第5話

男の子を泉につけて一週間がたった。あ、もちろん四六時中つけてたわけじゃないよ?陽が落ちてきた頃に空き部屋に寝かして、朝目を覚ましたらもう一回泉につけるの。あの泉は私たち聖獣の住処に近いこともあって、加護がかかってるから長時間浸かってても風邪は引かないよ。飲むこともできて魔力回復にもってこいなんだって。聖獣は魔力が多いからよっぽど足らなくなることはないけど、聖獣を産むときにとてつもない魔力が必要になるから、あれはママたち用なんだ。妊娠したら毎日飲んで陣痛がきたらそれはもうゴクゴク飲むんだって。


「ひめさま、きょうもいずみいく?」

「うん。目が覚めたら教えてね!」


わかった!と元気よく返事をしてくれた精霊たちを尻目に、パパの元へ向かう。今日から、聖獣のお仕事の一つを教えてもらうんだ!その名も…


「魔力放出のやり方を教えるね」

「魔力放出?」

「そう。私たち聖獣の仕事の一つ。私たちはある意味濾過装置のようなものでね、大気中の魔力を吸収し綺麗な魔力へと変える。体内に溜められた魔力を地中に流すことで、この世界はバランスを保っているんだ。これをしないと、悪い魔力、今はこう表現するけどね、が充満して大地が枯れてしまうんだ」


ふむふむ。なるほど。めっちゃ大事だ!


パパもお兄ちゃんもいるのに私が覚える必要はあるのかって?答えは…ある!パパたちい何かあったときに(よっぽどないと思うけど)私ができるようにしていないとまずいし、そもそも、やらないと世界によくないけど、やりすぎは別に問題ないんだって。っていうのも、人間たちの住む街の方では生活の至る所で生活魔法っていう簡単な魔法が使われていて、魔力消費が激しいし、森に集落を作って暮らしている獣人も、狩に魔法をよく使うからできるだけ多くの聖獣が魔力を浄化して放出できる状態が好ましいってパパが言ってた。

しかも今、聖獣は私たちフェンリルが3匹(体?)、ドラゴンが2匹、鳳凰が一羽、白虎も1匹しかいない状況で、対して人間が数億人といるからできるだけ早くできるようになって欲しかったんだって。本当は魔力放出のやり方ももう少し大きくなってから、第一次成長が始まり魔法が使える方になる10歳になったら一番初めに教えるらしい。けど今現在聖獣が少ないのもあって、簡単かつミスしても爆発とかしないからと教えてくれた。


ちなみに生まれてから、1年と少し経ってはいるけど、第一次成長までは時間が早く過ぎるから実質今5歳だよ。第一次成長は基本的には10歳になったらくるんだって。


ところで、この世界の知識はインストールされてるはずなのにしっかり説明されてることにおかしいと思った?実は、バグかなんかで知識が一部足りない状態なんだよね。そこは、一々教えてもらって穴を埋めるしかないんだ。


魔力放出のやり方は簡単だった。血液の流れを意識して、そこに沿うように流れる魔力を感じ取る。そうしたら、魔力が足に集まるように動かし、足から大地へと流れるようにイメージする。人間や獣人が魔法を使うときは基本詠唱がいるけど、聖獣の魔法は詠唱よりもイメージさえしっかりできていれば問題なく使えるんだって。そもそも詠唱は魔法を行使する際に消費される魔力消費を抑えるためのもので、莫大な魔力が備わっていて、今この瞬間も空気中から魔力を取り込んでいる私たちは魔力消費を気にする必要がない。だから詠唱はいらないんだって。


説明された通りにイメージを膨らませる。足先がポカポカした気がして、その後スッと抜けていく感触がした。


「できた?!」

「うん、上手上手」


上手にできた!嬉しくてパパの周りをぴょんぴょんと跳ね回っていたら撫でてくれた。あー、そこ気持ちい!もっと撫でてー!


人間の姿をとっているパパに耳をカリカリしてもらってお腹を撫でてもらうのもいいけど、獣型の時にぺろぺろ毛繕いしてくれるのも嫌いじゃない。でも毛繕いは私とのサイズ感の問題か、ママにやってもらうのが一番好き。ママはすっごく上手だからそのまま寝ちゃうのが難点かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェンリル娘のドタバタ日記 Nau @Nauthi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