第55話

翌日。

『全兵力転移』で昨日手に入った道具を全てスクシン村へ持ってきた。


「ニッコマ!!」

エイハンだ。

すでにシドル村からスクシン村へ移動できたようだ。

最初の移動は苦労したが、全員兵士でスクシン村のゲートは破壊してあるからな。

見たところ疲労はしているようだが、怪我人もいないようだ。


「おい……」

「あれは……」

兵士たちが集まってくる。


「おいエイハン!! どういうことだ!!」

兵士の一人がエイハンを怒鳴りつける。

「ま、待て……落ち着け」

エイハンが彼らを説得しようとするが、話を聞いてくれる雰囲気ではないな。


「そいつはゲートを破壊していた人間だろう!!」

なんだ。

説明してないのか。

「黙りなさい!!」

トヨワさんが剣を抜く。


「命の恩人でもある勇者様に暴言を吐くというなら、この場で首をはねます」

ちょ!!

「な!!」


トヨワさんから謎のオーラが出ている。

ビリビリと肌を刺すような緊張感だ。

何かのスキルか?

一般の兵士なら確実に勝てないことが理解できるだろう。


「それとも昨日の兵士みたいに焼かれたいのかしら?」

「いやいや……少し落ち着きましょう」

俺はトヨワさんをなだめる。

意外にも感情的になるんだな。


「確かに、俺がゲートを破壊していました。それがどうしたんです?」

俺は兵士たちに問う。

「お前が消えたから、俺たち捜索部隊がシドル村まで来たんだ!!」


「それで?」

「それでって……お前が戻ってくれば」

まぁ俺のせいにもしたくなるよな。

知ったこっちゃないが。


「俺が戻ったら? 今ここにいる人たちは奴隷落ちか殺されていたんですよね?」

「………………」


「不満があるなら、今からメージスに戻ってはいかかですか?

 行きましょう、トヨワさん」

俺はそういうと、他の村人たちのところへ行く。


「ビックリしましたよ……あんなに威圧しなくても状況は理解できると思いますよ?」

「あら……勇者様優しいんですね。

 昨日の勇者様とは別人のよう……」

トヨワさんはそういうと、ペロリと唇を舐める。

あれ?

今よだれ垂れてた?


「み、見られてたんですね……」

昨日は無我夢中で兵士たちを殺しまくった。

見られていたとしたら、ちょっとマズイんじゃないだろうか。

「当然です……はぁ……はぁ……」

え?

ちょっと……なんか様子変じゃない?

トヨワさんの頬がほんのり赤くなり、呼吸も乱れてくる。


「素敵……でした……」

別にこの人に見られてもまずくはないようだ。

「………………」

よだれ垂れてますよ。


いまいち状況が理解できないまま、他の村人のところへ行く。

「食料や道具を持ってきました」

「ありがとうございます」

「いつもありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございます。

 みなさんがこの棒を回してくれるので、エネルギーも効率よく集められています」

新しく来た兵士たちは、不満があるようだが何も言えないでいる。

まぁエイハンに任せよう。

邪魔になるようなら殺してしまっても構わない。


□□□


「家族が?」

「あぁ、今回村にきた人間にも家族がいる。

 彼らを迎えに行く必要がある」

エイハンとフェリスさん、トヨワさんと今後について話し合っている。


「はぁ……それで?」

「今回はスクシン村まで来てしまった。

 俺は彼らの家族をここまで連れてこようと思う」

まぁ拠点に人が増えるのはメリットがあるな。


「しかし、ここに来るまでにゲートがいくつもある。

 それに兵士しか戦えない……」

「協力してほしいってことですか?」


「そうだ……」

マジか。

さっきまで俺を叩いていた奴を?


「私は反対ですね」

トヨワさんが即答する。

「まぁ感情的には微妙ですね。

 ただ、魂効率を考えれば、ここに人はいた方がいいんですよ。

 それに……下民の扱いの悪さも知ってしまいましたからね」

どうしようか迷うところだ。


「頼む……俺からみんなに態度を改めるように言っておく」

「わかりました。

 魂兵を10体ほどお貸しします」

一時的に戦力は下がるが、魂兵さえやられなければそれ以外にデメリットはない。

それに、邪魔になるようだったら殺してしまえばいいしな。


「それで、当初の計画では、この村からどんどんと東に移動する予定でした」

「そうですね」


「潜伏しながら徐々にメージスから距離を取る場合の計画です。

 しかし、撃って出てしまった以上、潜伏しながら移動をしても無駄だと思います」

「「「………………」」」


「今回の襲撃で、メージスも大きな戦力でこちらに向かってくると思います」

「返り討ちですね」

トヨワさんが言う。

好戦的だな……


「俺もゲートを破壊しながら、魂を増やし、強化していこうと思っていました」

「待ってください」

フェリスさんが言う。


「私も戦力強化については異論がありません。

 今の勇者様でしたら、エフラン軍程度でしたら返り討ちにできるかもしれません。

 しかしメージス本国が動くとなれば話は別です」

「確かに、本国が出てくれば戦いの規模は一変するだろうな」

エイハンが言う。

俺は本国の規模がわからないからな。


「ここから東ではなく、北。ホッセイへ向かうのはいかがでしょう。

 スイセンを頼るのです」

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