒に居て楽しい異性として捉えているのか。
そして……俺が春花に「私って可愛いですよね?」と聞かれた時に俺が「可愛くない」と答えたのは、本当にただ春花が図に乗るのがなんとなく嫌だったからなのか。
……瞬間的にそれもあったとは思うが、本当は────あの時から春花のことを、少なからず異性として認識していて、簡単に可愛いって言葉を使いたくなくて、それを隠すために咄嗟に「可愛くない」なんて答えてしまったんだ。
俺がしばらく考え事をしていると、春花が慌てたように言った。
「あ、あの!すみません!ただ冬咲先輩のことを好きだってことを伝えたいだけじゃなくて……私、冬咲先輩の特別な何か……やっぱり何かじゃなくて、私冬咲先輩の彼女になりたいんです!だから……私と付き合ってください!」
春花はハッキリとそう言い切った。
春花が慌ててそう言ってくるほどに一人で考え込んで、俺のせいで春花の不安を増大させてしまったりもした……そんな俺に春花と付き合う資格はあるのかとも思う……でも、俺は────
「わかった、俺でよかったら付き合おう」
やっぱり、春花のことが好きみたいだ。
「っ……!」
それからしばらく言葉はなく、誰も居ないその広場で互いに抱きしめ合った。
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