第4話 『専属メイドが思った以上にガチ勢』

この世界に来て一週間が経った。私はここの学園に入学して二週間が経つらしい。つまり、入学して一週間で倒れたということだ。その短い期間で私は周りの人に色々と迷惑をかけたようで誰も私に近寄ってこない。……まあ、仕方ないよね……



「不幸中の幸いはナタリー様がレオン様をストーカーしていないことですかね」



「……そうね」



そうなのだ。あの一週間でナタリーはレオン様と接触はしてないらしく、話すらしていない。それを聞いてホッとした。



「それにローラ様も原作通り周りの人たちと仲を深めているみたいですね」



「そうね」



ローラ・クレーヴ。この前見たけど本当に美人だった。ナタリーも負けてはいないが、やはりヒロインの方が可愛い。ふわふわの茶髪にパッチリした目。顔立ちは整っていて、スタイルも良い上に魔力も高く、性格もいい。完璧すぎて勝てるところが見つからない。



「まぁ、ローラ様は完璧美女ですからね!」



どんっ、と胸を張って自慢げな表情をするリリィ。……何故リリィが得意気になっているのだろうか……?



「前々から思ってたけど……貴方ローラファンなの?」



「ええ。勿論です。私は救われたので。ローラ様に」



……側から見るとリリィ、ローラ信者にしか見えないんだけど……大丈夫かなこの子……私の心配を他所にリリィは話を続ける。



「ローラ様は完璧超人なのです。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、その上性格もいい。まさに完璧な女性です。そして、その美貌と才能故に敵も多いのです」



まぁ、そうだよね。あれだけスペックが高いのだ。嫉妬されて当然だろう。その上、イケメン達にも気に入られているわけだし。



「しかも、ローラ様はそのことに決して鼻にはかけず、常に謙虚な姿勢を貫いている。その心の広さに私は惹かれたんです」



「……そう」



「そして、その美しさと強さに憧れて私もローラ様のように強くありたいと思いました。だから、ローラ様は私にとって憧れの存在で目標でもあるんですよ」



………ガチ勢じゃん。これ完全にガチファンだよ。もう崇拝レベルだよ。…怖いよ。



「だから、ローラ様を不幸にするナタリー様を許すことはできませんでした。結局、ナタリー様は破滅しましたが。それでも漫画の中のローラ様が曇ったことには違いありませんから」



きっぱりとそう言い切るリリィ。……まぁ、確かにそうかもしれない。言うなれば推しを貶されたようなものだからね。そりゃ怒るわ。



「でも、ナタリー・アルディが転生者だというのなら話は別です。だってローラ様のこといじめないし、むしろ仲良くしたいのでしょう?」



「ええ。まぁ」



これは本当。ローラ・クレーヴをさりげなく観察していると、彼女は努力家でいい子だということがよく分かる。レオン様やいろんなイケメンにアプローチされているのに興味がない様子だし。



「それに私、ローラ様とナタリー様の組み合わせが一番好きだったんです」



「え?!さっきローラ様のことを曇らせるナタリーが嫌いって言ってたのに!?」



矛盾してないか!?と突っ込みそうになるのを抑える。

すると、リリィは淡々とこう言った。



「確かにローラ様のあのお美しい顔を曇らせたナタリーは許せません。しかし、話として見ればそこが一番面白かったと思うんです。そのあとはひたすら男がローラ様を溺愛するつまらない展開でしたし」



…………よく分からん。ローラのことを思えばナタリーの話より溺愛パートの方がローラにとって幸せだと思うのだが……?



「ローラ様は百合が似合うと思うんですよ!ナタリー様が悪役令嬢じゃなくて性格のいいライバルだったら妄想が捗って仕方なかったですよ!!」



うっとりとした表情で語るリリィ。……ああ、そうですか。そういうことね。理解した。リリィが百合好きだということに……。



「だから私は創作サイトでローラ様×ナタリー様の小説を読み漁ってたんです」



興奮気味にそう話すリリィ。……うん。そろそろ止めようか?私の部屋だし私以外、誰も聞いてないから良いけど、流石にこれ以上は……



「だからナタリー様、お願いです」



急に真剣な声色でそう言ってくる。

私は思わずビクッと肩が跳ね上がる。

そして、リリィはゆっくりと頭を下げて、こう言った。



「どうか、ローラ様と仲良くなってください」



と。妙に迫力のこもった声でそう言われて私は思わずたじろぎつつ、



「……ぷっ!」



笑ってしまった。リリィの必死さに。そんなお願いをしてくるとは思ってなかったし。



「あー!!何笑ってるんですか!?」



「いや、ごめんなさい。まさかそこまで真剣な顔で言うと思っていなかったわ。だってリリィに言われるまでもなく、私は自分の意思でローラ・クレーヴと友達になりたいと思っているもの」



私がそう言うとリリィはポカーンとした表情を浮かべた後に、 パァっと笑顔になった。

そして、私の手を握ってこう言った。



「本当ですか!?良かった~!これで推しカプを隣で眺めることが出来る!」



凄く嬉しそうにそう言うリリィ。……懐かしいな。私も高校生の頃までは推しカプの小説とか読んでたし書いてたりもしたし。だからこそ、リリィの気持ちはよくわかる。だって――、



「(私も同じだもん)」



前世では家族に愛されなかったから二次元に逃げてたし、私自身創作することは好きだったし。



「(……リリィ見ていると中学の頃の友達を思い出すわね……)」



あいつもこんな早口オタクみたいな感じだったし。まぁ、オタクってこんなものだよね。と、私は一人、納得して、そして、私は改めて決意を固める。

この世界に来てまだ一週間しか経っていないけれど、この学園を楽しまなければ損だと思うし、まず最初に――、



「(ローラと仲良くならないとね……)」



と、私は一人決意を示した。

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