第52話

「単刀直入に聞きます。

 エイハンさん……あなたは、メージスと戦う意志がありますか?

 彼らを……殺すことができますか?」

「それは……」

やはりな。

考えていなかった、というリアクションだ。


それは仕方ないことかもしれない。

なにしろ拠点の移動、逃げる準備をしていたのだ。

いきなりそんなことを聞かれても答えられないだろう。

そして、それはエイハン以外の人間も同じはずだ。


「この三日間、俺は戦力を強化していました。

 それは拠点の移動、つまり逃げるためです」

「………………」


俺は話を続ける。

「しかし、選択肢の一つとして、迎え撃つことも考えました。

 それは……メージスの人間を殺すことになると思います」

「………………」


このリアクションはダメだな。

「やはり厳しいようですね。

 エイハンさんが無理なら他の人たちも無理でしょう」

「すまない……」


「俺がもし、戦うことを選択したとします。

 メージスの兵士、あなたの元同僚を殺してしまうかもしれません」

「そうだろうな……」

仕方ない、といったところか。


「……………………」

「……………………」


「できたら……下民の兵士は助けてやってほしい」

「……………………」

下民の兵士だけを?

そりゃ無理だろ。


「図々しいことは分かっている。

 それにそれが困難なことも」

「……………………」

いや……無理でもないな。

一つ思いついてしまった。


「ニッコマ……君がどのような選択をしても、我々にはなにも言う権利はない」

「わかりました」


俺は拠点へと帰ってくる。

決めた。

「フェリスさん、トヨワさん。

 俺は、メージスを迎え撃つことにします」

「私も考えていました」

トヨワさんもか。


メージス……おそらくヘンサッチが来るだろうな。

ヤツらはシドル村を拠点に俺たちの捜索を始めるはずだ。

そのときがチャンスだな……


□□□


2日後。


兵力を中心に強化をおこなった。


一般兵 Lv2 30体

一般兵 Lv1 4体

魔法兵(炎) Lv3 1体

魔法兵(炎) Lv2 1体

剣兵 Lv2 2体

槍兵 Lv2 2体


これが全兵力だ。

装備については、石材の剣、盾、兜、胸当てまでは揃えることができたが、他は魂が不足していた。

槍兵を作成したのだが、剣しか作成できていないため今は剣を装備させている。

一般兵以外の魔法兵、剣兵、槍兵は2体までしか作成できなかった。

おそらく施設のレベルアップが必要なのだろう。


一般兵のレベルも全て2に上げておきたかったのだが、時間が足りなかった。

レベル1の一般兵は戦闘用というよりも、荷物持ちだ。

スクシン村の人たちが作ってくれたカゴに荷物を持たせることができる。


そして、俺自身の肉体強化もレベル30まで上げたところで(不可)の文字が出てきた。

残りの魂はほとんどない。

使い切ってやった。


「そろそろですね」

「はい。準備はできています」

「ホ!!」

すでに日が暮れている。

俺とトヨワさん、魂兵たちの準備は万全だ。


「勇者様……」

フェリスさんが心配そうに見つめてくる。

「大丈夫です。

 この作戦なら、万が一危なくなっても逃げることができます」

彼女は俺が弱い頃を見ているからな。

余計に心配なのかもしれない。


作戦は単純だ。

深夜に奇襲をかける。

それだけだ。


「では、行ってきます」

俺は『全兵力転移』をタップする。


□□□


「ん?」

ズシャッ!


俺たちの転移に一人の兵士が気づく。

しかし、トヨワさんが一瞬で首を切り落とす。


「な!!」

ブスッ!!

今度は俺が驚く兵の腹に剣をぶっ刺す。

そのまま上に切り上げ、身体を真っ二つにする。


「敵襲!! 敵襲だ!!」

気づいた兵が大声をあげる。


バレてしまったら、さっさと炎魔法をぶち込んだ方がいい。

俺は魔法兵に指示を出す。


「魔法兵!!」

「ホ!!」


ゴオォォォ……

魔法兵の前に炎の渦が出現する。


静まりかえっていたあたりが、炎で照らされる。

ガチャガチャと鎧の音がするな。

兵士たちが慌てて起きているのだろう。


あっちのテントだな。

基本的にメージスの野営地は二つに分かれる。

上民出身の兵士と下民出身の兵士だ。

見窄らしいテントは下民出身の兵たちのものだろう。

少し光があたれば、あたりが薄暗くても違いがわかるのだ。


「いけ!!」

俺は上民のテントを指さす。


ドガアァァン!!


「ぎぃやぁぁあ!!」

兵士たちの悲鳴だ。

炎魔法が直撃しなかった兵は、死にはしないが、焼かれていく。


「よし、突っ込むぞ!!」

「はい!!」

「ホホホー!!」


何故だろうか。

頭がやけにスッキリする。

今は全力で上民のテントへと走り、できる限り早く指揮官を倒すべきだ。


なのに……

俺はそのことに集中できていない。


さっき初めて人間を斬った。

腹を突き刺した感覚……

胴体を縦にぶった斬った感触……


「フ……フフ……」


ダメだ……

目の前のことに集中できない。

人を斬った感触に酔いしれる。


あれほど偉そうだった上民の兵士……


「フハハ……」


俺は笑いながら走る。


「熱い!! 熱いぃぃ!!」


兵士……いや、ゴミが燃えている。


「アハハハ!!」


殺す……

一人残らず……

誰も生きては返さない……


【解放条件が満たされました】

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