第3話 私がそこにいる理由


いつも通り日が昇り始めたころに目を覚ます

田舎の村での習慣が、まだ抜けていない証拠だろう

家畜の世話もなく、することもないので

ゆっくりと身支度をしてから二人分の朝食を作る。

一人分を自室で食べて、残りは軽く布で包む

そして那まだ夢の中であろう彼の部屋まで行く


これが私フェリシア・ベルーナの朝の恒例である。


彼の部屋まで行き、扉にノックをすると愛らしい声で


アサダヨ テオ

アサダヨ テオ


と聞こえるので、それに合わせて

「朝だよ テオ」

と自分も念のため声をかける


そうして、少し経つと扉が開き眠たそうに

「オハヨ」

と テオ・クレマン がまだ夢の中にいそうな顔を出す。


この深紅の髪をした少年とはもう7年の付き合いになる


私が9才の時

父が亡くなって、1年が経とうとしていた頃に彼とその家族のバイアーは私の家に来た


朝を起きたら祖父にこれから一緒に住むことになったと急に紹介されたのがテオだった


聞けば彼の両親は父の友人で両親が亡くなり行く宛がなく父を頼って来たそうだ

あの父に友人がいたことの方に驚いたのは今でも覚えている

始めて彼を見たときの印象は、両親を失ったばかりだろうといのに悲しげな様子は見せなかったが、どこか陰のある表情で少し怖いと思ってしまった。同い年だと聞いたが、私より大人びた彼の脇には鮮やかな色をした鳥が傍らにいた事に子供ながらに似合わないと感じた


今まで祖父のジェローム、祖母のアナイス、叔母コレットの4人で家畜の世話をしながら暮らしていた

急に同い年の男の子と暮らすことに多少の困惑こそあったが、村の外を知っている彼に興味を感じつい目を追ってしまうことがあった

この家に住んでからの彼はというと、仕事の手伝いは真面目に行っていたし、物覚えの良い彼に祖父はいたく気に入ったようで彼に多くのことを教えていた。時折熱中しすぎてしまうと祖母に止められるほどだったが、教わっている彼は嫌な様子は一切見せなかった。

ただ彼は私達家族以外の人とあまり交流をする気がないようで仕事以外の時間は自室に籠もるか、一人で森に行くなどと過ごしていた。

叔母はそんな彼を心配してかよく彼に話しかけていた。叔母と言っても私達と年は近く十歳ほどしか変わらなかったのでどちらかというと姉のように思い私は接していた


テオは本当にすごい

文字も書けて、算術が得意で、運動もできて、仕事覚えも早いし、器用に何でもこなす

それにとりわけ魔術が扱えた

魔術を扱えることは秘密にしたかったようで、時折家族に黙って森の中に消える彼のあとを付けた時に私も始めて知った

初めて彼が使う魔術を見たときは、いくつもの小さな火が宙を舞う綺麗で異様な光景にいたく感動したものだ


それで魔術に強い関心を持った私は

彼に教えを請うたが、彼は渋い顔をしてなかなか引き受けてもらえず、何度もねだる私にとうとう観念して一つだけだと火を扱う魔術を教えくれた

彼はいろんなことを教えてくれたが、私はあまり理解は出来なかった

理解出来たのは魔法陣を書いて魔力を流す、その時にどのような形にするかイメージする

この大まかな流れだけだった


とりあえず彼が書いた魔法陣を見様見真似で書いて、魔力を流すという感覚はよくわからなかったのでそこに手を置いて彼が見せてくれたきれいな光景をイメージした


するといきなり大きな火柱が立った

その熱気と勢いに驚いた私は後退り尻もちを着いた

魔法陣に置いた手を確認すると火傷もしておらず安心してから彼を見ると彼は驚きながらも少し笑みを浮かばせていた


そこからテオは私にいろんなことを教えてくれた。魔術は当然、世界のこと、国のこと、文字などの勉強も

要領の悪い私にはすぐ理解出来なかったが、彼は根気よく付き合ってくれた


それ以降私は彼の後をついて行くようになった。仕事の合間や昼食時には色々な話をした。それには他の家族とりわけ叔母は快く思っていたので仕事中につい話をしてしまう私達を咎めることはあまりなかった。

