第22話 驚愕の最後

 私は、前にも言ったように、小学校から中学の1年生時まで、近所の空手道場で空手を習っていた。少年ながらも、初段を取り、天才空手少年と言われていた事を瞬時に思い出していた。



 しかも、私には、実は、もう一つ隠れた特技があった。



 それは、ボールペンやナイフを投げる練習を、毎日欠かさなかった事だ。



 これは、相手がピストル等を持っていた場合、空手のみでは実戦では、絶対に、対応出来ない事を、既に、小学生時時代に敏感に感じていた私が、考えて考え抜いた護身術でもあった。



 そのやり方は実にシンプルなものだ。

 何処の学校や事務所にでも置いてある、細長い安物のボールペンを左胸ポケットに数本かを隠しておいて、瞬時に抜き取り、力いっぱい投げつけて的に当てる訓練を、多分、百万回は楽に超える程、練習していたのだ。



 あれを、今、使うのだ。



 入り口の正面に屈強なボディーガードの外人2人がいたが、振り向きざまに、その2人の顔面に、瞬時に金属製のボールペンを1本づつ投げつけた。



 2人の顔面にそのボールペンは、顔面のもも肉をも突き破り、見事突き刺さった。間髪をいれず、私は、入り口まで飛んで行って、2人の睾丸を蹴り上げた。



いくら屈強な外人とは言え、睾丸や顔面は鍛えようが無いのだ。



 外人の二人は、その場にうずくまった。

 私は、一人の胸の拳銃ホルダーから、サイレンサー付きのオートマチック拳銃を取り出した。



 ハリウッド映画で観た事のあるドイツ製のワルサーP99であった。



 総弾数10発。確か、銃の真ん中の左端に安全ピンがあるがそれを押し込んで安全装置を外し、拳銃上部のスライド部分を一度だけ後ろに引いてそのまま戻せば、弾丸1発が装填される。



 これで、いつでも発射可能となる筈だった。後は、引き金を引くだけで、空薬莢が飛び出し、弾丸は、最後の弾丸まで連続発射されるように自動装填されていく。



 私は、この知識を、ハリウッド映画を見て覚えたのだが、こんな場面で役に立つとは思ってもみなかった。



 こうして、1丁のワルサー自動拳銃を手にした私は、右手で拳銃を持ちながら、右の腰ベルトにいつも持ち歩いている小型のスマホを動画撮影モードに切り替えた。



「森田さん、優子、動いちゃだめだ。私は、これから、この人口男根の暴走シーンを動画に録画し、そしてハロ・ゲイン会長の極秘計画「アカシック・レコード計画」つまり「マイクロチップ埋め込みによる全人類支配計画」を、ネット動画に載せて、全世界に配信するのだ!」



 そう、宣言して、スマホの画面をズームにして、人口男根のリモコンの暴走、つまりレベル10状態を写し込み、次には、全長20センチ弱にもなろうとする「人口男根」を、狂喜の顔と目付きでバックから襲いかかっている湯川の顔を録画しUPした。



 約10分後、私は、スマホを操作し、今し方、撮ったばかりの動画を、全世界に配信した。



 ……その、筈だった。



 しかし、同じスマホで、同動画サイトを開いて見たが、ただの一画面も写らなかったのである。



 総てが、既に完全に、管理されていたのだ。つまりこの部屋からのスマホの動画配信は、強力な電磁波で遮断されていたのだ。

 このVIPルームの液晶テレビが見れるのは、有線のケーブル・テレビだったからだ。



 わざわざ、英語、フランス語、ドイツ語、中国語、スペイン語の5カ国語に同時通訳するアプリを使い、今の状況を、私なりに極簡単に説明をしたにもかかわらずであった。



 私の完敗であった。



私は、自分の負けを素直に認めざるを得ないような状態に陥った。



 西山須美子を後ろから襲いながらも、湯川は、次のように言い放った。



「田上、もはや、お前には選択の余地は無いのだ。さて、そろそろ、ハッキリとした結論を聞かせてもらおうか?」と、上から目線で聞く。



 私は、腕時計を見た。午後2時ジャストである。



「イヤハヤ、湯川は、本当に馬鹿だなあ……」と、余裕を持って、私は、答えたのだ。



「な、な、何を、とち狂った事を言っているんだ、田上よ」



「だったら、今、テレビのスイッチを入れてみろよ」



 直ぐに、湯川は、テレビのスイッチを入れた。



「緊急ニュース速報が、画面で流れていた」



 しかし、その内容は実に驚くべきもので、世界的コンピュータ会社のマッシュルーム社の現会長のハロ・ゲインと、世界的製薬会社のアップルパイ社のエドワード・アップルパイ現社長の二人の乗った自家用ジェット機が、離陸直後、原因不明の大爆発を起こし、二人とも死亡したと言うものであった。



