2-13 依存作戦、其の1

1月26日 月曜日

 午前11時、私は佐野さんにドリンクの使用感について聞くことを口実に駅付近のファミレスに呼びつけていた。

 佐野さんはいつも通りの黒いジャケットに茶色のセータ、下はジーンズといった装いで現れた。

 私はフリルのついた可愛いワンピースで金髪のウィッグを着用いている。メイクもいわゆる地雷系と呼ばれる部類のタイプだ。

 普段の地味めな私とは似てに似つかない。


 ファミレスに入り、ドリンクと軽食をそれぞれ注文した。

「佐野さん、そう言えば下の名前で呼んでもいいですかぁ? 彼女なんですよね?」

「え、そうだね。好きに呼んで」

「では俊輔さんとお呼びしますね! えへ、嬉しい」

 佐野さんは「そ、そう」と照れ隠し気味に返答した。

「それでドリンク、続けて飲んでいただけました?」

「う、うん。毎日飲んでるよ。おかげで目覚めもいいし怠さがないくらい元気になったよ」

「それはよかったですね。体力も少しは回復してきましたか?」

「そうだね。退院した時と比べればだいぶ戻ってきたよ」

 佐野さんはドリンクを常飲し始めたようだった。

 私は依存させて稼ぐつもりでいるので、好都合といったところである。

「もう少しでなくなりそうなんだけど、またあそこで買えばいいのかな?」

「そうです!このあとよければ行きましょ!」

「うん、ありがとう」

 オーダーした食事が目の前に並べられる。

 私たちは食事に手をつけ食べ始めた。

 

 ー都内某所、セミナー会場ー

 勝己はまた幸信仰会のセミナー会場に来ていた。

 怪しい投資の話を聞きながらあくびをしていた。

「飯田さん、何か質問ありますか?」

「いえ、すいません」

 退屈な態度を取るが故に指摘されてしまったようだった。


 1時間後、パーティが始まった。

「飯田さんは入会されてどれくらい経ちました?」

「まだ1ヶ月ほどですね」

「どうですか、まだ不慣れだと思いますがいい仲間たちなので何かあったらなんでも聞いてください」

「ええ、ありがとうございます」


 勝己は色んな人に話をかけ幹部に接触しようと試みた。

 年配のいかにも長年、活動してきた老夫婦に声をかけた。

「あの、つかぬことをお伺いしますが幸信仰会の上層部の方と

コンタクトを取りたいのですが、お知り合いだったりしますか?」

 勝己はダイレクトに聞いてみることにした。

「見ない顔じゃね。新人かね」

「そうです。ぜひご教授を願いたいと思っておりまして」

「あそこにおる茶色のスーツの人は幹部の人じゃよ。挨拶しておくといいかもしれんのう」

「ありがとうございます」

 勝己は早速、茶色のスーツを着た単発で眼鏡をかけた中年に声をかけた。

 先ほどセミナーで講演をしていた人物だ。

「こんにちは、先ほどの講演、非常にタメになりました。ぜひ今後もご教授願いたいと思いまして」

「おお先ほど前列で聞いていた方ですね。いいですよ。また来週あるので参加していただければと思います」

「はい、ぜひ。エアローショップについてお聞きしたいのですが今お時間ございますか?」

「いいですよ。何をお聞きになりたいのでしょうか」

「あの仕組みなのですが、私みたいな新人が稼ぐにはどう会員数を増やしていったらいいでしょうか?」

「まずは友達、知人にご紹介してください。もしよければセミナーに招待していただければ有名人もいますし、ご説明できていいと思いますよ」

 確かに、テレビで見た記憶がある有名人もチラホラいるのが見受けられる。

 心理的にも有名人が使っているのであればいい商品だと思わせる仕組みだと思われる。

 勝己はまた来週来ることにし、この日は会場を去った。


 ー1月31日、土曜日 新宿の某カフェー

 私は佐野さんと食事に来ていた。あれから2日に1本のペースでドリンクを購入しているようだが資金面の事で相談があると言われた。

「茉莉啞ちゃん、ドリンクなんだけど確かに効果もあるし続けたいんだけどお金の面がね……」

「いい仕事がありますよ」

 私は受け子のバイトを紹介した。ネットで募集していたいかにも怪しそうなバイトだが、私を酔心している佐野さんは怪訝に思うも受け入れた。

「これって大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ、指定された場所で荷物を受け取り人に渡せばいいだけですから。1回5から10万円もらえるのでいいバイトだと思いますよ」

「わ、わかったよ」

 私はどんどん道を踏み外している感覚に陥ったが、復讐のためと思って割り切っていた。

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[1部完結]冴えない私がイケメンに誘われサークルに入ったら、いつの間にか指名手配された話 黒崎 京 @tku373536

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