第24話 必要がなかった

「なあホープ、何故バフを重ねがけ出来たのだ?」


 ああ、普通魔法で行うバフやデバフは同じ効果のものを重ねがけ出来ないから気になったのか。


「<力の支配者ギブアンドテイク>を使うとバフとデバフの効果が全てスキルに変換されるんだ。スキルと魔法は同じ効果のものでも別として扱われる事は知っているだろう? 別という事は重ねる事が出来るという事なんだよ。だから効果が重複したという事だね」

「ふむ、理屈はなんとなくだが分かった。まあそういうものだという事で納得しておく」


 深く聞かれても僕もあまり使った事がないので答えられない。

 その辺が分かっているのか、エリーは起こった事をそのまま素直に受け入れてくれた。


「私はあまり戦闘に詳しくないのですが、その話を聞く限りだとデバフも重複させる事が可能だったりするのですか? いえ、答えられないのであれば大丈夫です」


「可能ですよ。正直なところ、この事を知っているのはかなり少数でしょう。基本的にパーティにはバッファーとデバッファーのどちらか一人しかいません。そしてスキルでそのどちらかの役目を果たす事が出来る者がいれば純粋なバッファーやデバッファーはあまり要らないのです。何故なら一人いれば事足りるから。仮にパーティ内で被っていてもスキルと魔法の二つを同じ対象に使う事はしません。それはMPを無駄に消費する事に繋がるからです。これはバッファーとデバッファーが最初に教えられる事で、実際MP管理が出来ないと継戦能力に難有りと言う事でパーティをクビになる事が多々あるんです」


「ですが新人冒険者ならミスをして同じ対象に使ってしまいそうですが」


「ミスをすればMPが無くなる。それはレベルの低い新人にとって命取りなんですよ。大体がそのミス一つで死んだりします。何故ならバッファーやデバッファーは戦闘能力が低いからです。あとは気付かない理由として、新人のバフやデバフはあまり実感出来ないというものがありますね。バフはまだ少し実感を持てますが、デバフは殆ど実感を持てないのです」


「なるほど、バフだと味方に使うので予め誰が誰に使うと事前に決める事が出来るからミスは少ない。逆に魔物相手に間違えてデバフを重複させてもあまり実感を得る事が出来ない。そして高ランクになればなるほどそんなミスはしないし、複数人バッファーやデバッファーが同じパーティにいる事も無くなり、結果誰も気付かず知る人間が殆どいないのですね」


「そういう事ですね。まあ僕もこの事に気付いたのはあいつらと別れた後なんですけどね」


 一人になり<力の支配者ギブアンドテイク>を覚えたときに気付けた。

 何故魔法がスキルに変換されるのかがよく分からず、しかし魔法とスキルは似て非なるもの。

 もしかして重複させる事が出来るのではないか?

 そう思いダンジョンで弱い魔物を相手に何度か試して可能だという事を知ったのだ。


「そういえば結局これは必要無かったな」


 エリーが自分の手首より少し肘側を見ながら溢す。


「そうだね、一応念のためだったし、まさか僕がのに何とか戦いになるとは思わなかったよ。レナルドたちはかなりエリーの事を舐めて遊んでたんだろうね」

「まさか私にもこれを渡されるとは思いませんでしたよ」

「ジャスパーさんを人質にする可能性もあったので。ですが使わなくて済んだ事を喜びましょう」


 今回二人に渡していた武器はボウガン。それもかなり小さく、発射させるための動作は少し手を動かすだけでいい。

 しかし当たれば薄い鉄なら2、3枚を難なく貫通させる事が出来るほどの威力で、いくらAランク冒険者といえど傷が出来るだろう。


 傷を作れればいい。何故なら矢には毒を塗ってあるから。かけられるだけでもふらついてしまうような猛毒が。


「そうですね。相談ですが、この小型ボウガンを私に売ってはもらえませんでしょうか?」

「それは構いませんが、売ったり外部に漏らすのはダメですよ?」

「分かっています。護身用に欲しいと思ったのです」

「なるほど、今回襲われてますし気持ちはわかりました。ですが毒矢は返してもらいます」

「それも分かっております」


 複数回襲われたり外す事も考えいくつか矢を渡してあるので大丈夫だろう。

 一つで材料費の10倍の値段を提示されたが、エリーに渡していたものをオマケしておく。


 恐らくジャスパーさんのジョブは商人ではない。今後の事を考え多少のサービスはしておいた方がいいだろう。


 ある程度話も落ち着いた所で出発する。

 一人で荷馬車後方をずっと見るのは退屈だな。

 そんな僕に気付いたのか、座っている僕の横にベンが頭だけを出してきた。


「ありがとうベン」

「ワフ!」


 僕が小声で語りかけるとベンも小さく返してくれる。優しいやつだな。

 僕は今晩泊まる事になる休憩場に着くまでベンの頭をなでていた。

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