ただテオは夕食を済ませると彼の部屋にとあてがわれた元は父の部屋にこもって一人で何かをしていた

その様子に父を思い出して、快く思わなかった私は何度声を掛けても、たまに生返事しかしない彼を祖父に相談しても

あの子の好きにさせてやれと取り合ってもらえずとうとう観念した

そんなテオだが朝だけは弱かった

朝食の用意が終わり、全員席についても彼は現れず祖母に言われて彼の部屋に行くと彼はまだ寝ており、机の上にはいろんな本が広げられていた

声をかけると彼はすぐに起きた

そのことに少し驚きつつも、朝食の用意が出来ていることを伝えると身支度を素早く済ませ、彼も席に着く

その度、祖父に叱られる彼を不憫に思い彼を起こすのが私の日課になった。それに声を掛ける私に扉を開いて部屋に招き入れてくれることが、何よりうれしかったのも動機の一つである。

その状況に祖父だけは何か言いたそうにしていたが、それでも何も言わなかったのは彼の日中の仕事ぶりと私の勉強を見ていることが原因だろう


そうやって6年ほどの時がたち私が15の歳になった頃、彼は夕食の席でいきなり王都に行くと言い出した


私は驚き声も出なかったが、祖父母と叔母は始めから知っていたかのような様子で彼に今後のことを尋ねると


「騎士になります」


その一言に驚いた

彼は身のこなしは良いが、あまり体格が良くなく筋肉がつきづらい体質だった

背丈も低くはないが、同い年の子に比べても真ん中ほどで何よりその女性のような綺麗な顔立ちが彼から騎士という言葉を連想させなかった


そう思ったのは私だけでなく

家族からは


騎士はそんな簡単になれるものじゃない

住む家はどうするのか

王都に頼る宛はあるのか

そもそも何で騎士なんて危ない職業なのか


と次々に彼を心配してのことだが、質問を繰り返す。その一つ一つに彼は丁寧に返す


1年に一度騎士学校の卒業者以外にも試験に合格したものを雇い入れていること

自分は魔術も扱えるので合格率はそう悪くはないということ

騎士団に入れば寮があること

王都にはあったことはないが、母の家族がいること

騎士で金をためて、ゆくゆくは学校に入り学者になること


そうして彼が話し終えるとそれでも心配する祖母と叔母を祖父が制止して


「分かった」


とその一言で祖母と叔母も観念したようで彼の王都行きは決まってしまった。その状況に焦ってしまった私は


「私も行く」


と無意識に言ってしまった

彼の時の比にならないほどの非難が飛んできた

それに混乱してうまく言い返せない私に助け舟を出したのは以外にもテオだった


「こいつには誰にも負けない魔術の才能があります。それをこのままにしとくなんてあまりにもったいない」

「フェリシアならもっと多くの人の助けになれるはずだ」


と続けて話す彼に私自身驚いた

テオならともかく、私が人の役にたてるのかは甚だ疑問だ

それでも


「世界のこと、魔術のこといろんなことを知りたいの、王都に行ってお父さんが見ていたものを知りたいんだ」 


その言葉に祖父母と叔母は黙ってしまった

私の父 ドミニク・ベルーナは若い頃に王都の学校に入り学者を志していた

私が知っている父は部屋にこもって何かの研究をしているようだった

何度声をかけても返事はなく、父が生きている時には扉が開くことはなかった

父の顔をちゃんと見たのは父の葬儀の時が初めてだったかもしれない

それほど父は私の前には現れなかった

それがなぜなのか家族に聞いてもどれも答えてはくれなかったが、叔母が祖父母に気づかれないようこっそりと


学校を卒業して以来、連絡がなかったこと

15年前に生まれたばかりの私を連れて急に戻ってきたこと

取り憑かれたように研究していたのは魔術だったことを教えてくれた

私の母に関しては本当に何も知らない様子だった


だから私をは知りたかった

母親は誰なのか

父がああまでして研究を続けた魔術とは何なのか


その答えに一番近いのはおそらくテオだ

根拠はないがそう確信していた

だからテオがわたしたちの元を離れると聞いて焦って突飛なことを言ってしまった 


その旨をたどたどしくも一生懸命皆に伝えようとした。みんなは黙って聞いてくれた


私の話が終わると特に祖父は悲しそうな顔をしていて

一晩考えさせてくれとだけ言い残し自室に戻ってしまった


その様子を見て祖母が

今日はお開きにしましょ、きっと明日の朝にははっきりするからと優しく話しそれぞれ自室に戻ることになる


寝る前にテオと話がしたかったが、テオは神妙な顔をしてすぐに自室に戻ってしまった

彼にいきなりこんな話を聞かせたことと彼の王都行きに水を指してしまったことを謝りたかったが


残った叔母は何か言いたげな顔をしていたのでそれをほっとくこともできず、途方に暮れていると叔母はいきなり黙って私を抱きしめたあとすぐに悲しそうな笑顔でお休みと自室に戻ってしまった


