グレー

堕なの。

黒く黒く

 赤は熱くて、青は冷たい。白は清廉潔白で、黒は悪逆無道。水は川の音が聞こえ、緑は木々の囁きが聞こえる。黄は明るい太陽、紫は蝕むような毒。

 色のイメージは様々ある。じゃあ、灰色は?


 窓の外の空は暗くて、星が瞬いていた。月は出ていない、新月の夜は何時も以上に静かで厳かな雰囲気を纏っている。カーテンも闇に溶けて、風に靡くことはない。外で真っ黒な木々が揺れ、その闇を振り撒いている。

 キャンパスいっぱいに色を乗せていく。真っ白だった紙は、赤に、青に、色んな色に彩やかに染まっていく。何の計画もなく、ただ美しさだけを表してみようと筆をとった。

「違う、違う、もっと」

 塗って、混ぜて、ぐちゃぐちゃになる迄。そうしたら、いつかひとつの色に辿り着く。

 窓から差し込む白が絵を照らし出す。小鳥たちの歌声が楽しそうに、祝福しているよう。カーテンは緩い風に巻かれて、空を泳いでいる。絵の具が跳ねた手は赤に、青に、色んな色になっていた。指先は冷えて、胸の奥では炎が点っていた。今までで一番の作品ができた。満足感と共に意識は落ちた。


 足元から力が抜けていく心地がした。いや、穴の中に落ちていくときのような浮遊感に襲われて意識は浮上した。

 絵が変わっている。真っ黒なのだ。自分の作品が。あんなにも色彩やかだったはずなのに。まるで汚物のように、ありとあらゆるこの世の汚さを混ぜたもののように思えた。

 血の赤と、押し寄せてくる津波の青。死後の白と、地獄のような生の黒。水は喉の乾きを連想させ、緑は自然の乾きを連想させた。黄は地上の全てを焼き、紫は人の感情すら蝕んだ。

 焦燥感。それに支配されるように、また絵の具を塗りたくった。ずっとずっと黒かった。

「違う、違う、もっと」

 白を手にとった。その瞬間に、自分の中の何かが解けた。そうっと、今までの動きなど嘘かのようにゆっくりと、何か映画のワンシーンのように線を描いた。それは黒を薄めて。

 ただ、夢中で白を乗せ続けた。どんどん、絵が綺麗になっていく。それは、目を引く灰色。

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グレー 堕なの。 @danano

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