短篇集

WisteriaQ

月夜の茶会

月明かりが照らす茶室

静かな空間に漂う茶の香り

外からは金木犀の甘い香り

雅な風が茶室を包む



静かな庭園には月明かりが照らしていた。

偕楽園にある好文亭。

亭の奥深くにある茶室・何陋庵では月見の茶会が開かれていた。

茶室に客人が入ると、亭主が茶釜に着く。


「斉昭公。本日はよろしくお願い致します。」


客の一人、お梅がそう言い、深く頭を下げる。

続けて、安積澹泊、八兵衛、ネモフィラも頭を下げた。

徳川斉昭は頷き、一度奥へ消えると、人数分の茶菓子を持ってくる。

お梅たちは静かに茶菓子を受け取った。


「本日の菓子は金木犀だ。では、菓子をどうぞ。」


斉昭からそう言われると、お梅たちは菓子を口に運ぶ。

金木犀を模した菓子は、文字通り、金木犀のように柔らかな甘い香りと染み込むような口溶けだ。

お梅たちが菓子を味わっている間、斉昭は抹茶を点てる。

そして、点てた抹茶をお梅に渡す。

お梅はゆっくりと器を回し、茶をすする。


「お点前、結構でございます。」


と言い、お梅は軽く頭を下げる。

斉昭は嬉しそうに笑みを浮かべ、頭を下げる。

茶釜へ向き直り、次の抹茶を点てる。

点てた抹茶は安積へ渡される。


「さすがのお点前。」


抹茶を味わい、安積は軽く頭を下げる。

それから、ネモフィラと八兵衛も抹茶を味わった。



「…金木犀の香りが一層強くなっているな。」


茶碗を拭いながら、斉昭はそう言う。


「あの世の者たちも茶会に訪ねに来たのでしょうか。」


そう言い、お梅はクスッと微笑む。


「ふむ、あの世の者たちも招待すればよかったかな。」

「きっと、お月見を楽しみにしていたのではないでしょうか。」


安積がそう話すと。


「あ!月見団子!月見団子やりましょうよ!」


と、八兵衛がはしゃぎ出す。


「八さん、団子食べたいだけでしょ。」


ネモフィラがそうツッコむと、うっと八兵衛は肩を縮ませる。


「けど、あの世の者たちが来ているんなら、茶会の続きでもしても良いんじゃないでしょうか。」


と、ネモフィラが提案する。


「うむ、それも良いかもな。では、茶菓子の団子の準備をしてこようか。」


そう言い、斉昭は立ち上がる。


「八、手伝い頼む。」

「はい!」


八兵衛は斉昭と共に部屋の奥に消え、お梅とネモフィラは茶室の周りに集まる妖たちを呼びに外へ向かう。

安積は妖に合う花を選びに花瓶を持って、茶室を後にした。



月夜の茶会はまだまだ続く。

ここから先は、怪しい妖の茶会が始まるのであった。

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