第10話(最終回) 「 ご挨拶 」

 幼い姉弟の姿を見ました。そして私も今、青いチケットを手にしています。それは最初只の交通違反の切符でした。でも私にはすぐに分かりました。それが自分に与えられたチケットなのだと。


 どこから話せばいいのかと迷っています。思いつくままにすれば長い時間が必要になるでしょうし、でも本当はそれが一番良いことも分かっています。現に私は何かから導かれているわけですし、それに任せるのが今は一番自然なことなのです、多分。


 大きな物語です。私たちが生まれるずっと前からの。


水。そう、水が大事なのです。どうして私たちはそんな肝心なことを疎かにしてきたのでしょう。全てはそのせいとも云えなくはないのです。水はその土地の血流みたいなものですから。私たちはその血流をいつの頃からか遮るようにして町を、都市を築き上げてきたのかも知れません。


 夢の中で姉弟が私を、まるで母親であるかのように呼びます。そこは浜辺です。目の前には大きな海が広がっています。私たちは多分よくそこに遊びに来ているのだと思います。そして今は、目覚めている時でさえも姉弟は私の前に姿を現します。通りの角とか公園、駅のプラットホーム、それからデパートの屋上、階段踊り場などにも彼らは普通に佇んでいます。まるで私を、この世界から夢幻の世界へと誘うかのように。私自身だんだんとその区別がつきにくくなっています。彼らは多分、二つの世界の併せ目、なのかも知れません。


 どうやら私はこの青いチケットの謎に近づき過ぎたようです。しかしもう後戻りは利きません。そして私にもそうするつもりはありません。

私は見て来るつもりです。この先どんな世界が私の前に現れ、そして何を伝えようとしているのか、見届けてみたいと思います。それまでしばらくの間のお別れです。


 これは死ではありません。生の向こう側へのプレイスチェンジだと思います。


 また、お会いしましょう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『 藍紙奇譚 』 桂英太郎 @0348

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