第3話 裏の話

「親父が隕石の落下に巻き込まれた!?」


 警察からの連絡を受け、驚きを隠せない息子、正樹まさきは携帯電話を手に職場で呆然としていた。


『聞こえていますか?現在捜索中でありますが、現場に遺体の痕跡はありません。何処かへ避難したのかもしれません。心当たりが在ればお聞きしたいのですが、聞こえていますか?』


「…あ、すいません。それで?」


『はい、避難場所に心当たりが在ればと、息子さんの所に連絡はありませんか?』


「いいえ、特には…」


『そうですか、分かりました』


 警察は父の行くへを探しているらしく、正樹に連絡をしてきたのだ。もしかしたら息子の元へ避難しているのではないか、そんな考えからであった。

 だが、正樹の元へは何の連絡も来ていない。不安が過ぎる。そうなると居ても立っても居られない。

 正樹が居る東京から父が住む場所へ、高速で急いでも3時間半はかかる。


「あ、私もすぐそちらへ向かいます」


 直ぐにでも向かった方が良い、そう考えた。


『あぁ~、大変言いにくいのですが、現在該当エリアは立ち入り禁止でして…』


「え?」


『落下した隕石の影響を考えますと何が起こるか…』


「そんな…」


『お父様から連絡が有るかもしれません、そちらで待機されてはどうでしょう?』


 警察とのやり取りを数度繰り返し、正樹は即座に行動する。上司へ事情を説明すると、父を心配し休暇を取るよう言い渡された。

 正樹はお礼をいうと、近くのレンタカー店へと向かい父の住む地域へと向う。たとへ現場に入れなくても何かできるはずだと。



 結果、彼は父を発見する事となる。



 変わり果てた父親を…。







●〇●〇●〇●〇●









「いやー、どうしよう。ねえ、どうしよう?」


[身体の損傷が激しいです、このままですと死にます。というか凍結を解けば2秒で死にます]


「うん、それは解るんだけど、分かるんですけど!」


[何がお望みですか?]


「もちろん解決策さ」


[すでに思いついているのでは?]


「あぁ~うん、やっぱアレしかないかな?」


[そうですね、アレしかありません]


「あんまり使いたくないんだけど…」


[原住民の死亡と、希少とは言え現在21あるクリスタル、どっちが優先ですか?命と無機物どっちが優先ですか?]


「むむむ、でもな~アレ1つで惑星1つが開拓できるんだよね~」


[いつ開拓するか解らない惑星と、今失われる命を比べると?しかも自分で殺しておいて]


「いや!まだ死んで無いし!!俺のせいじゃないし!!!のせいだし!!!」


[どちらにせよ過失はこちらに在ります。どうします?ここで放置すれば、すぐ逝けますよ]


「ああああああああああああ」


[使いましょう]


「…うん」


[実行前に彼が最後に行っていた言語の解析が完了しましたのでお伝えします]


「何て言ってたの?」


[「俺のデータ」ですね]


「俺のデータ?何それ、あの原住民のパーソナルデータがあるの?」


[直前まで起動していた媒体にありました、我々では考えられないほど旧式の媒体にですがデータは在りました]


「あ~助かる~。損傷が激しすぎてどうしようかと思ってたんだよね~」


[このデータを元に肉体の復元をすれば問題ないかと、ただ…]


「ただ。何?」


[付随する物が色々あるようで]


「え?何?それもまとめて吹き飛ばしちゃった?」


[該当する物が発見できていないので恐らく]


「うえぇ。仕方ない、仕方ないから一緒に再生しよう」


[分かりました、データを元にクリスタルの使用を開始します。実行開始]


「行動がはやいね、うん、いいね」


[それと]


「え?まだ何かあるの」


[吹き飛ばしたエリアをどう誤魔化すかです、すでに現地住民が此方へと向かってきてます]


「速いわ!誤魔化せないじゃん!」


[はい、ですので代替え案を]


「え?聞く聞く何何?」


[隕石の落下事故にしましょう]


「なるほど、いいね!」


[この星に存在しない物質がよろしいかと]


「う~ん、丁度いいのあったっけ?」


「αk-61次元で採取した鉱石です、今丁度良く下で燻ってます]


「あ~まさかの問題を起こした元凶か~、だけどアレが反応したってことは…問題は無いの?」


「問題ありません、この惑星に住む原住民にとっては返って都合がいいかもしれません]


「ん?何かこの星って問題でもあるの?」


[問題しかないです、この星の原住民は争いすぎです]


「あ~そうなの、じゃ丁度いいかもね」


「はい、問題ありませ、問題発生!!!!」


「えええええ!今問題ないって!?」


「いいえ!そっちでなく蘇生中の原住民です!」


「何があったの?」


[クリスタルが3個消費されました…]


「……は?」


[不味いですね、クリスタルを使えば本来一瞬で完了する予定だったのですが…]


「…どうなるの?」


[3個消費ですと時間が掛かります]


