二羽の鳥 製作三日目 その3

店内の商品を物色して、良さそうなものを三つばかり選択した時に気が付いた。

新しくコーナーが出来ている。コーナー自体の大きさはそれほどではない。ただ、目立つように縁取りされたコルクボードが壁に固定されており、上に『委託依頼のコーナー』と書かれている。

すでにいくつか依頼があるようで、それを少し見てみる。

幾つか模型の製作依頼があるがその中で気になったのが一つある。

『1/700の輸送艦10隻の製作依頼』という奴だ。

期限厳守で、塗装して、ノーマルに組むだけでいいらしい。それでいてけっこう依頼料がいい感じだ。

だが、さすがに同じキットを10つはねぇ……。

質より量ってことかな。でも、それなら依頼しなくて、普通に作ればいいんじゃないかな。

確か、この指定されているキット、それほど難しいものではなかったと思う。

手間と時間はかかるものの、出来ないことはないかな。自分だったら、依頼せずに自分で作って、その依頼料の分、キット買ってるだろうな。

そんな事を考えてしまう。

すると後ろから声が掛けられた。

つぐみさんである。

代車に頼んでいる材料が載せられている。

「最近、多いんですよ。作る暇なくて依頼する人」

「へぇ。そうなんですか」

そう言いつつ、それはそうかという気がする。

実際、あっちの世界では、より正確なものほど力を発揮するという法則がある為、製作はプロに頼むという事が当たり前である。もっとも、金がない人や製作する腕前がある一部の人は、自分で作ってしまうようだが。

だが、結局、プロに任せた方が間違いないのは事実だ。

より良いものを得たいなら、プロに任せるのはどっちも変わらないという事なんだろう。

しかし、それなら、この輸送船10隻の依頼は余りにも異色すぎる。

だからつい聞いてしまっていた。

「しかし、この輸送船10隻ってのは変わってますね」

その言葉につぐみさんは苦笑する。

「うちの旦那の親戚の子がね、依頼してんの。数がいるからって」

「へぇ。変わってますね」

思わずそんな言葉が漏れる。

その言葉につぐみさんも同意の言葉が漏れる。

「ええ。元々は自分で作っている子なんだけど、なんでか最近まとめての依頼が多いのよ。それも輸送艦とか、給油艦とか……」

その言葉の後に出てきたものも支援艦船ばっかりだ。もちろん、そればっかりではない。確かに小型の護衛空母とか駆逐艦とかもあるが、それ以上の中型、大型艦船はない。

まるで護衛輸送船団でも用意しているみたいだなぁ。

正直、そう思ったから言葉がポロリと出る。

「地味ですねぇ。それに一人ではきつそう……」

その言葉に、つぐみさんの合意を示す。

「そうなのよ。だからね、モデラー数人がまとまってその依頼を受けることがほとんどかな。おかげで、彼らの呼び名が出来ちゃってね」

「へぇ。どんな呼び名なんです?」

「『N&M造船所』って呼ばれてんのよ」

その返事に思わず笑ってしまう。

まぁ確かに、艦船模型の依頼ばかりやってればそう呼ばれてもおかしくないかとも思う。確かに複数でやっても十分美味しい依頼料だしなぁ。

そんな事を思いつつ、選んだキットをカウンターの上に置く。

そして、会計を済ませる。

「では、天候が崩れなかったらまた来週来ます」

そう言いつつ、代車を押しつつ出入り口に向かうと後ろから声をかけられた。

「補充の分宜しくねぇ」

「はい。了解しました。あと、材料の方は、また後でメールで送りますね」

「ええ。それでいいわ。早めにお願いしますね」

その言葉に「了解です」と返事をして店外に出る。

そして、車の後ろに荷物を載せていく。

で、代車をお店に返すと、挨拶をして車に戻った。

さて、今日の買い出しは終わったし、ネットで購入したやつの検品して、船に荷物積んだから帰りますか。

気が付くともう時間は、午後の三時を回っていたのであった。

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異世界造形師 アシッド・レイン(酸性雨) @asidrain

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