第42話 裏切られた理由

◇ ◇ ◇ ◇


 無力を嘆いた。助けを求めた。取り戻すために。

 闇はほくそ笑み、手を差し伸ばす。光の仮面で偽りながら。


 忘れたいのに忘れたくない。だけど今だけは忘れたい。忘れさせて欲しい。


 甘美に囁き心にまで闇が侵食した時には手遅れだった。

 そこにはもう何も考えられなくなった、全てが抜け落ちていく哀れで鳴く事しか出来ない乙女がいた。


 今は闇がもたらす痛みを伴う快楽だけが乙女の拠所。


◇ ◇ ◇ ◇


 少し時間は戻る。


 夕食後、僕とエリーはチェルシーちゃんに借金の理由を聞いた。


 どうやらチェルシーちゃんの知らないところでマックスが借金をしていたそうだ。そして最悪なのが、何に使ったのかをいくら聞いても教えてくれなかったとか。

 ただ初めは少額で、町中での依頼や近くの草原で薬草の採取をするだけですぐに返すことが出来ていたそう。


 そうやって借金をしては返しての繰り返しをしていると、借入金の上限を増やしてきたのだとか。

 借金に慣れ、安定して返済出来ている心の余裕からか、マックスは一人でルーキーには不釣り合いな額を借り入れてきたそうだ。


 そして借用書がこれまでと違い、利息は高く、返済期限がかなり短く書き換えられていた。

 これも借金に慣れてしまったが故の落とし穴だったようだ。

 そして借金返済日を過ぎてしまい、謝罪と少しだけでも延ばしてもらおうと頼みに行った時、【竜の落とし子シーホース】の家の前でマックスを拉致され、さらには殺すと言われ、どうしたらいいのか分からず、何故か冒険者ギルドへと助けを求めに来ていたのだとか。


「謝罪とお願いに行こうってマックスが提案してきたんです。今思うとマックスはどこか余裕のある表情というか、謝罪やお願いをする立場とは思えない感じでした」


 裏で取引か何かがあったんだろうな。しかし悲壮感ではなくて、余裕のある姿だったと言うことはすでに借金に関してはどうにかなる算段がついていたのだろう。

 もしかしたらチェルシーちゃんを売る予定だったのかもな。


 【竜の落とし子シーホース】のリーダーとヤリ、そしてチェルシーちゃんを売ることで借金返済ということになっていたのかもしれない。


 その事にチェルシーちゃんも考えついたのか、顔を暗くする。

 取り敢えず「今までよく頑張ったね」とか適当な言葉を投げかけると涙を流し始めた。

 僕はこれ幸いと近付く口実ができたのでそばに歩み寄り涙を拭いてあげる。そして両手を握り「偉かったね」と優しく微笑むと決壊したようにまた泣き始めたので胸に抱く。


 宥めている間に少し考える。


 チェルシーちゃんの話を聞くに、マックスは何年も前から【竜の落とし子シーホース】のリーダーに憧れを抱いていたとか。

 子供が高ランクの冒険者に憧れることはよくある話なのだが、マックスは他の子たちよりも少し入れ込んでいたというか、話す時や本人を見る目が憧れとはどうやら違ったそう。


 マックスは恐らく周りには同性愛者という事は言ってない。

 そしてチェルシーちゃんを大切そうにしていたのは好きだったからではなかった。

 では何故大切そうにしていたのか。


 チェルシーちゃんに自覚があったのかは分からないが、マックスに好意を向けていた。

 マックスもそれは理解しているように見えた。だがその気持ちに応えることはしてこなかったのだ。


 そしてチェルシーちゃんを売ることに罪悪感を覚えてなかったと考えると、カモフラージュか。

 同性愛者だとバレたくなかったから幼馴染であり、自分に好意があるから他の子より扱いやすかったチェルシーちゃんを使うことにしたのだ。大切な隠れ蓑だったというわけだ。

 しかしもうお役御免。いらなくなった隠れ蓑は売って金にする、そういう事だったのだろう。


 不憫な少女だ。僕の胸で泣くチェルシーちゃんを見ながら思う。

 今から抱いて鳴かせてあげるからね。いい声で鳴くんだよ? と。


 エリーは僕へ片手を挙げたかと思うと自分の部屋へと戻っていった。

 後は任せたという事だろう。


 エリーに任された僕はチェルシーちゃんを少し胸から離して視線を同じ高さにする。


「僕を頼ってくれてありがとう。これからも僕を信用してくれるかい?」

「ありがとう……ございました。一生このご恩は忘れません」

「チェルシーちゃん固いよ。そこは信用しますでいいんだよ」

「そう、ですね。私は一生ホープさんのことを信用しま――」


 僕はチェルシーちゃんの唇を奪う。そして驚いているチェルシーちゃんに語りかける。


「僕のこの気持ち、これも信用してもらえると僕は嬉しい」


 目を白黒させながら、顔を紅く染めるチェルシーちゃんへ二度三度と唇を重ねると今までとは違う目の潤み方をしだした。

 ここまでくれば多少押してもいけるだろう。


 チェルシーちゃんのその小さな口の中に少しずつ舌を入れていく。また少し目を白黒させたがすぐに受け入れチェルシーちゃんの方から絡ませてきた。


「僕の気持ちに応えてくれてありがとう」

「い、いえ……その、私こそ、こんな私で――」


 面倒なので唇で唇を塞ぐと大人しくなった。


「僕の気持ちをもっと教えてあげるよ」


 そう言って僕はチェルシーちゃんをヤリ部屋へと連れ込み、男に男を寝取られた稀有な少女の味を確かめたのだった。

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