一人残された私も自室に戻り、明日のことを考えながら床に着いた



次の日朝を迎えて、いつもの通りテオ起こして、昨日のことを謝ろうと思ったがテオの方から私の部屋に来た


「おはよう、昨日はちゃんと眠れたか」


その問にかぶるような形で


「ごめんなさい」

と大声を出してしまった

彼は驚いた顔をしてから少し笑って


「昨日は俺も急にあんな話をしてごめん」

その言葉に少しほっとして彼に再度謝った

そこからたわいない話をして彼は先に食卓の方に行った

彼と話したか事で改めて家族と話す決心ができたのでそれに続いて食卓に行くともうみんな揃っていた


祖父の座りなさいと促されて朝食の席に着くと

私より先に祖父が口を開いた


「お前のやりたいようにしなさい、少なくともお前にはその権利がある」


その言葉に誰もが驚いた

祖母と叔母が続けて何かを言おうとしたが、それを介さず祖父は続けた


「父も母のことも満足に知らないなんて、お前には酷なことだとずっと思っていたんだ。せめてお前の父親が死ぬ前に話す機会作ってやるべきだったんだ。お前には申し訳ないことをした」


と祖父は頭を下げた

私はその様子を見て


「私こそ急にわがまま言ってごめんなさい、でも今ここで何もしないとずっとこのままな気がして」


私がそう言うと祖父は笑って

「いいんだ、おまえはただ当たり前のことをやろうとしてるだけなんだから」


といつもより優しい口調で言った。

祖母も同じ意見のようでただこの様子を見守ってくれていた

叔母はじゃあいろいろ決めないとねと明るい口調で言ってくれた


朝食を食べながら王都に行くにあたっていくつか条件を出された


騎士団を目指すなら騎士ではなく文官を目指すこと

試験に不合格なら一度諦めて家に帰ること

合格でも最低月に一度は手紙を出して様子を伝えること


その他いくつか条件は出されたもののどれも納得がいくもので、私はまだ聞いていた


その時、テオが一言も話していないことに気づいて彼の様子を伺うと彼は無表情で朝食を食べていた、見たことがない表情で私が見ていることに気づくとにこりと笑った

この真意について考えていると叔母からはなしをきくように注意されてまた皆の方を見てまた話を聞いた


最後に祖父はテオの方を見て

「こんな孫娘ですが、どうかよろしくお願いします」

と頭を下げた

その様子にテオも驚いたようだが、笑って了承して最後にはなごやかに終わった


かくして私の王都行きが決まった

半年後の試験に合わせて準備を行い、出発の際には家族からは十分なお金とお弁当を持たせてくれた。


その嬉しさと皆から離れる寂しさから泣きそうになって我慢していたが、子供のようになく叔母を見てつられて泣いてしまった


そこから文官志望で試験を受けたものの、座学は自分なりに良い結果だとおもうが、面接は全然上手くできず苦し紛れに魔術がつかえることを伝えると試験官はそれに興味を持ったようで、機会を作ったてもらい、魔術を見せると正式に騎士団採用が決まってしまい、その事を手紙で知らせると皆からから長文の怒りの手紙が届いたがそのどれも最後には私を応援する内容で嬉しくなり少し笑ってしまった


テオの方はというと当然のように合格していたそこよりも驚いたのが剣をあれほど扱えていたことについてだ実務試験で現職の騎士相手に全く引けを取らなかった。少なくとも私と過ごしている間に剣はあまり握っていなかったはずだ

と彼に問うと昔父に習ったと少し寂しげに言うのでこれ以上何も聞いては行けないのだと思った


テオと私は魔術が扱えることを理由に独立部隊への入隊が決定した


それでも彼の寝坊グセは治らなかったなどと考え事をしているうちに扉が開き少しかすれた声で


「オハヨ」

といつもように彼が現れた。













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