第8話 処世術(失敗)
「────それでですね?もうあとちょっとのミスコンに備えて、学校の中なので服装は制服で固定らしいんですけど、髪型だけでも決めておきたいんですよ!」
「そうか」
「そうです!で、どの髪型でミスコンに参加しよっかな〜って悩んでるんですよね〜、先輩はどれが良いと思いますか?」
「……」
春花ならどんな髪型でも似合いそうだからなんでも良さそうというのが本音だ……それよりも意外なのは、春花もどの髪型で、とかを気にするんだな。
てっきりどんな髪型でも自分は可愛いと思っていそうだったから驚いた。
「答えてくださいよ〜!どうせ私なんてどんな髪型してても可愛いんですから先輩がどんな髪型答えたってバチ当たりませんって!」
さっきの言葉は訂正しよう、春花はどんな時でも春花らしい。
「じゃあそのままで良いと思う」
「えっ……それって、いつものままの私が先輩の中で一番可愛い────」
「その方が、髪型を決める手間とか髪を括る手間とかも省ける」
「っ!先輩のバカ!」
春花大きな声でそう言うと、教室から出て行ってしまった。
……前に春花に「私って可愛いですよね?」と聞かれて「可愛くない」と答えた時のことは今でも気にしているようだが、今回のは正真正銘日常茶飯事で、明日になれば、下手をしたら次の休み時間には元通りになっているだろう。
「授業まであと五分か……」
俺は春花が居ない時、最近は一人で過ごしているが、友達が居ないわけじゃない……多くは無いが少なからず友達と呼べる存在は居る。
だが、春花と関わり始めてから「俺はちゃんと空気を読めるお前の友達だ」という訳のわからないことを言われてあまり話せていない。
「やっと見つけた」
隣から、俺に向けたであろう声が聞こえてきた。
……休み時間を挟むどころか、一分も経たない間に戻ってくるとは、春花は切り替え上手だな。
俺はその声の方を向いて言う。
「春花、今日は切り替えが早────」
「私の名前まで間違えるなんて……あなたとはまだ二回しか会っていないのに、この二回だけでも三度、いえ四度も不愉快にされているわ」
「……え?」
その声の方を見てみると、そこに立っていたのは春花ではなく、いつかの屋上で会った濃い赤髪……紅色の髪を一括りにした高身長の女子生徒だった。
……不愉快?四度?
「俺、そんなに何か不愉快にさせるようなことしましたっけ……?」
「えぇ、全て説明してあげる……一度目、私と屋上で目を合わせた時に私に興味の無さそうな目を向けたこと」
そういえば目を合わせたことを失礼と言っていたような気がするが……失礼と言われたのは目を合わせたことじゃなくて、興味の無さそうな目を向けたことが原因だったのか。
「二度目、その後でせっかく私が話しかけたのに適当な謝罪だけ残してすぐに屋上から去ったこと」
あれ以上話してたら良いことが無いと思ったからあの段階の俺の判断としてはあの判断がベストだった。
「三度目、あなたのことを探すのに何度か休み時間を消費したわ、学年も名前も知らなかったから」
それに関しては俺は絶対に関係無い。
「四度目、さっき私の名前を間違えたこと」
「それはすみませんでした」
最後の四つ目に関してだけは俺に非があると言える。
「……それは?他の三つは?」
「え?」
……他の三つに関しては俺は特に悪いとは思っていない。
でも、だからと言ってそんなことを言ったらまた延々と何か言われそうだ。
なら……
「悪いと思ってます、すみませんでした」
こんな感じで謝っておくのが正解だ。
「そう……あなたに反省できる頭脳があってよかったわ」
そうすると、こんな感じで許してもらえる。
処世術というやつだ。
今度こそ────
「じゃあ、明日までにこの四枚の紙が埋まる程度には四つのあなたのしてしまったことに対する反省文を書いて私に提出しなさい、私は三年のAクラスだからいつでも来て、待ってるわ」
そう言うと、その四枚の紙を置いてこの教室から出て行った。
「……え?」
……え?四枚?反省文?明日?三年生?
「……」
俺は情報を処理するのに頭がいっぱいになってしまったが、とりあえず俺の処世術は失敗して、明日もあの人の顔を見ることになることだけは確定してしまったらしい。
……そう考えるだけで、俺の気分はかなり沈んでしまった。
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