第8話 偽パーティー、魔牛君と協力する
俺は確かに魔牛君に魔王だとバレたくないとは言った。
だがしかしどうしてどうして人間に化けたあんたが俺の前に現れると思うよ?
「ヒタキ君、良かったちょうど良い時に会えて!」
「ちょうど良い時?」
ダッシュで俺の所にやって来た魔牛族のお頭は、ブイとセロンからのジト目にも怯まずに……というか完全無視して勝手に俺の両手とパチンパチンとハンドタッチしてウキウキしている。こんな姿からは彼が魔牛クランのお頭、族長、トップって立場だとは誰も思わないだろう。うん、俺も思わない。本当に誰これ?
全くモー、上手く化けたなー。
元々の髪と肌の色はそのままに、瞳の色だけは変えて無難なグリーンだ。随分鮮やかになった。
半ば感心しているとブイが俺の腕を軽く引いた。
「マスター、彼は?」
「ああ、ええと……」
何をどう言えば良い? 微塵も魔牛の設定がわからないんだが?
逆の腕をセロンが引いた。眼鏡をキラーンとさせている。
「勇者様のお知り合いのようですが、どういうご関係で?」
「どういう関係って言われても……」
真っ正直に邪悪な主君と臣下でーすって言うわけにもいかない。そもそもこんなフレンドリーな王と臣なんてどこにいる。いや、何故かここにいるがっ。
うーん、よし、故郷の友人とかにしておくか。
「あー、実は近所の友人――」
「――元カレだよ。ね、ヒタキ君!」
…………うん?
「「元カレえええ!?」」
今にも卒倒しそうな二人以上に俺も卒倒するかと思った。
「一つ屋根の下で過ごした日々もあったよね」
あー、城で大人数でな。
「「同棲えええ!?」」
そう取るかー、……っ、設定に難があり過ぎるっっ。
「いや違うから。こいつの冗談だから真に受けて誤解しないでくれ」
「あっはは~ヒタキ君は相変わらずうっとりしちゃうくらいにクールだね! ……ところでさ、この蟻んこ共は何? 放つ空気がうざくない?」
直前までえへへと笑っていたのが嘘みたいに魔牛はブイとセロンを見て極寒の眼差しになった。声も低くなって抑揚が消え、無感動無表情に豹変したのも強烈だ。
そうだよ、彼は人間と戯れるのをよしとしない厳格な魔族だったよ。たぶん正体を知らないんだろうが勇者と聖皇帝を蟻んこ呼ばわり。俺はどこまでフォローできるだろうか。何事も起きない自信はない。
「こっこら彼らは俺の仲間なんだから、失礼をするんじゃない! あんたちょっとこっち来い」
ブイとセロンをその場に残し、俺はプンプン怒ったふりでやや離れた位置まで魔牛を引っ張っていく。ここなら会話は聞こえないだろう。
「あのな魔牛族長、これはどういうつもりだよ? 人間のふりして何がしたいんだ?」
「そりゃあ魔王様のお力になりたくてですよ。あ、私めの事はウシオとお呼び下さい。牛君でも結構です。このウシオは魔王様と、つまりはヒタキ君とかつて冒険者バディを組んでいて家の相続事情で一度バディを解散したのに、やはりまた冒険者をやりたくて、でも自分から解散した手前ヒタキ君には意気地がなくて言えなくて、結局は一人で始めた人間です。因みに紆余曲折あって家は継ぎませんでした」
「……設定細かいな。家を継がなかった紆余曲折が気になるし」
「形からきっちりしたい性格ですので。紆余曲折は話すと三時間程かかりましょう」
「じゃあいいや。それで? 俺に先んじてこの村に来て広場で何を演説していたんだ?」
