2-1 新生活
8月5日 火曜日
私は都内の救急病院から私が住んでいる市内への移動が決まった。
私は事故にあったことは奥井夫妻と絵里さん、優子に伝えている。あとは親しか知らない。
でもなぜか、佐野さんから「事故にあったって聞いたけど大丈夫?」と連絡が来た。なぜ知っているのだろう。その連絡が来た時、私は錯乱状態で発狂した。
憎い、今はその感情だけで私は生きている。
午前10時、病室のドアが開いた。
花さんだった。
「茉莉花ちゃん、大丈夫?少し落ち着いたかしら?」
「は、はい。ご迷惑をおかけしてすいません」
「いいのよ。こちらこそ巻き込んでしまったのかも知れないわ。ごめんなさい。謝っても悔やみきれないわ」
「花さんのせいじゃないですよ。でも勝己さんの一件もあって狙われたのかもって店長さんが言ってましたけど、花さん達は大丈夫なんですか?」
「え、私たちは平気よ。まあ訳ありだから」
「そ、それならよかったです」
訳ありが気にはなったが追求したくなかった。これ以上は命の危険があるからだ。どういう経緯かはわからないが、店長さんの計らいで病院を定期的に回復するまでの間、転々とさせてもらえることになった。
また狙われる危険性があるためだ。
花さんは差し入れのクッキーを置いて帰った。一つ手に取り食べた。バターの香りが心地よかった。
1人になると不安で心が押し潰されそうになる。だがトラウマって言う様な感覚はない。憎い感情が強かった。逆恨みなのかも知れないが関係なかった。
私は約3週間の間、病院を何箇所か転々とした後、退院したが前住んでいた部屋は引き払った。
代わりに奥井夫妻が住む場所の付近にアパートを親に再度、借りてもらい住むことになった。
スマホなどを含む私物は撮られておらず、店長さんたちが回収してくれたが、契約し直して友達は優子だけに連絡先を教えた。
私は大学も一時的にやめることにした。来年、もう一度受験し直す事は親に説明した。実家に帰る選択肢はもちろんあった。しかし親が巻き込まれると思うと怖くて断った。
とりあえずは完治するまで、仕送りで生活することになりそうだ。
ー9月6日 土曜日ー
私は3箇所、病院を渡り歩き退院した。
諸々の手筈は奥井夫妻に代理で頼んでいただいた。
母もお見舞いには来てくれたが実家の方が大変みたいで、すぐに帰って行った。
新宿のアパートを借りて、私はそこに住むことになった。
まだ松葉杖がないと歩行が少し難しい状態だ。
私は花さんと一緒に部屋へ入った。
前住んでいた場所よりも少し広かった。だが家賃が少々、上がってしまった為、親に負担させてしまうことが申し訳なかった。
「荷物、まとめて置いてあるんだけど、一緒に片付けようか」
「ありがとうございます」
「茉莉花ちゃんは無理しないで。言ってくれればやるから」
「すいません。本当に色々と……」
今日は最低限、必要な物を荷解きして花さんは明日の仕事のために帰っていった。
部屋へ1人、取り残された私は床に寝そべった。見知らぬ天井を見上げた私は心の奥底の感情を吐き出した。
発狂、発狂、狂気という言葉がピッタリなくらい叫び続けた。
私は殺したい。佐野さんを。ひたすらにペンと紙を用意して計画を練った。
だが、この不自由な体がまた私を苦しめる。治るまでは安静にするしかない。その間、ただただ衝動に耐えるしかなかった。
10月18日、骨折がほぼ完治した。薬物依存に関しても店長さんの紹介のクリニックに通い問題ないと診断されるまでドリンクを経つことが出来た。
10月20日、現状フリーターとなった私はテリアで働くこととなった。
2ヶ月ぶりくらいだろうか。久々に訪れると不思議と涙が溢れた。
テリアへ入ると絵里さんが驚いた様子で声をかけてくれた。
「茉莉花ちゃん、よかった。本当にごめんなさい。巻き込んでしまったかも知れないわね」
「いえいえ、今でもパニックは起きますけど動ける様になってよかったです」
「本当にごめんなさい。きっと勝己さんのせいだから」
「そういえば勝己さんはどうなったんですか?」
私は勝己さんのことをあれから全然、知らなかった。
「勝己さんは今、店内にいるわよ。あそこ」
フロア内を絵里さんは指差した。テーブル席に金髪で眼鏡をかけた青年がいたが勝己さんではなかった。
「え、勝己さん?」
「そう、もうどうしようもないから整形したのよ」
あまりのことに驚愕した。名前と顔は割れている為が、名前を帰ることは
中々できることじゃない。そのため整形して外を出歩けるようにしたとのことだった。
私はどう見えも別人にしか見えない勝己さんの元へ声をかけに行った。
「おお茉莉花ちゃん、退院できたんだね」
「おかげさまで」
「襲われた件について申し訳ない。謝罪してもしきれないよ」
「そんな、謝らないでください。私も少なからず関わっていたのがダメでした」
「俺のせいかも知れないが、なぜ茉莉花ちゃんが狙われたのか、動ける様になって調べているんだ。必ず突き止めるよ」
「そんな、また追われる身になってしまいます」
「もうすでに指名手配犯さ、大丈夫」
話したら声は勝己さんだった。
少し話を交わしたあと、私は裏方の勤務に入った。
しばらくの間、店長さんから仕込み中心に教わることとなった。
新しい生活が始まった。
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