2-13 赤い糸と黒い糸
高い塀を軽々とした身のこなしで飛び越え、影の妖魔を追いかけて行った
だが後から邸を出た
「はあ。あの体力馬鹿たちについて行く必要はありません。私たちは予定通り、先回りをして待ちましょう」
「
その結界符は
「まあ、よほどの間抜けでない限り、逃げている途中で気付くでしょうが。そこは
「
その時、なぜか
「どうしたの?なにか問題でもあった?」
「
その瞳は複雑な色を浮かべており、自分にとって大事な話なのだと、なんとなく感じ取れた。
「うん、ちゃんと聞くから教えてくれる?」
夕刻に
「私も
「あの
「······それってまさか、
五年前。壊滅させられた後の村に
それは、大王の命によって派遣された第四皇子、
『
『まあね~。でも俺もぬるいことしたなって思うよ?皆殺しにはしてないから。仲良しこよしの気持ち悪い兄弟の片割れを、見逃してあげたんだぁ。これって命令違反?別にいいよね、一匹くらい』
あれが、
ぎゅっと
「彼はそれ以来、妖魔や魔物、出遭った魔族を殺しまくったそうです。道士が殺生をするのは禁じられており、将来有望とされていた彼は当然門派を破門され、付いたあだ名が"暁の餓狼"。魔族を憎む復讐者となったわけです」
淡々と
「あなたが感じた縁は、そういう因果からだったのでしょう。これ以上彼に興味を持つのは、」
「僕の眼は、少し変わってて、」
諭そうとした
「魔眼の能力のひとつなんだと思うけど、僕の眼には、自分と繋がりが深いひと、深くなるだろうひととの縁が、色の付いた糸になって見えるんだ。
だから、絶対に逃したくないと思った。
離してはいけないと思った。
「だからね、
青色が何を意味するかはまだよくわかっていなかったが、それよりもその先に伸びていた二色の糸が気になった。赤は強い繋がり。黒は·····。
「そのふたつの糸のひとつが、彼だったと?」
ううん、と
「僕もびっくりしたんだけど······。赤い糸と黒い糸、そのどれもあのひとに繋がってたんだ」
この時は黒い糸の意味もわからなかった。良いものではないのかもしれない。けれどもひとりにふたつの糸が伸びていたのは初めてで、
けれども、
黒い糸の意味。
それはおそらく、"悪縁"だろうと。
「僕があのひとを知りたいと思った答えは、まだ出ていない。でも、前に約束した通り、この事件が解決したらさよならをする。それでもふたつの縁が本当なら、きっとまたどこかで出逢うことになる。その時、どちらの縁がきっかけで出逢うことになるか······考えると怖いけど、でも、それでも、」
はい、と
「それでもあなたは、知ることを絶対に諦めないんですね?」
「うん、」
あの悲し気な笑みはどこかへ消え去り、いつもの人懐っこい笑みが
「話してくれてありがとう。僕の事を心配して、鬼谷のひとたちにわざわざ調べてもらったんだよね?嫌な役をさせちゃってごめんなさい、
「いいんですよ。私が気になって調べてもらっただけです。あなたは私の友ですから、心配するのは当然のことです。それに、嫌な役目を引き受けるのは、私の楽しみなのでお気になさらず」
ふふ、と可愛らしい笑みを浮かべて、
そのためなら、いくらでも嫌な人間になろう。
「それにしても魔眼の力は未知数ですね。あの時、賽子の目を揃えたのは、どういう仕掛けだったんですか?」
ふたりは遅れた分を取り戻すため、民家の屋根と屋根の間を飛び越えながら最短の道を進む。それでも余裕があるのか、ふと思い出したことを
あの時初めて魔眼の力に気付いたが、それがどういう原理でああいう結果を齎したかはあえて訊いていなかった。
「あれは、
五歳で神童などと呼ばれていたのは、能力を使っていたからでもある。
「まあ、だいたい予想通りの答えでしたね」
「そっか。やっぱりわかってたんだね」
だが
楽しく会話をしながら、気付けば町が随分と遠ざかる。
月が導く中、ふたりは町の外、罠を仕掛けた最終地点へと辿り着いた。
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