ウシオはにっかと無駄に白く輝く歯を見せて笑った。
「この村を悩ませている魔物に、村人を総出でけしかけようかと」
「は……?」
意味がわからない。けしかけるって表現の意味がわかっていのか? 大体村人をけしかけて成功するならとっくに村は平穏だ。
「魔物は、あんたが既に追い払ったんじゃないのか?」
「あんた……他人行儀は嫌だなあ~」
「……。ウ・シ・オ・が退散させたんじゃないのか?」
「村周辺の雑魚はそうですけど、ボス戦は残しておきました! 偽・勇者様の活躍の場を是非にと思いまして!」
主人に誉めてほしい犬みたいにするな。
「そこわざと偽を付ける必要なかったよな? な? くれぐれも口を滑らせるなよ。城に帰らないといけなくなる」
「え!?」
ウシオは今は赤くないグリーンの瞳を大きく何度も瞬いて驚きを示した。それと同時に喜びも。
「このウシオはてっきり、ヒタキ君は勇者ごっこをどうしてもやりたくて、この大陸に散る魔族をやっつけるまでは寂しくも城には帰って来ないのかと思っておりました」
「勇者は俺が望んだわけじゃない。領地を許可なく出て好き勝手している魔族を倒すのは、臣下への躾としても有効だろうからついでだよ」
ウシオが何を嬉しがっているのかはよくわからないが、俺は今思い付いた事を同族の討伐理由してみたよ。魔王の威厳を示すためにもな。
「……ボロを出せば城にお帰りに。そうすればもう目障りな蟻んこ共が周りを這わなくなる」
ウシオは口の中だけで何かを呟いて唇をにんまりとさせた。
「ウシオ? おーいウシオ? 急に考え込んでどうしたよ?」
「いいえ大した事ではありませんので。ああそうそう、この地に出没する魔族は村の近くにある洞窟の奥に棲んでいる竜族です。竜族の中でもお馬鹿な下位なので、魔物ドラゴン扱いが妥当ですね」
魔族はウシオのような魔獣族や魔物の総称でもあり、魔獣族と魔物にも案外意味の違いはほとんどない。
しかし魔物と言われるのを魔獣族の中には嫌う者もいる。言動からしてウシオもその一人なんだろう。
まあ、俺も確かに魔族と言うと知的な感じに聞こえ、逆に魔物だとなりふり構わず汚く暴れ回る姿が思い浮かぶ。善でも悪でもイメージって大事なのかもしれない。
「ふうん。ドラゴンか。そいつが村人を襲って食べたりしているのか」
「食べる? いえいえあれは美食家ですから細っこい人間なんて食べませんよ」
「なら何をしているんだ?」
俺にはドラゴンと言えば人を襲って食べる想像しかできない。
「え、ええとその、にに肉体労働と言うか、最低な奉仕というか、その……主に夜の方面での……それも男女問わず」
ウシオは少しだけ言いにくそうに言葉の最初を詰まらせて言ったが。俺は微妙に怪訝にした。
「え、話はわかったが、ドラゴンが? 人がドラゴン、と? は? どうやって? 踏み潰されるだろうに? あ、そういう残酷なのを求める系なのかそいつは?」
「いえ、普通にこのウシオのように人間の姿に化けてベッドインですよ」
「あ、あーっ、そうかなるほどなるほどーっ」
思わず赤くなってしまった。本当にどんな最低なドラゴンだっ!
すると、ぷふふふっ、と何かを堪え切れなかったようにウシオが笑い出した。
「魔王様はいつお会いしても本当に……可愛いお方ですよね」
「は……」
はああーーーーっ!?
これはもしや俺は何気に魔王のくせにお子ちゃまとか馬鹿とか嘲られているそんな笑いか? そうなんだなウシオ!?
