第2話 いつもと何も変わらない目覚め

遠い昔の話

まだ五大国がなかった頃の話

平和な世界に突如、魔王が現れた

魔王は、世界を支配しようと町や村を襲い、人々を苦しめた

魔王の力は強大で、人々に抗う術はなく、

多くの人が人類滅亡を覚悟したとき

5人の勇者が立ち上がった

彼らは鍛錬を積み、人類の代表たる力を身に着けていたが、それでも魔王には遠く及ばなかった

それでも諦めない5人の勇者に感銘を受けてか、天空から女神が降臨した

女神は5人を褒め称え、それぞれに特別な力を与えた

理(コトワリ)、剣(ツルギ)、明(アカシ)、命(ミコト)、牙(ソウガ)

5つの力を駆使して、5人の勇者と女神は魔王を退けた

5人の勇者は女神にたいそう感謝して、託された力で世界を守ることを約束した

勇者は散り散りとなり、それぞれが王となって国を築いた

王が国を守ることで、今もなお平和な世界が続くのである


よく母が読み聞かせてくれたおとぎ話だ

この世界に住む者なら誰もが知っているおとぎ話だが、父はあまり良く思っていなかったようだった

それでも寝る前に母がこの話を読み聞かせたのは、今に思えば児童向けの本など手に入るような生活ではなかったので他に読み聞かせができるものがなかったというだけのことだったのだろう






アサダヨ テオ

アサダヨ テオ



いつものように甲高い声に気づいて目が覚める

それとは別に少し離れた扉の奥から


「朝だよ テオ」

聞き慣れた安心する声が聞こえる

そこで体を起こし、窓の外がすっかり明るくなっていることから朝になっていることようやくに気づく


甲高い方の声に目をやると

オウムの「バイアー」が餌を求めてやかましく鳴いていた

とりあえず餌をやって黙らせてから

心地良い声の方に近づき扉を開ける


そこには腰近くまで栗色の髪を伸ばした少女がいつも見せる少し困った表情で立っていた。


「また寝坊なの、早く支度しないと遅れちゃうよ。今日こそヨランダさんに怒られるよ」


そんな俺に少し呆れたようにに声をかける彼女は


フェリシア・ベルーナ


彼女とは子供のころからの付き合いで、同じ時期に王都に出てきた

そして騎士団の同じ隊に所属している


腰近くまであり、手入れのされている栗色の髪

髪で隠れがちだが蒼色の大きな目と端正な顔立ち

衣服で誤魔化そうとしているが、華奢な身体


彼女を見て騎士団を連想するものはいないだろう

さらに彼女はその見た目通り満足に剣も扱えない


それでも彼女が騎士団に属することが出来るのは類稀なる魔術の才、圧倒的な魔力量によるところだ


魔術師の数は時が経つに連れて減っている

魔術を行使するには術式の構築と演算が必要となり、効果が現れるまで時間と手間がかかるからだ

それに加え初歩的な魔術を扱えるようになるだけでも相当な鍛錬とそもそもの生まれもった魔力量が全てを言うので

そのような素質を持ち合わせている者はほとんどいない

日常生活においては道具の発達に比例して魔術の需要が減っていった


軍事利用においては王の存在が最もおおきな理由となる



この5カ国で世界は構成せれている。

それぞれの国の王には独自の能力が代々継承されている

正確にいうとその力こそが王の証であり、前王の死後に力を継承したものがまた次の王となる。王の力はそれほど絶対的なものだ

王がいることで戦局はいかようにも変化する。どれだけの兵士や魔術師が束になったところで王一人には遠く及ばない、だからこそ王の死はその国の滅亡を意味する


そのためか歴史上においても小競り合いこそあれど王同士が参加するような大きな戦争は確認されていない。

それも16年前のあの戦争を除けばの話だが


この王都においても魔術を扱えるものはそう多くはない

仮に魔術による凶行があった際に対応するすべがない


そうした魔術のような剣や腕力のような力以外に対抗するため


独立部隊 バフォメット

が結成され、そこに俺とフェリシアが所属している。



独立部隊の中においてもフェリシアの魔力量は突出している

彼女ほどの才能があるものはこの世界にいないだろう

少なくとも今生きている人間の中では



そんな彼女にならあの時何が出来ただろうか

俺も彼女のような力があればと時折何の意味もない妄想が頭を過ってしまう

俺がやってきたことは正しかったのだろうかという不安は彼女の顔を見ると和らいでいく

そんなどうしようもない自分に自ら軽蔑をする



残された時間を意識する

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