第15話 出発

 日の出前に依頼主との待ち合わせ場所に到着する。

 依頼主は商人という事で、多少の手伝いをして心象を良くしておく。

 店を持たない商人と言えども、それなりにコネや情報網を持っている事は少なくないし、商業ギルドを通して横の繋がりへ良くない噂を流されても困るからね。


 一応指導という体なのでちゃんとミラちゃんにも手伝わせる。


 朝日が昇ってきたのでそれを合図に町を出発する。


「そう言えばミラちゃんってジョブは聞いても大丈夫?」

「はい、私のジョブはシーフです。レベルは低いですが一応斥候も出来ます」

「シーフか、ならMPを2割以上残しつつ極力<潜むルーク>を使うといい。いざという時に役に立つからね」

「<潜むルーク>ですか?」

「<潜むルーク>は常に使っていると敵がこちらの戦力を見誤りやすくなるんだ。そして隙をついて攻撃を繰り出すと高確率で一人は倒せる。後は普段の生活でも使っていると変なナンパはされにくくなるよ。と言っても今のレベルだと同じように低レベルの相手にしか効かないんだけどね」

「分かりました、<潜むルーク>を使っておきますね」

「いい子だ」


 素直に言うことを聞くのか。ルーキーがデバッファーの言うことを素直に聞くとは違和感しかないな。

 頭を撫でると少し不満そうだがそれでも笑みを隠せていない。子供扱いは嫌だけど撫でられるのは嬉しいって感じだ。


 エリーが前方、僕とミラちゃんが後方を担当して警戒を行う。

 エリーが前方なのは幾つか理由がある。

 テイマーは見えなくとも離れた場所にいる魔物を発見出来るスキルがある。これがあるだけで魔物相手の不意打ちを受けることは少ない。


 そしてテイマーと言えば動物と魔物を従える事が出来る職業だ。

 殆どの町にはテイマーが従えているモノを預かってくれる店がある。今回は町を離れ戻ってくる予定はないのでエリーが預けていた魔物を連れてきたわけだ。

 ブラックウルフという名前通り黒いウルフの魔物と、ダークアウルというこちらも真っ黒なフクロウの魔物だ。


 シャドウウルフのベンを隠すための魔物だね。ただあまり依頼に連れまわさないので、実は僕が魔物なんじゃないかと一時期疑われたことがある。流石に失礼な話だ。


 と言う事でこの二体の魔物が斥候として働いてくれている。だから基本的に道中は安全だ。

 そもそもこの辺は弱い魔物ばかりなのでエリーの従魔二体で護衛は事足りる。


 暇なので依頼主に見えないようミラちゃんに奉仕をさせる。

 ミラちゃんをナンパしていた冒険者たちと犯罪者二人を思い出しながら胸と口を使わせ、後は服で隠れる場所にマーキングをしていく。

 お前たちが欲したこの子は俺のモノだと言わんばかりに体中に印をつけた。


 喜んで受け入れている姿を見ると本当に自分のモノになったのだと理解でき、達成感に支配される。

 後は極力悪印象を残さず捨てるだけだな。抱き心地は良かったので短期間で捨てるには勿体無いが、完全に寝取ってしまったと言えるのでミラちゃんへの興味がすこし薄れてしまった。

 そんな女を連れまわす趣味はないのでもうすぐお別れだ。


「そろそろ休憩ポイントに着きますのでそこで昼食を取りたいと思います」

「分かった、このまま油断せずに行こう」

「こちらも了解です」


 依頼主の言葉にエリーと僕は返事をする。

 ミラちゃんは咥えさせたまま頭に手を乗せているので返事したくても出来ない。


「早くしないとみんなに見られちゃうよ」


 僕の言葉にミラちゃんは今まで以上に頑張り無事到着前に終わらせる事ができた。


「ミラちゃんのおかげで気持ち良かった、ありがとう」

「い、いえ、ホープさんが喜んでくれるならいくらでもやります」


 頬を撫でながら感謝の言葉をかけるとはにかみながら答えてくれた。

 出会った時しか魔法を使ってないのにここまで尽くそうとするとはいい玩具だな。


「ミラちゃんはエリーと一緒に薪の代わりになるモノを拾ってきてくれるかい?」

「分かりました、エリーさんよろしくお願いします」

「なら早速行こう、ついて来い」


 僕に答えた二人は林の中に消えていった。

 残った僕は食事の準備で、依頼主は馬の世話だ。


「しかしホープさんはよく羨ましいと言われるのではないですか?」


 馬の世話も終わったのか依頼主が話しかけてきた。


「羨ましいですか?」

「綺麗な女性と二人パーティと言うのは私からするととても羨ましく思ってしまいました。それにルーキーのミラさんでしたか、あの子もホープさんを好いているように見えまして、すみません少し下世話でしたね」

「確かにエリーと二人パーティは羨ましいとよく言われますね。普通男女ペアのパーティは恋仲だったり夫婦が多いので僕たちもそうだとよく間違われます。ミラちゃんに関しては僕たちが短期間に二度も助けた事でそういう風に見られるようになった感じです」

「恋仲で無いのですか、私もてっきりそうなのかと思っていましたがまだまだ人をみる目が無いようです。冒険者は異性に助けられると恋に落ちやすいと聞いた事がありますので納得の理由ですね」


 美人とパーティを組んでいればペアでなくても羨ましがられる事は多い。この人も気になっていたのだろうな。道中は娯楽が殆どないし御者をやってると飽きるのだろう。


 冒険者が助けられると恋に落ちやすいというのは命に関わる状態から助けられる事が多いからだ。

 実際何度か魔物に殺されそうな子を助けた事があるが全員が落ちた。吊り橋効果とは偉大だ。


 その後も雑談をしていると二人が戻ってきたので昼食を食べ、またロヴンツへ向かうのだった。

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