「このっ、笑うなよ。笑い過ぎだ!」
俺は背の高いウシオの首に腕を回して引き寄せて、髪をぐしゃぐしゃしてやった。腹が立つが本気で怒ったわけじゃないような時にふざけながら叱る、羞恥を誤魔化す、そんな感じのスキンシップだ。
こんな風なやり取りをすると、ウシオとの友人って設定が妙にしっくりくる。
あはははと俺も終いには笑い出して、現状をすっかり失念してじゃれ合ってしまった。
ぷっくーと頬を膨らませる小動物が二人。
俺がウシオと話を終えて彼を連れてブイとセロンの所に戻ると、そんなだった。
俺がウシオを改めてただの友人だと強調して設定通りに紹介すると、二人は強張った顔付きをやや和らげた。
ドラゴンの情報も伝え、先に村人と協力してこの村の魔物退治をしようとしていたのはウシオなのもあって、俺達は彼と協力すると伝えるとブイもセロンも不満そうにした。
ウシオはこれと言って何かをしたわけでもないから二人が不愉快になる理由はないはずだ。たぶんパーティー仲間以外が加わるのが嫌なんだろうな。
それでも勇者パーティーだからと獲物を横取りする横暴はできないと、不承不承だが受け入れてくれた。
「ああ、念のため確認するが、俺の正体は秘密だぞ。セロンは俺を呼ぶ時はヒタキで。あくまでも俺達は流れの冒険者一行だって設定を忘れないでくれな?」
ブイはうっかりしないようにと心してしかと、セロンは何故か「お互いに呼び捨て」とそわそわしたようにして頷いた。
ウシオは俺の偽事情を把握しているが、そこも二人には伏せておくのが無難だろう。ウシオ本人にも合わせるように言ってあるので下手な言動は慎むはずだ。
会話の間、セロンはちらちらとウシオを探るように見ていて、彼が人間なのか怪しんでいるのは明白だった。ウシオは俺みたいには完全には魔族の気配を殺し切れていない。それでもドラゴンの気配が濃厚なこの村なので、それに紛れさせてぼかしているからバレてはいないはずだ。ウシオ本人ではなく俺の方がハラハラしているし。
セロンが確信を持つリスクは長くウシオと過ごせば過ごすだけ高くなるだろう。
ウシオが身バレすれば芋蔓式に俺の正体にも疑問を持たれる。魔族の友人は魔族だろうって感じで。
故に、短期間でドラゴン討伐を成し遂げねばなるまい。
そしてウシオにはさらばいしてもらう。
村の広場で、俺達も加えてもらっての討伐計画を練った。
いやもうさ、正直に言うと俺一人で洞窟に乗り込んでいってさっさとドラゴンを倒したい。しかしそれをすると魔族だとバレるからできない。
俺を勇者と思っているセロンもいるから尚更に聖剣をそれっぽく使わないといけない。聖剣の力を引き出すためブイにも手伝ってもらう必要があるだろう。
ウシオに一斉突撃を煽られてやる気になっていた村人達は、あたかも夢から覚めたようにして冒険者の俺達に討伐を任せてくれた。
「ウシオ、さっきは熱心に何を演説していたかと思えば、彼らを洗脳していたんだろう」
こっそりウシオを肘で小突くと彼は「ご名答」とにこにこした。いくらドラゴンの魔力が駄々漏れていて多少の魔族魔法を使っても紛れさせられるからって、身バレするリスクを取るなよな。
「はー。その手の悪行はやめてくれよ?」
「悪行? どこがです?」
ハハハ、そうだった彼は魔族だった。人間は蟻んこなんだっけ。
気にするなと言い置いてドラゴン対策を詰める話し合いを再開する。
「俺としては早々に今夜にも決着をつけたい。皆はどう思う?」
「私は賛成です。早いに越した事はありませんからね」
「僕も異論はありません」
「このウシオも大賛成だよ! ……蟻んこと同意見なのはムカつくけどね!」
ウシオ、裏表っ!
彼の問題のある性格には二人もだいぶ慣れたようでいちいちキレたりはしない。大人だよ。
「ウシオ、あんた幾つだよ。もう子供っぽく突っ掛かるのはやめてくれ。この二人は俺の仲間なんだから」
「そんなっ、子供だなんてヒタキ君は酷い。ウシオはこれでも十五になったんだよ!」
「は……? じゅう、ご? 十五歳? ははは嘘だろー、俺より下? 冗談言うんだなウシオもー」
魔牛族最年少の族長とは知っているが、十五? いやいやいやいや~、本当の姿はあの強面に鎧にマントの筋肉戦士だよ? 腕とか丸太だよ? あれで十五歳とか、マジで?