「何だって、あの二人共が、同時に亡くなるとは、こ、これは、一体、どう言う事なんだ。



 こうなってしまったら、『黙示録の会』は、今後、どうなってしまうのだ……」先ほどまでの、意気軒昂だった湯川の表情は、急に、真っ青になって見えたのだ。



「フフフ……。湯川よ、全ての事実は、実は全くの真逆だったのだよ……」と、田上純一は、不思議に落ち着いていた。



 ここで、田上は、全く、思いもかけない事を語り始めたのである。



 それは、今まで、この物語を真面目に読んでこられた読者の方々をも、全てを、煙に巻く話だったのである。



「この私の、Z大学の同級生は、その後、ハーバード大学に進学したのだが、その彼が、最初に耳にしたのが、この『黙示録の会』の進める「アカシック・レコード計画」つまり「マイクロチップ埋め込みによる全人類支配計画」を、メールで極秘で、事前に教えてくれていたのさ……」



「何だって。では、田上は、「アカシック・レコード計画」つまり「マイクロチップ埋め込みによる全人類支配計画」を、そんなに早くから知っていたとでも言うのか?」と、湯川が、顔をゆがめて聞いた。



「そうなのだ、この私は、死ぬ事に対しては、恐怖も何も無い。



 つまり、これらの全ての事を受け入れて、この私は自ら志願して、敢えて「人工男根」を装着されるように、大神博士らをそのように仕向けたのさ……。

 細かい計算の上での、覚悟の、決死の行動なのだよ。



 それだけでは無い。この異常な計画を、匿名で、FBIやCIAにも連絡してある。 

 実際に、人工男根が大きくなる動画をも、添付してね。



 それにだ。ハーバード大学に進学した、私の友人は、日系アメリカ人で、彼の叔父さんは、FBIの副長官にまでなっているのだ。つまり、情報源は、正に、ここにあったのさ。



 で、この狂気の計画に気が付いたFBI等は、極秘調査を開始した。



 そして、この計画の潰しに着手。



 先ほどの「緊急ニュース」こそ、正に、その最終結果なのだよ。



 とても、信じられ無いだろうが、このVIPルームのドアを開けてみな。

 既に5人の現職のFBI職員が、待機しているから、その目で見てみなよ!」



 と、この今までの物語全体を、全てひっくり返すような驚愕の事一言を、言い放ったのである。



「し、しかし、それでも、俺は信用できない。



 優子さんほどの美貌は無いにしてもだ。

 この西山寿美子の誘惑は、そう簡単に断ち切れない筈だ。どうやって、この西山寿美子のあの誘惑を断ち切って、心理的インポに持って行けたのだ?大神外科・泌尿器科医院での、検査機器も有った筈だが……」



「なあに、最初から、やる気が無いから、前もって数回抜いて(自分で、自慰により精液を出しておく事)おいたのさ。

 この私は、うまい具合に精力絶倫ではない。前もって抜いておけば、いくら西山寿美子の絶妙のテクニックを持ってしても、この私を起たせる事は、不可能だったのだよ。これが、この物語の全ての始まりなんだよ、残念ながらねえ……」



「まさか、田上純一が、そこまでの考えを持って準備していたとは、思いも付か無かったが……では、五島綾ちゃんらの殺害の件は、どうなるのだ?」



「この件は、FBIやCIAと司法取引して、既に無罪になっている。国際刑事警察機構(ICPO)も巻き込んでの話だ。

 その原因は、「人工男根」の異常暴走だと、完全に認めて貰っている。

 勿論、日本の警察庁長官にも、連絡が既に行っているのだ。



 湯川よ、全ての事件の真相は、この狂気の計画、「アカシック・レコード計画」の実現の阻止にあったのだよ。



 この俺は、「自ら志願して」、この巨大な計画に立ち向かった、たった一人の、ロンリー・ソルジャー(孤独な兵士)だったのさ。



 分かったかい、湯川や、その仲間達よ!!!」



 この田上の究極の一言に、湯川や『黙示録の会』の会員は、誰も何も言え無かったのである……。

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