1-21 憎悪

8月3日 日曜日

 私は今日はお休みだった。家でゴロゴロしている。

 店長さんからもらった名刺の病院が日曜でもやっているとのことで行ってみようと思った。けれど行く勇気が出なく、家から出られずにいた。ふとドリンクに手が伸びるが飲んではいけないんだ。店長さん曰く、数日は離脱症状で辛いだろうけど我慢するしかないとの事だった。

 それにしてもなぜ気付かれたのか、考えてもわからない。直接、聞くべきだったのだろうけど昨日は聞けなかった。明日聞いてみよう。

 やることもないし推しのBチューブをみながらアプリで麻雀などして時間を潰していた。


 午後8時、少し寝ていたようだった。気づくと夜になっていた。

 明日はアルバイトがある為、このまま寝てしまおうとも思ったが、お腹が空いてきた。作る気力もないため、近くのコンビニで晩御飯を調達しに出向いた。

 一瞬、心臓が止まりかけた。佐野さんが先輩数人と店内にいた。こちらには気づいていないようだった。

 私は気付かれないように身を翻し、反対側の別なコンビニに行くことにした。


 ご飯を食べながら優子から来ていた連絡に返信を返し、少しだけ課題をこなし気づくと寝ていた。


 午後11時半頃、カチャカチャといった物音で目を覚ました。瞼が今にもくっつきそうなほどの眠気だったが辺りを見ても特に何もない。つけっぱなしだった電気を消して再び眠りにつこうとした。

 

 その時だった。物音が部屋の中でした。気になり、ふと体を起こそうとした時、何か分からないが私の体がベッドに打ち付けられた。

 え、何、状況が全く理解できていない。

 意識が目覚めるよりも先に頭部に何か当たる。え、だれ、“誰かがいる“それに襲われてる。

 何か被せられ口元に布のようなものを巻かれる。叫ぼうとしたがうまく声が出ない。

 抵抗しようとしたが寝起きでうまく力が入らない。手足を何かで縛られ数秒の間に身動きが取れなくなる。え、一体なんなの。少しずつ意識だけがはっきりとしてくる。それと同時に底知れぬ恐怖、この状況に頭が追いつかない。

 私は担がれどこかへ運ばれている。外の空気が皮膚に当たった。それに階段を降りていることはわかった。

 車の通る音が聞こえた、私は精一杯、体の筋肉を使い転がるように担がれている手から一瞬だけ逃れた。

 しかし、身動きはとれずすぐに掴まれてしまう。視界も奪われているが、うっすら街頭の光が布越しに見えた。道路まで行けば誰かの目に止まると私は考えた。距離にしたら数メートルだ。とにかく逃げようと体を振るい抵抗する。頭を振ると誰かの頭に当たったみたいだ。私はもう一度、勢いよく頭をふるい、頭突きをした。頭が割れるほど痛かったがそれどころではない。その時、もう1人の気配を感じた。

 よく見えないが掴まれかけた時に少しだけ動く足で地団駄を踏むような動作をし誰かの足を踏みつけた。外の時に足の紐が緩んで解けたようだった。相手が怯んだその隙を私は見逃さなかった。

 光の方へと目一杯走る。

 目の前からライトが見える。その瞬間、私の体にこの世のものとは思えない衝撃が走る。数メートルいや10メートルほど吹き飛ばされた。そう車に轢かれたのだ。


「だ、大丈夫か。今、救急車を呼ぶ、ああなんてことだ」

 周囲がざわついている音がする。

「き、きみ、この格好は?」

 私は声を出せないし何もできない。ただ痛みと恐怖に怯えながら意識だけがあったがそれすらも薄っすらとしていく。


ー8月4日、都内救急病院ー

 私は救急搬送され腕と足の骨が折れていたが、命に別状はなかった。

 検査と手術を受け、今は一般病棟に移されているようだ。

 私が意識を取り戻したのは、午前7時頃だった。

 私は意識を取り戻した瞬間、発狂した。慌てて看護婦さんが駆けつけてきて個室の病棟へと移された。


「篠宮さん、大丈夫ですから落ち着いて。あなたが轢かれた時の状況、何か覚えていますか?」

 私は何をしていたのだろう。ただ寝ていただけだった。物音で目を覚まし電気を消そうとした瞬間に何物かに襲われた。

 私の聴取を聞く為にと看護婦がメモをとり警察に連絡しようとした。

 私は叫んだ。

「やめて、警察に行ったら殺されちゃう、死にたくない、いいからやめて!」

 取り乱した様子に看護婦はメモと電話をポケットにしまい私をなだめた。

「落ち着いて、大丈夫。殺されないわよ。大丈夫だから」

「はぁはぁ、れん、連絡したい人がいます」

 私は電話を借りテリアへ連絡し奥井夫妻に事情を伝えた。すぐに来てくれるとのことだった。親にも連絡したが遠いためここにくることは出来そうにない。

「知り合いがいてよかったわ。とりあえず落ち着いて。警察へは後にするから」

「しないでって言ってるでしょ!」

「わ、わかりました。とりあえず安静にしててください」

 

 看護婦は一旦、離れて行った。私は包帯を巻かれた腕と足を見て状況が少しずつ飲み込めてきた。それと同時に怒りが不思議と込み上げてきた。

 私を襲ったのは紛れもなく幸信仰会こうしんこうかいだ。なぜただの学生が襲われたのか、拉致しようとしたのかも知れないが理解できない。

 

 私をサークルへ誘ったのは佐野さん、幸信仰会こうしんこうかいへのパーティに参加させドリンクを勧めてきたのも佐野さん、ドリンクに依存したのも佐野さんのせい。こうなったのも全部、佐野さんのせいじゃないの。私はそう思うことで心のバランスを保とうとしていた。ああ、あんなに好きだったのに。今は殺してやりたいくらい憎い。

 憎悪に満ちたこの感情をどこへぶつければいいのかわからない。

 私は白い天井に向かって喉が潰れるまで叫び続けた。


 1部、完


※※※※※

2部以降は80話前後を予定してます。

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