マジらしく、ウシオは拗ねたような目ですっかり黙ってしまった。
「え…………本当に?」
「十五だよ!」
「じゃあ、セロンと同じくらいなんだ?」
すると今度はセロンが衝撃を受けた顔になる。
「これでも私は二十二歳です!」
「え……?」
「あ、僕はもうすぐ二十一です。そう言えば聞いていませんでしたけど、マスターは何歳なんですか?」
ブイのは見た目通りだとしても、ウシオとセロンは見た目とのギャップが半端ない。しかもセロンは五つも上だし。
「ははは、十七だよ」
時に人の外見と年齢って、わからないものだよな……。
気を取り直した俺は後は無になって作戦を詰めていった。
その結果、エロドラゴンの油断を誘ってその隙にグサッとやってしまおうという話になった。
「だが、どうやって油断させる?」
「ご奉仕要員に扮して誘惑すればいいんじゃない?」
ウシオがさも当然のように宣った。
……それは一理ある、一理あるが、誰がそんな役を買って出るよ? 戦力にならない村人は論外だ。
その村人達は親切にも夕方になって少し涼しくなる前に会議場所を広場から屋内集会所へと移すように言ってくれて、ご馳走まで用意してくれた。
更に、ご奉仕と言うか生け贄達に過去どういう格好をさせて送り出してきたか、如何にドラゴンが酷い魔物かを教えてくれるためもあってか、生け贄服を見本にと持ってきて広げてくれていた。
それは、男女問わず同じ型のようで、スケスケヒラヒラな丈の短い浴衣と表現して障りない代物だ。美脚が問われるデザインでもある。ドラゴンは脚フェチとか言わないよな?
「いやさ、生け贄役はこれを着るんだってわかってるのか?」
これならかえってトランクス一丁で行った方がまだマシ。
「こんなの誰が着るんだよ?」
無言の視線が俺に集まっているのはどうしてだろうな。
「夜まで時間もないですし、この際多数決でサクッと決めてしまいましょう」
セロンの提案に他二人からは即座に賛成の声が上がった。
……いつになく猛烈に嫌な予感。
民主主義って、多数決って、時に酷い。
俺が着る羽目になった。
実は俺三人から嫌われているんじゃないだろうか。こんな屈辱、生涯忘れマジ……!
後は、嗚呼どうしてこんな事に……と悩み悶々として過ごして夜になった。
そろそろ出発だと俺は覚悟を決めてあの破廉恥衣装に着替えた。
登場した俺を見て、三人はしばらく目を見開いて絶句したよ。
俺は深い溜息をついて額に手をやった。あんたらが見るに耐えないって思っているのはわかっている。わかってはいるんだが、露骨にそんな衝撃の反応をされるとさすがに少し落ち込む。生け贄油断作戦は既に失敗しているんじゃなかろうか。
「おい、俺にかなり失礼だろうに」
不機嫌丸出しで睨むと三人はハッとしたように我に返り、明らかに焦って誤魔化す咳払いをした。想像以上とか何とか目配せし合って呟くのが聞こえたが揃って愛想笑いを浮かべる。ははっ、想像以上に痛い見た目って? 自分でもわかってらあっ。
「ヒタキくーん! すっごく様になってるね! 可愛いよ!」
「マスターは実は天使だったんですね! 神々しいです!」
「ヒタキ、誰よりも素敵で美しいですよ! 祝福します!」
このご機嫌取り達を殴り倒してもいいだろうか。
他人事だと思ってさ。スケスケ浴衣を着た俺は我が身の見せ物ぶりに憤りでわなわなと震えたが何とか堪えた。
「三人共、ドラゴンが油断したと思ったら攻撃を頼むからな。セロンはとりあえず剣を持ってきてくれ。……ブイもいざって時には嫌だからって逃げるなよ」
俺の台詞はブイにとっては意味ありげなものに聞こえただろう。
