第50話

「聞いてくれ。

 この辺りの地理と、この先に詳しいものはいるか?」

「「「…………………」」」

エイハンの問いに誰も返事はしない。


「では、他の廃村について何か知っている者はいるか?」

「あの……発言の許可を……」

元奴隷の人だ。

発言に許可はいらないと言ってあったのだが、すぐに抜けないのだろう。


「ニッコマも言った通り、発言するのに許可はいらない。何かわかるなら教えてくれ」

「私は昔、この先しばらく進んだ先に住んでいました。

 奴隷になる前です」


「では、この先にまだ廃村があると?」

「はい。私が住んでいたところまで、中継地点となる村もいくつかありました」


「詳しく教えてくれ」


□□□


どうやら十数年前、ここからさらに東の地に大きな村があったようだ。

炭鉱として栄え、メージスへの輸送路もあったらしい。

しかし、ゲートが出現し人間が住めなくなったのだとか。


そのとき、村の領主たちは中央のメージスへ。

村人もある程度お金があるものや上民たちはメージスへ移動したらしい。


しかし、金のない下民は多数奴隷に落ちたとか。

実質炭鉱で働いていたのは、奴隷と下民だったようだが、おいしいところを領主や上民に持っていかれたのだろう。


「中継地点となる村がいくつもあるなら、前回同様に移動ができますね」

「また、あの移動が必要になるのか……」

エイハンたちが表情を暗くする。

結構過酷だったからな。

俺は精神強化のおかげか、それほどキツくはなかったが。


「いや、次からはもう少し楽になると思います」

「そうなのか?」


「はい。すでに新しい魂兵を作成しています。

 最初は俺と魂兵、それから戦える人たちだけでゲートを破壊し、その後の移動でしたら前回ほど負担はないと思います」

「それはありがたい……ありがたいが……」

エイハンは俺に気を遣っているのだろう。


しかし、俺にメリットがないわけではない。

俺にとっても、メージスから離れた方がメリットがあるのだ。

それに、この人たちを全員見捨てるのはちょっとな……


「まぁ……なんていうか……干し肉のお礼ですよ」

「そうか……」


□□□


翌日、俺は5体の魂兵を残し、フェリスさん、トヨワさんと遺跡に帰還してきた。

兵士たちは数日間はこのスクシン村で待機だ。

魂兵が40体にもなれば、次の廃村までの移動がかなり楽になるだろう。


中央の台座が光っている。

今回は新しくゲートを破壊したわけではないのだが。


【解放条件が満たされました】

【拠点化が可能です】

【スクシン村の拠点化には魂が10000必要です】


「どうかなさいましたか?」

「はい。また新しいことができるようです」

拠点化か……魂的にはギリギリ足りるな。


魂 13518 / 毎時魂 500 / ゲート破壊数 38


しかし、不明のものに魂10000使うってのはリスクではある。

しかもスクシン村は現在の拠点なだけだ。

いずれ移動する予定もある。

使うべきだろうか……


やってみよう。

これまでの新しい項目でのハズレはあまりない。

『激昂』スキルくらいだ。

転送室も高価だったが必要な者だったし、10000ともなれば有用なはずだ。


俺は『拠点化』を実行する。


【スクシン村の拠点化が完了しました】


「へ? これだけ?」

時間はかからないのか?

何が変化した?

わからないな……


「どのような内容だったのです?」

「スクシン村の拠点化を実行したのですが、どのような変化があったのかわかりません」

俺はフェリスさんに答える。


「では『転送室』で確認してみては?」

「そうですね」

俺はトヨワさんの助言で転送室へ行く。


そして、転送室の台座を確認する。


シドル村 単体転移 100 全兵力転移 1000 帰還魔法陣 1000

スクシン村 単体転移 0 全兵力転移 1200 帰還魔法陣 1200


ん?

スクシン村の単体移動が0になっている。

これは俺だけだったら魂の消費なしに移動できるってことか?


それだけ?

だとしたら微妙だぞ……

いや、これまでのことから考えると、それだけってことは無いな。


「どうやら、俺一人だったら魂消費無しでスクシン村に行けるみたいです。

 『拠点化』で何か変わったかもしれませんので、一度行ってみますね」

「はい。お気をつけて」

「食事の用意をしておきますね」


□□□


「おい……なんだあれ……?」

「魔法か?」

スクシン村の中央にみんなが集まっている。

やはり変化があったようだ。


「おぉ、ニッコマ!! あれを見てくれ!!」

俺はエイハンの指さす方向をみる。


直径2m、高さ3mほどの黒い円柱が出現している。

さらにその円柱の周りには垂直に、地面と水平にいくつもの棒が取り付けられているのだ。

円柱に取り付けられている棒は、長さ1m程度、直径は20cmくらいだ。


「これは……」

あれだ。

奴隷が回す謎の棒だ。

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