「どれくらい?」


[我々の時間軸で0.25ロジ、この星の周期で25~26周期です]


「そんなに居られないよ!それだけ時間が在れば次の次の次の次元空間まで行けちゃうよ」


[では仕方ありません、そのまま放置しましょう]


「え?いいの?無責任じゃない?」


[生きていればいいのです、死んだら目覚めが悪い、それだけです]


「随分と利己的な人工頭脳だな…」


[仕方ありません、人工知能は製作者に似るのです]


「ねぇ、それって僕のことかな?」


[では実行に写ります、射出完了しました。この惑星からの速やかな離脱を提唱します]


「はや!って、すでに大気圏外じゃん」


[後はどうとでもな~れ!です]


 宇宙船のモニターから青い星を眺めながら製作者は人工知能に問う。


「なあ?あの鉱石本当に置いてきて良かったのか?」


[問題ありません。そう遠くない未来、あの惑星の資源は枯渇します]


「ふ~ん、それならなのかな~」


[そうですね、ある意味うってつけです]


「だけどな~あれには意志があるだろ?」


[そうですね、アレが暴走したけっかが今回の出来事でもあります。何かがあったからアレは反応した。なのでは起こるでしょうが…任せましょう]


「大丈夫かな~本当に大丈夫かな~。アレってを減らそうとするだろ?」


[大丈夫です、あの惑星は資源に対しての人口比が多すぎる傾向に在ります。そこもアレは考えるでしょう]


「『人々に試練と繁栄を』だっけ?」


[後はどうにでもな~れ~。です]


「……」




※ なお、この会話中彼は椅子に座り同じ姿勢のままであった。









●〇●〇●〇●〇●









「へぇ~こんなところに川があるんだ…」


 現場へ来て3日目、未だ立ち入りは禁止されている。

 

 2日間は現場近くに寝泊まりしていたが、少し気分を変えるため落ち着く場所を探していたのだ。


「時間が掛かるかも、とキャンピングカーをレンタルして正解だったな。今晩はここで過ごすか~」


 未だ発見できない父親、不安は募る。

 隕石落下の衝撃は相当な様子で、遠くから眺めて見たが大きなクレーターを中心に更地となっていた。


「あの感じだと全部吹き飛んじまったのかな…」


 不安を口にする。

 警察の話では血痕や肉片なども未だ発見できていないと言う。ならば望みは有るのだろうか。それともそれすら吹き飛んで蒸発したのだろうか。


 川面をみつめなら考えたくない事を考えてしまう。


「ははは…、縁起でもない。にしても随分眩しいな、川ってこんなに光を反射したっけ?」


 反射する光の先、そこに目を奪われる。


「なんだありゃ?」


 光の先、何かがあった。


 川岸をゆっくり歩きながら、その光の元へと向かう。


「なんだ?ガラスの塊か、隕石の落下でなにかあったか?」


 そして正面に立ち言葉を失う。


「……親父」


 ガラス、水晶、クリスタル言い方は何でもいい。





 正樹の父はそこに居た。いや、






「何だよそれ…何なんだよ!!!!!」


 クリスタルを叩くがびくともしない。生きているのか死んでいるのかも解らない。足元に転がる大きな石を頭上に掲げ投げつけるが傷一つ付かない。


「畜生!なんだよ。畜生!」


 何度も何度も石で殴りつける。


 手にマメができ血が流れた頃、やっと冷静になった正樹は警察へと連絡を取る。


「親父を見つけました…、ええ、ええ、場所はそこからさらに3km程離れた川岸です、途中まで迎えにいきますので一緒に来てくれませんか?ちょっと説明しずらいので。ええ、はい、お願いします…」


 正樹は警察へと連絡を済ませると父へと向き直る。


「生きてる…よな?生きてるよな?」






 発見された父親の状況を確認した警察は、状況を確認し唖然としていた。


 消防機関や医療機関へと連絡を取り、何とか救出を試みるも父親を包む水晶に傷一つ付けることが出来なかった。





 結果、正樹の父親は病院では無く、国の研究機関へと搬送される事となる。


「親父はモルモットですか?」


「違いますよ、我々も何とか出来ればと考えております」


 愛想笑いを浮かべる研究員に嫌悪感を覚えながらも、それしかないとも考えていた。


「安心して下さい。必ず何とかして見せます」


「どちらにせよ、私にはどうにもできませんから。よろしくお願いします」


「もちろんです。ですから其方もよろしくお願いしますね」


「……はい、分かっています」


 それは先ほど書かされた誓約書のことであろう。今回の出来事は他言無用、面会も1年に1度、そんな誓約書であった。

 対外的には正樹の父は生きており、全国を旅して回っている事となる。何かあれば連絡をくれると言うが…。


「早く旅から帰って来いよ」


 帰り道、研究機関の門の前で正樹はそう呟く。









 そんな息子の願いが叶うまで、実に25年と8か月を要する事となる。




 






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