聖剣を使用中にするのはブイにしかできない彼の仕事だ。彼は俺の力を使わずにドラゴンを倒すのに最も大事な役割を担っているんだ。
不安そうな顔をしたが、そこは頼むからちゃんとしてくれよな。
そんなわけで、俺達は村の近くにあると言う洞窟に向かった。
洞窟近くになると皆は隠れて俺一人で進む。
事前に今夜は生け贄が行きまーすと連絡を受けていたドラゴンは、待ち切れなかったのか洞窟の前で舌嘗めずりをして待っていた。
まだドラゴンの巨体のままで。
その姿で恐怖を植え付け生け贄から抵抗の意思を殺ぐためだろう。そうすれば生け贄は言いなりになってどんな際どいご奉仕でも受け入れる。死にたくないからな。だが結局生け贄が生きて戻った例は数える程らしく、生きていても廃人同然だったって話だ。村人の泣く泣くの話を思い出したら気分が悪くなった。
「お前が今夜の生け贄――むおおっ!? かっっっわ……!!」
ドラゴンは恐竜みたいな顔で俺をマジマジと見つめて鼻息を荒くふんがふんがさせた。
何事だよ? そういう発作持ちか? 確かに知能の低くて馬鹿そうな竜族だなこいつは。何もしていないうちから何を興奮しているのかは知らないが、爬虫類系からの嘗めるような視線っていうのは気色悪い。
思わずガンを飛ばしたくなったが、俺は自分は健気な生け贄だったと思い出し必死に言い聞かせた。
「あ、あの、ドラゴン様、まだ中には入らないのですかあ? この服で外は寒いのですう」
裏声を使い儚げな生け贄演技で見上げると、むっふーとドラゴンは鼻息を熱くした。
「ああ、そ、そうだな。はは早く中に行こう。めくるめく夜を約束するぞ。毎晩腰が立たなくなるくらいにたっぷりと可愛がってやろう。お前は死なせたくない。殺さないからそう怯えずともよいぞ。わしもついに運命の相手と巡り合ったのかもしれんな、ぬあはははは!」
何を言っているんだよ、こいつは?
ドラゴンは次には人間に化けて俺の肩を抱いて洞窟へと促してきた。このドラゴンの人間バージョンはよりにもよって太ったエロ中年オヤジだった。パンティーとかブラを頭に被っていそうな感じのな。化けられるだろうに、どうしてイケオジに化けなかったのかは謎だ。
俺は洞窟に入る際、最後にちらりと森を振り返った。
皆、頼むからな。
木の陰にでもいるんだろう三人の姿はここからじゃ見えなかったが、俺にはしっかりと三人……プラスワンの存在が感じられた。
「ははっ、あのドラゴンは死刑確実だ!」
「ふふっ、同感です」
「よくもマスターにベタベタと……!」
洞窟奥にヒタキが消えて間もなく、三人はそろりと洞窟入口へと近付いた。
「あのドラゴンは手が早そうだし、もう入るかな」
ウシオは口笛でも吹きそうな感じでマイペースに一人で入っていく。遅れてなるものかとセロンとブイも彼を追う。
ウシオはふとブイとセロンの更に後ろへと目を向けて、何かを見つけたのかふっと薄く笑んだが、何も言わずに前を向いた。
奥からはドラゴンのいやらしい声が聞こえてくる。ヒタキの声は聞こえない。
「マスター、どうか何事もなくいて下さい」
「彼は本当はとってもお強いのできっと大丈夫ですよ。焦って向こうに気取られないよう、落ち着いて行きましょう」
ウサギ耳を忙しなくピコピコ動かし音を拾うブイが声を震わせる。宥めるセロンも表情では抑えているようだが、眼差しには焦燥が滲んでいる。
「我らが魔王様はホント人タラシ」
聞こえないよう一人小さく呟いたウシオが呆れたように苦笑した。
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