第49話

「おぉ!!」

「すごいぞ!!」

「ありがとうございます!!」

兵士や元奴隷たちに食料を渡す。


「これでしばらくはここを拠点に生活ができそうですね」

「そうだな……」

とりあえず一安心というところなのだが、エイハンのリアクションは微妙だ。


「何か問題がありますか?」

「いや……そうだな……食事がてらあっちの廃墟に来てくれ」

「それなら私も同行します」

フェリスさん、トヨワさんだ。

俺もそうだが、完全にエイハンたちを信用したわけではない。

護衛も兼ねてトヨワさんも同行しようとしているのだろう。


「あぁ……構わない」

エイハンもそれを承知しているようだ。


□□□


「とりあえず礼を言わせてくれ。ありがとう」

「いえ。俺としてもあのまま拠点に戻るのはリスクがありましたから」

少し離れた廃屋にやってきた。


「それで、わざわざ場所を移したのは?」

「あぁ、みんな落ち着いて安心したところだ。

 あまり不安になるようなことは言いたくなくてな」

なるほど。


「不安、というのは?」

「当然これからのことだ。本来の予定であれば、そろそろ我々がメージスに帰還する頃だ」


「確かに……」

「となれば、兵が派遣される。そして、ニッコマの捜索がはじまるだろう」


「でしょうね」

「そして、村の人間も消えている……」

兵士が家族を連れてきたからな。


「我々が逃げたことがバレるのは時間の問題だ」

「だとすると、メージスはこのスクシン村まで来ると思いますか?」


「あぁ、ボーダー様はともかく、エフラン様は欲深いからな。

 なんとしてもニッコマを取り戻そうとするだろう」

「はぁ……」

なんだそれ。

なんとしても取り戻すくらい大切ならば、あんなに雑に扱うなよ。

マジでバカだな。


「そして、最も厄介なのはヘンサッチ様だ。

 ヘンサッチ様は必ずここまでやってくるだろう」

「………………」

マジか。

あの魔法はやばいぞ。


「あの、このスクシン村からさらに東に廃村はありますか?」

「おそらくあるだろう。

 しかし、俺にも詳細はわからん。

 ここから先はゲートができて時間が経っている。

 廃村になったのもしばらく前だからな。

 もしかしたら、俺の仲間や家族の中に詳しいものがいるかもしれん」


「では、大まかな位置を確認し、もう一度遠征するべきでしょうね」

「そうだな……」

道中のゲートを破壊できないからな。

正直魂的にはあまり効率は良く無い。


「それから食料の問題もある。

 今食料は全てニッコマに与えられている」

確かにそうだな。

そして、ぶっちゃけこいつらに食料を用意する義理は無い。

俺の気が変われば餓死するわけだ。


「我々自身で食料を自給できるようにならなければならない」

「………………」

確かに、食糧はタダでは無い。

それほど多くは無いが魂を消費している。


「だが正直、我々が君に対してできることなど限られている。

 君は何を望む? 我々に何をして欲しい?」

「うーん……」

正直困る。

エイハンが言うように、彼らにできることは対して無い。

そのなかでやって欲しいことなどないのだ。


「………………」

「とりあえず、荷物を運ぶ馬車や調理器具、必要なものを作ってほしいくらいですかね」


「それはもちろんだが……」

いや、あと別に無いんだよな。


□□□


「あのエイハンという男、相当疲弊しているようですね」

「これまでの勇者様への扱いも知っていますから、いつ見放されてしまうか心配なのでしょう」

「そっか……」

今度は俺とフェリスさん、トヨワさんで話す。


「それで勇者様はどうされるのです?」

「どうって?」


「あの者たちを助けるんですか?」

「うーん……」

まぁ可哀想ではあるけど、助ける義理は無いんだよな。

エイハンには肉をもらった恩があるが、それだけだ。

ただ下民の兵士にも、元奴隷の人たちにも悪い人はいなかった。

俺と同じように利用されていただけだ。


「どう思います?」

俺は二人に聞いてみる。

「私は勇者様の決定を尊重します」

トヨワさんは言う。

フェリスさんの方を向く。

「彼らを助けても、今はデメリットが多いと思います。しかし……」


フェリスさんは考え込む。

「何かメリットがあるんですか?」

「仮に私たちが彼らを迎え入れれば、この話はメージスに広がると思います。

 メージスのような身分の高い者が優遇される国では、不満が多くあるでしょう。

 そして、不満を持った人々がこちらに集まり、力になる可能性もあります」

力か……


「なるほど」

「しかし、それは同時に難民を抱え込むことにもなるでしょう」


「ですよね」

「伝説では勇者様は強い使命を持って召喚されると言われています。

 そして、多くの者を導くとも……」

いや、俺にそれは無い。

なんだか、フェリスさんが尊敬の眼差しで見てくるが、マジでそれは無いのだ。

使命なんて感じたことはない。


しかし、力が欲しく無いかと言われれば、欲しいと即答する。

この国メージスの狂った身分鮮度をぶち壊したい。


「まぁ難民を抱え込むとかまでは考えられませんが、今この村にいる人は助けたいですね」

これが今の俺の正直な気持ちだ。


【解放条件が満たされました】

【拠点化が可能です】

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